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中国の不思議なSNS事情 3年間で日本とフランスのGDP分の資産が消失するがSNSでの批判は皆無 

Forbesが「時価総額1000兆円消失すらかすむ、中国から届いた「最悪のニュース」」という記事を書いている。

中国では3年間で1000兆円程度(7兆ドル)の株価の時価総額が失われたそうだ。これはフランスと日本のGDPを合わせた金額とほぼ一緒だという。途方もない金額だ。日本のGDPは600兆円弱なので「日本2つ分弱」と言っても良い。ところが中国のSNSでは批判の声が聞かれないという。当局が徹底的に「対処」しているためである。

「国民を監視し言論を弾圧するとは……」と批判したくなるのだがどうもその批判は正しくないようだ。金融リテラシーのある国民は既に状況がわかっていて資産を国外に逃している。一方で取り残された人たちはローンを延々と支払うことになりそうだ。そもそもこのマネーゲームに全く参加できていない農民戸籍の国民も大勢いる。

結果的に資金は香港から東京に流れている。この後の習近平国家主席のミッションは不満を持った一般都市戸籍層と農村戸籍の暴発を抑えることなのかもしれない。世界中で経済難民が発生している。気候変動だけで2025年までに2億人の難民が出ると言われておりここに中国の14億人が加わるのも考えものだ。習近平国家主席には頑張ってもらう必要があるのかもしれない。

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Forbesの記事は個人主義的な民主主義国家らしい感覚で中国を批判している。アダム・スミス流の自由な経済は自由な情報交換があって初めて成り立つ。イギリスで新聞が発達したのもアメリカ合衆国が拓かれたのもすべてこうした「自由市民」と「言論の自由」のおかげである。欧米の人が言論弾圧に嫌悪感を抱くのは当然だろう。

記事によると中国の情報機関である国家安全省は中国の経済見通しについてネガティブな見解を広めるものを「見張っている」と明らかにしたという。このため企業も警戒を強めているという。シティグループは中国本土を訪れるプライベートバンカーたちが不用意な発言しないように呼びかけている。

さらにウェイボーの一部のユーザーたちに「中国経済の悪口を言わないように」と警告しているという。中国は言論統制はそれほど難しくない。ネット人口はだいたい10億人程度なのだそうだが、アカウントを閉鎖してしまえば済む。

ただ、中国で金融リテラシーのある人たちは資産を海外に流している。どこから情報を取っているのかはよくわからないが彼らは彼らで独自の情報網を持っているのだろう。問題はバブルに乗って「お祭り」に参加した一般の人たちだ。SNSで「政府に騙された」となっては困る。富裕市民によって成り立った欧米の資本主義との決定的な違いはこの市民階層の未成熟さにある。

NRIにも中国株は過去3年の間に一貫して下がり続けてい流とする記事が見つかった。中国政府は2023年に入って株価対策を始めた。空売りを禁止したり「株価対策」の責任者を解任したりしている。だが中国経済の不調の根幹は不動産市場の悪化である。また鉄鋼やEVなどで供給過剰が起きており経済はデフレ状態にあるものと見られている。NRIの木内登英氏は中国の株価対策は弥縫策(その場しのぎ)に過ぎないと断じる。

こうなると「中国経済はバブルが弾けて大変なことになるのではないか」と考えてしまうのだが、実際にはそうなっていない。富裕層は粛々と資産を外に逃す。一方、一般市民層は共産党政権に管理されている。

中国人資産家はおそらくそもそも最初から政府やメディアを信頼などしていない。SNSでは情報が消えているが粛々と資産を海外に移している。彼らがどうやって情報を取っているのかはよくわからないが、メディアもSNSも信頼していないからこそ独自の情報網を持っているのではないだろうか。

2023年には5年ぶりに資金流出が起きており、2024年だけでも20億ドル(約3000億円)が海外に流れている。Bloombergはそのうちの半分が米株に流れ1/10強の2億400万ドルが日本に向かっていると指摘する。つまり、現在のアメリカや日本の株価が好調な背景には中国の不調がある。一時は香港を窓口に中国本土に流れ込んでいた資金が逆流しその一部が東京にも流れ着いてきたことになる。

実際に中国に対する国際投資も減っている。原因は極めて明確だ。中国経済が不調になると習近平国家主席が言論統制を強める。世界の民主主義にとっては不幸なことだ。だが、香港が没落して最も得をするのが東京だというのもまた確かなことである。言論統制の効果はてきめんだった。直接投資が前年比で82%も減ったそうだ。

例えば台湾のTSMCが熊本県菊陽町に工場を移転しただけで菊陽町では人件費バブルが起きている。

ではこの失われた「資産」は誰が負担することになるのだろうか。SNSのXのタイムラインを見ていたらこんな記事を紹介している人がいた。この記事にどれくらいの信頼性があるかはわからないが「推定」としては面白い内容だった。株価下落の原因は不動産なのだが、その不動産の費用を最終的に誰が負担するのかという話だ。

記事は中国の状況を次のようにまとめている。

  • 中国には14億人の人口があるとされている。そのうちゲームに参加しているのは都市戸籍6億人である。農民戸籍を持つ8億人は最初から排除されている。
  • 農民戸籍のうち2億人は都市に住んでいるのだが企業寮に住んでおり農村には家があるから住むには困らない。
  • 都市には5億戸の住宅があるとされるがそのうち3億戸は空き家だ。農民は家が買えないし買っても働く場所がない。
  • 中国のGDPに占める不動産の割合は1/3程度だ。
  • 一世帯あたり2.5戸の住宅を持っていると言われている。いうまでもないことだが1世帯が必要とする家は1戸である。
  • 住宅価格は2.5戸分で5000万円である。また1世帯あたりのローン残は500万円程度だ。
  • 肝心の世帯資産だが、これは住宅が売れる価格から500万円を差し引いたものになる。だがバブルが崩壊すると住む人がいない住宅の資産価値はゼロとなりローンだけが残る。

この記事は失われる資産総額は7600兆円と書いている。Forbesの記事(3年間の株価の時価総額の損出)に比べると7.6倍とということになるのだが一気に消失することはなく徐々に消えてゆくだろうと予想している。あくまでも平均ではあるが1世帯の平均年収分くらいのローンを延々と返し続けてゆくということになる。NRIの記事には「そもそも完成していないか完成する見込みのない住宅」もあるということなので売れないどころか単なる借金だけを抱える人がでてくるのかもしれない。

中国は民主主義を経験したことがない国なので自分たちの問題を自分たちで話し合って解決した経験がない。やっていいことと悪いことは共産党が決めてくれるため自分たちでは考えないで済む。

そんな中国人の気質がよく表れているのが爆竹である。春節は賑やかであればあるほどいいことになっている。このため爆竹を鳴らしまくるのだが、やり過ぎてしまい時々死者が出る。すると当局が爆竹規制に乗り出し事態を収拾するる。爆竹規制が強まると国民が不満を感じ「爆竹をやらせろ」と訴え出る。ずっとこれを繰り返しているのが中国である。

つまり習近平国家主席がこのまま中国を統治してくれた方が日本にとっては好ましいということになるのかもしれない。言論統制で外資が寄り付かなくなるため資本は東京にも流れてくる。また管理が緩むと国民は何をしでかすかがわからない。

中国の「資本主義」はいわばドーピングされた「資本主義実験」だったわけだがかなり収拾が難しい状態になっている。ただし管理経済なので中国政府が監視することによって「なんとかする」のだろう。あとはこの国民の不安が外に向けて暴発しないように過度な刺激を加えないように外からしっかりと監視してゆく必要がある。

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