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日経平均は絶好調だが国民生活は困窮 今後日本の株価はどれくらい維持され、どのように崩れるのか

企業業績は好調で株価もバブル後最高値を更新し続けている。史上最高値も更新するのではないかと言われている。国家収支も絶好調で2023年の収支は20兆円余の黒字だった。一方で国民生活は疲弊しGDPは停滞かリセッションという状態に入った。「統計の誤差か一時的なものであればいいのに」と痛切に感じる。

SNSのXでは「実態経済を映していない今の株価はバブルにすぎないのだからやがて崩壊するはずだ」というコメントが散見された。金融リテラシーのなさが浮き彫りになる感想だ。政府によって困窮させられている庶民経済から見ると確かにそう見える。だが、ニューヨークの株価は30年あまりの間に14倍以上も値上がりしている。企業収益も好調で日本には年間で20兆円ものお金が流れ込んできている。

では東京の株価はどのような推移を辿るのか。このまま好調な経済を反映しH3ロケット2号機のように大気圏に突入するのか。それとも失速して落ちてしまうのか。

実は現在の株価は非常に難しい状態に陥っている。責任とを取りたくない政府は「全て日銀のせい」にしたいと考えているようだ。鈴木財務大臣の発言からその難しさがよくわかる。

所得倍増計画計画の立案者である下村治はかつて「闇市の経済を国民生活に還元できれば日本の経済はもっと良くなる」と考えた。実際にその着想は1960年に花開き高度経済成長を実現させた。現在の状態に置き換えれば「好調な企業の儲けを国民生活に還元できれば国民生活はもっと良くなるのに」ということになる。かつてできていたことがなぜ今の自民党にはできないのか。さらに言えばそれに代わる政党が現れないのか。考えてみたが理由はよくわからなかった。

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かつて下村治は闇市をみて「この活況を国民生活に活かせれば国民生活はもっと良くなるだろう」と考えたなどとされている。これに「みんなの給料が良くなる」というラベルを貼って国家目標にしたのが池田勇人氏だった。池田氏の集まりが岸田氏が潰した宏池会でありその後この計画は「所得倍増計画」と呼ばれた。かつての名門派閥は無能なの領袖を選んだことでついにその長い歴史に幕を下ろすことになった。長い歴史の中で自民党は政策立案能力を失いつつあることがよくわかる終焉だった。

所得倍増計画を現代に置き換えれば「企業の海外収益を国民生活に活かすことができればいいのになあ」ということになるのだが、この手の発想が自民党の内部からも外からも出てこない。派閥は単に脱税まがいのマネーロンダリング装置に成り下がり、提案できない野党も裏金問題ばかりを追求し続けている。国民には代替選択肢がなく政治について意見を言っただけで周りの人たちに避けられると言う独特の風土もある。

まさに悪夢である。

とはいえ現状を嘆いてばかりいても仕方がない。さらに言えば「そんな面倒なことはどうでもいい」という人も多いかもしれない。今の好調な株式市場に乗るべきかどうか迷っている人も多いのではないか。

そこで、現在の経済状態について記事を探すことにした。今回はたまたまTBSNewsweekの記事が見つかった。Newsweekの記事は冷泉彰彦さんのものである。ざっくりと合成してまとめるとだいたい次のようになる。

  • 円安により輸出関連企業の業績が押し上げられている。国内市場が成長しているわけではなく水脹れの状態ともいえる。
  • 円安で日本株がバーゲン状態になっている。中国の投資マネーも日本市場に流れ込んでいるようだ。
  • 好調な企業利益は日本国内には還元されない。
  • バブル期との比較で言えばドル円の相場で言えば142円と149円であまり変わらない。だが、34年前と比較してニューヨークは14倍も値上がりしている。日本はやっと34年前の水準に戻した程度である。「史上空前だ」「もう崩れるのではないか」などと言われているが実はそもそも日本の株価はこれまで低すぎた。
  • 世界各国は思い切り国家財政を悪化させていて日本はまだマシという状態になっている。
  • ただし日本もやがて金融引き締めに転じるのではないかと期待されている。金融引き締めに転じると円高となり値頃感があった株式の価値が上がる。その時が海外投資家にとっては売り時なのではないか。

冷泉彰彦さんの指摘には次のような一節がある。つまり海外から資金が流れ込んでもそれが国内市場に還流されにくいという。目の前に高速道路が通っていて車がぶんぶん通っているが誰もインターチェンジ(国内市場)で降りてくれないという状況である。

というのが理由です。多国籍企業や商社の場合、世界で稼いだカネを日本に還流させてくれれば、円経済での本物の景気に寄与するのかもしれませんが、実際は外国で稼いで外国で再投資されることが多い傾向があります。また、株主の多くが外国の投資家ですから、儲かったカネを配当すると結局は海外に流れてしまいます。

冷泉さんは「日本に還流させれば」と言っているが政府には期待しない。政治的リテラシのある人としては当然の態度なのかもしれない。その上で次のようなシナリオを予想する。

  • 日銀が金融政策を引き締めに転じると円高になる。外国人が円安を理由に日本株を買っているとすると今後は利益確定で売り出すことになる。すると企業業績(円安による見せかけで現在は良くなっている)は悪化し同時に株価も下落するだろう。
  • 逆に異次元漢和を先延ばしにすると国内は成長が起きないため産業や人材が流出する。

なお冷泉さんは「資産が流出する」とは書いていない。だが、これもすでに始まっているのではないかと思う。金融リテラシが高い一部の人しか気が付いていないため大きな問題にはなっていないだけだ。とは言え根拠なく書くわけにもいかないので以前提示したBloombergの「円安を助長する新NISA、日本の個人投資家は世界の株式や債券選好」という記事をあげておく。

この「日本経済が二極化している」という構造理解は極めて重要だ。冒頭に「現在の株価は崩れる可能性が高いという予想は金融リテラシーのなさからくる」と書いた。根拠は次のとおりだ。

  • そもそもニューヨークの株式はもっと値上がりしているのだから「バブル後最高値」程度は驚くに値しない。
  • だが、全く成長していない日本国内だけを見ているとあたかも根拠なく上がっているように見える。
  • さらに、現在の株価は円安による期待感が背景にあることも確かだ。本来の実力ではないため現在の価格が維持される保証もない。

いずれにせよ今後の日銀の金融政策に株価が大きく影響を受けるのは間違いがなさそうだ。まずドル円の予想と日銀の政策についてみてみよう。

前回参照したBloombergのドル円予想は130円台後半だった。ロイターのコラムでも130円割れは定着しないだろうとしておりこの見方をサポートしている。一時的なサプライズで大幅な円高に触れる可能性はあるものの日銀が積極的な利上げに動くとは考えにくいため130円台がターゲットになるだろうとの見通しである。150円台で「しまった、乗り遅れた」とドル買いに走るのはちょっと危険かもしれない。情報を集めた方がいいだろう。

では現状維持と金融緩和のどちらのシナリオがとられる可能性が高いのか。政府は意外と正直だ。好調な時にはやたらとフリーライドしたがるが難しくなると逃げる。そして今は逃げている。つまりあまり良くない局面なのだ。

岸田総理は当初「明るい兆しがそこここに見られる」としていた。2021年10月はコロナ対策でアメリカが積極財政を行なっていた時期だ。次第にインフレ懸念が起きるのだがバイデン政権はこれを無視し続けた。やがてインフレが制御不能になるとFRBが慌て出した。今度は急な金融引き締めが起きリセッション懸念が生じる。これが2023年の梅雨から夏頃にあたる。どうやら2023年の上半期と下半期では日本の経済状況は大きく変わったようなのだがちょうどアメリカで金利が上がり始めてリセッション懸念が生じていた時期と重なっている。

成果が上がらなくなると政府はどうするか。意思決定から逃げるようになる。

ロイターは次のように書いている。ロイターの記事は国内の金融関係者が書くと証券会社の思惑が絡むことがある。円安による「水脹れ」を指摘している。おおよその趣旨は以下の通りだが詳しくは記事を読んでいただきたい。

企業業績は好調だったがテクニカルリセッションに入ったことで日銀が超金融緩和政策を終わらせることを正当化しにくくなった。企業業績が良かったのは円安による偶然の産物でありGDP全体の暗さを覆うほどではなかった。

つまり好調な企業はあったが国内の消費が悪すぎてそれをカバーできなくなったと言う見立てである。日本が輸出企業牽引型から内需型の国に移行していることがわかる。岸田政権は増税不安を煽り政治とカネの問題も説明しなかった。こうしてあらゆる政策手段を使って内需を潰してきたのだからこれは当然の帰結だ。NRIも実質賃金の上昇は2025年後半になるかもしれないと言っている。木内さんは「そもそも『デフレ脱却』は政治的アピールだった」と言っている。最初から中身に乏しい主張だったのだ。金融リテラシのある人の政治観はどれも厳しい。

物価上昇率の低下を受けて、実質賃金は2025年の後半にはプラスになると予想されるが、その頃には物価上昇率も1%程度に下振れ、もはやデフレ脱却とは言えなくなるのではないか。

そもそも政府のデフレ脱却目標は、国民のために政府がデフレと闘う姿勢を国民にアピールし政治的求心力を高める狙いがあった。達成したと言わずに達成を目指し続ける方が、政治的には得点となるのではないか。この点から、少なくとも岸田政権がデフレ脱却宣言を出す可能性は低く、それ以降の政権のもとでも、デフレ脱却宣言は出ない可能性があるだろう。

政治的無責任という現在の環境下では金融当局(財務省と日銀)がどんな選択をしてもなんらかの痛みを伴う。責任を取りたくない鈴木財務大臣は「具体策は日銀にお任せする」との姿勢を貫いている。立憲民主党に言質を取られたくないという気持ちもあるのかもしれない。こんな時によく出てくるフレーズがある。それが「注視する」「状況を見守る」だ。

鈴木俊一財務相は16日の衆院財務金融委員会で、日銀の金融政策変更とデフレ脱却判断の関係について「政府としてデフレ脱却がマイナス金利解除に連動するかどうかはコメントできない」と述べた。政府がデフレ脱却宣言をするのかは「いまのところ確たることは決まっていないと承知している」と語った。野田佳彦委員(立憲)の質問に答えた。

この時に「政府としては日銀の独立性を維持しなければならない」と言っている。民主党政権が終わった時には散々「民主党政権が終わり自民党が金融政策を変えたから経済が良くなった」と宣伝していたことを考えると随分都合のいい「独立性」だなと思うが、裏金問題を対処しない理由として「憲法の表現の自由」を上げているくらいだ。まあこれくらいのことは言うだろうなとは思う。

ロイターの表現は次の通り。

 鈴木俊一財務相は16日の閣議後会見で、実質国内総生産(GDP)が2四半期連続マイナスとなったことで日銀のマイナス金利解除が後ずれするとの観測が浮上していることに関連し「市場にいろいろな見方があることは承知している」としつつ、「日銀の独立性を尊重しないといけない」としてコメントを控えた。その上で、金融政策における判断は日銀に委ねる姿勢を示した。

自民党の姿勢も酷いものなのだが野党の側から大胆な提案が出てこない理由がよくわからない。

企業の労組に依存する立憲民主党と国民民主党は抜本的な構造改革を望んでいないのかもしれない。共産党はそもそも資本主義など理解するつもりはないという政党なので「資本家から資源を奪ってきて労働者と市民に分配する」と言うような過激なメッセージばかりを発信している。ただ維新にはそのようなしがらみはないはずだから単に勉強不足なのかもしれない。いずれにせよ、池田勇人・宏池会時代の「循環」という概念を正面から捉えている政党がないのは気がかりだ。

なぜ昔の日本人は実効性のあるプランを出すことができたのに今の日本人にはそれができなくなっているのだろうかと考えてみたのだが結論は出なかった。「あの頃はみんなお腹が空いていたから一生懸命考えることができたのかもしれない」という極めて非科学的なアイディアしか思い浮かばなかった。

となると政治資金を大幅に制限して料亭や高級ホテルに行けなくなるくらいのことをしないと政治家からいい案は出てこないのかもしれない。結局人はお腹が空かないと考える気にならない。

政治的無責任とアピール合戦にさらされる現在の状況はまさに悪夢だがそれでも国民はこの所与の環境でなんとか自分達の生活を「自己責任」で守らなければならない。何もしなければ乗り遅れるだけだし誰かのアドバイスに従って資産を失っても誰も責任は取ってくれない。だがよく考えてみれば「投資」について学校で学んだ記憶がない。溢れる情報を意思決定に活かすためには「情報の組み立て」が大切だが、どうやって組み立てればいいかを学んだ記憶もない。多くの人は非常に厳しい状況に置かれていると言えるだろう。

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