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アメリカ合衆国がパレスチナ国家承認の検討を始める

主にイスラエルの国内事情に起因してネタニヤフ政権がガザ戦争をやめられなくなっている。人道犯罪に連座する形となりそうなアメリカ合衆国は内部的にパレスチナ国家承認の検討を始めた。

とはいえパレスチナ国家は西側先進国(日本を含む)以外では既に承認されており「今更感」は拭えない。パレスチナ国家の承認計画はオバマ政権時代にも提案されたことがあるそうだがその時には真剣に議論されなかったという。

アメリカ合衆国は従来「パレスチナ国家の承認は当事者間(イスラエルとパレスチナ)によってのみ実現する」との立場だった。しかしこの「実験」は失敗に終わりつつあり、ガザ地区は今や巨大なガス室になりかけている。ラマダンの時期まで戦闘が続けばおそらくかなりの惨事になるのではないかと懸念する声が聞かれるようになった。

ガザ地区の大惨事を防ぐことができるかどうかは西側の政治的意思にかかっていると言えるがその決断には政治的コストがありなかなか実現が難しいという状況が続いている。

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このままではガザ地区は「21世紀の新しいガス室」になりそうだ。イスラエルはハマスを掃討するためと称してパレスチナ人を南に追い詰めてきたが今度は南部にあるラファを攻撃するとしている。回避するためには140万人いると伝わるガザ地区の住民をどこかに避難させなければならないのだがイスラエルはその案を提示していない。「エジプトが国境を開けば全ては解決する」イスラエルはそう考えているのだろう。

一方でエジプトは国境の南側に緩衝地帯を作り壁を建設し始めている。ラファの国境が破壊されることを恐れているようだ。難民がなだれ込むのを防ぐために収容施設を作り壁を建設し南下を食い止めたい考えだ。

先頃、バイデン大統領はメキシコとエジプトの大統領を間違えて顰蹙を買った。一般的には高齢による失言と見做されている。だが、エジプトをアメリカ合衆国に置き換えるとだいたい似たような状況を抱えていることがわかる。高齢になると不都合な嘘を隠すのが下手になる。

では、アメリカ(バイデン政権)はこの状況をどうしたいのか。NBCに記事を見つけた。この記事はアクシオスの記事を参照しているので、これも探して読んでみた。

バイデン政権は「ガザ戦争の終結後」にパレスチナ国家の承認を推し進める可能性がある。これは歴史的には大きな変化だ。このニュースを最初に伝えたのはアクシオスだ。イスラエルを支援する人たちからの反発は予想されたがパレスチナ支持者からも歓迎されていない。提案は単なる時間稼ぎと見做されている。

パレスチナ国家の承認が実効性を持つには

  • パレスチナのイスラエル占領集結
  • ヨルダン川西岸の入植地の撤去
  • パレスチナとイスラエル国家の国境の策定

が同時に起こらなければならない。

ユダヤ系イスラエル人の59%がパレスチナ国家の設立に反対しており特に右派の抵抗が激しい。ネタニヤフ首相もパレスチナ国家という案には反対しており合意の可能性がない。

ではその提案とはどんなものなのか。元になったアクシオスの記事は次のような内容である。

ブリンケン国務長官が国務省に提案を出すように指示した。具体的な政策変更ではなく「政策の選択肢を作るように」という指示にとどまっている。つまりたたき台だ。従来アメリカ合衆国は「この問題は当事者の間で話し合われる問題であってアメリカは介入しない」との姿勢だった。しかしながらガザでの戦争において当事者間で合意が作られる可能性は限りなく低くなっている。そこでアメリカがまずパレスチナ国家を認めてしまおうということになった。

考えられる選択肢は次の通りだ。

  • アメリカ合衆国がパレスチナ国家を承認する。
  • パレスチナが国連加盟を申請した時に国連安保理で拒否権を使って妨害しない。
  • 他国にパレスチナを承認するよう奨励する。

またこの構想に合わせてパレスチナ国家の非武装化やイスラエルとサウジアラビアの国交正常化などが話し合われている。こうした提案はオバマ政権下でもあったが、オバマ政権では真剣に議論されなかった。

アングロサクソン国家としてのアメリカは曖昧さを保つことで国益の最大化を図ることがある。台湾とパレスチナがその一例だ。パレスチナではこの戦略が破綻しかけているのだが、それでも意思決定ができない。ブリンケン国務長官はイスラエルとアラブの板挟みになっている。最も難しいのが「和平を実現した後」をどうするかである。当事者を加えて議論をしなければならない。だが、そもそもアメリカ合衆国がその当事者を認めていない。イギリスもフランスもこれに気がつき始めており「パレスチナ国家の承認はタブーではない」というメッセージを発信している。

しかしながら、この一連の発言は西側先進国にとってパレスチナ国家の承認のハードルがいかに高いかを物語っているのかもしれない。

西側にとって最も安易な解決策はヨルダンやエジプトなどの周辺国に援助を行い難民を押し付けることだ。だが、アフリカでは既に気候変動を原因とする難民が大量に発生している。エジプトは「難民」数だけで見るとさほど多くの人を引き受けてはいない。だがこの「難民」の定義そのものが揺らぎつつあるようだ。

これまで「難民」といえば紛争から逃れてきた人を意味していた。だが、気候変動を原因にして治安が悪化し経済移民とも難民とも区別できない人たちが大量に発生している。日経新聞の記事によると、2050年までに北アフリカで1900万人、サブサハラで8600万人の気候難民が出ると言われている。つまり1億人以上の難民が発生する可能性がある。

2023年の上半期だけで世界中で1億1400万人以上の難民が出ているとされている。直接の原因は武力衝突だが気候変動に関連した災害もこの人数増加の要因となりつつあるそうだ。

世界各地で統治が破綻した地域が出てきているのだからパレスチナだけを特別扱いして国連の信託統治にするようなことはなかなか難しいのだろう。だが自治政府をつくろうとしても「結果的には西側に反乱を企てる国家がまた一つ登場するだけではないか」という怯えがある。長年様々な問題を放置してきたつけとはいえ西側諸国は難しい決断を迫られている。

さらにいえばパレスチナ問題はたまたま西側のカメラに捉えられただけの特殊な地域だということもできる。実際にはカメラの外にも多くの難民が発生している。

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