イスラム教にとって大切なラマダンが3月10日から始まる。イスラエルはこの時期に合わせてラファを攻撃すると見られており大惨事は避けられそうにない。アラブ・イスラム圏だけでなくEUからも非難する発言が相次いで聞かれるようになった。
アルジェリアが国連安保理に停戦決議提出することになっていた。だが、これを阻止したいアメリカ合衆国は拒否権を発動すると宣言していた。実際にアルジェリアが提出した即時停戦案はアメリカがブロックし否決された。
「今回もアメリカはイスラエルを支援し続けるのか」と思っていたところ、一転してアメリカ合衆国が独自提案を出すというニュースが伝わってきた。これは大きな進展なのではないかと期待したのだが、どうやら単なる議会対策だったようだ。
こうした議会工作が国際世論から顰蹙を買うことは間違いがないのだが、アメリカ国内ではこうした工作が横行している。アメリカは国内の常識を国際社会に持ち込んでしまい国際社会をうんざりさせることになってしまった。議会対策では手練れとされていたバイデン外交の限界を感じるが国際社会はこの限界に翻弄され続けている。
イスラム教にとって重要なラマダンが3月10日から始まる。これに合わせてラファに対して大きな攻撃があるとされていた。すでにパレスチナ人140万人程度がラファに集まっているとされておりこのまま攻撃が始まればおそらく大惨事につながるだろうが、戦時内閣に参加する前国防大臣は攻撃に前のめりになっている。
2月19日のCNNはトーマス・グリーンフィールド国連大使の発言を伝えている。大使は「アルジェリアが停戦決議を出してもアメリカが拒否権を発動する」と宣言していた。アメリカが主導してエジプトやカタールと協働し6週間の停戦交渉を進めているため国連安保理での停戦決議は必要ないという立場だった。
この決議案はアラブ側からの反発を背景にしている。1967年にイスラエルがパレスチナの占領を始めてからヨルダンが中心となり多くのパレスチナ難民を受け入れてきた。今回のガザ侵攻とそれに伴って行われている西岸地区の統治強化はパレスチナ地域からアラブ人を追い出すための行動の一環と見做されておりエジプトはラファを取り囲むように壁を建設し域内にパレスチナ人が流れ込んでくるのを阻止しようとしている。またICJではパレスチナのイスラエル占領政策を評価する審議が始まっている。法的拘束力はないそうだが国際社会の圧力は高まり続けている。
こうした緊張を背景にハンガリーを除くEU加盟国の外務大臣が共同でラファへの攻撃停止を求める共同声明を提出した。人道的な即時停戦とハマス側の人質の全員解放を求めるとするものだ。アメリカの主導力不足に苛立ったEUもついに停戦圧力をかける側に回ったのだ。
その後しばらくしてアメリカがガザ停戦決議案を国連に提出した。これは前向きな動きなのではないかと感じたがどうも様子がおかしい。アメリカはアルジェリアの提案を拒否権で潰したが、アメリカの決議案がいつ採決されるのかはよくわかっていない。
アルジェリア案は即時停戦を求めているがアメリカ案は「可能な限り速やかに」としている。これは安保理メンバーの期待に沿ったものではない。またバイデン政権当局者は「採決を急ぐつもりはない」としている。
おそらく単なる時間稼ぎなのだ。
アメリカ合衆国(バイデン政権)にとって停戦は自分たちの仲介によって勝ち取ったものでなければならない。EUやイスラム圏などの強い圧力によって「屈服した」とみられてしまうとトランプ政権からの攻撃材料として利用されるだろう。選挙対策上これだけは絶対に避けたいというのがアメリカの本音なのではないか。
「道徳的・人道的」には眉をひそめたくなるような対応だが、この手の議会対策はアメリカではむしろ当たり前になっている。
アメリカ合衆国はウクライナ支援についても国際社会から「早く予算を通すように」とプレッシャーをかけられている。下院超党派はアメリカに集まる道徳的批判を避けるために新しい提案を策定し国際社会の期待に応えようとしていた。だが下院議長の決断は「議会の休会」だった。ABCが次のように伝えている。議会を閉じてしまえば審議はできない。つまり決断から逃げたわけだが、その間に超党派が諦めてくれることを期待しているのかもしれない。3月5日には大統領選挙の最初の山場であるスーパーチューズデイがある。
The proposal may lose some momentum given the timing of its release — just before the House embarked on a nearly two-week recess. The House returns to session on Feb. 28.
大統領選挙を有利に進めるためには「バイデン政権が何もできていない」という形を作ることが重要だ。一方でバイデン政権も「自分たちが全て主導した」という形が欲しい。全てがアメリカの大統領選挙を軸にしており国際社会はこのアメリカの議会対策に振り回されている。
このようにイスラエルは国際世論の反対を押し切ってガザ戦争を続けている。しかしながら「イスラエルの国益を考えるとそれもやむを得ないのではないか」という人がいるのかもしれない。だがイスラエルの犠牲は極めて大きなものとなっており本当に国益に資するものなのかは極めて疑問である。
BBCは「【解説】「完全勝利」を求めるイスラエルと多大な犠牲」のなかで、イスラエルの姿勢を批判している。ガザ地区のパレスチナ人が犠牲になっているが現実問題として国際社会はこれを抑止できていない。
一方でBloombergの分析はもっと直接的だ。イスラエルのGDPが年率で19.4%減少したそうだ。企業活動が麻痺したうえに何十万人もの予備役が徴収されているからである。2023年通年では2%の成長になるそうだが、2024年がどうなるかはネタニヤフ首相ら戦時内閣の意思決定にかかっている。
今のところイスラエルの戦時内閣には紛争を早期解決する努力は見られない。つまりこのままで行くと多くのガザ地区では多くの人道的死者が出るだけでなくイスラエルの国民も犠牲になる。アメリカの国際的信用も低下することになり様々な地域に影響が出ることも予想される。冷静に考えれば誰一人トクをする人などいないのだが国際社会は大惨事に向けて突き進み続けている。