CNNが「米国のNATO離脱、トランプ氏の本気度はかなりのもの」というオピニオン記事を書いている。社説のような感覚のもので公平な報道記事ではないがトランプ政権でNATO離脱が起こり得るかを分析した内容だ。
アメリカのエスタブリッシュメントの間では「アメリカの国益はNATOなどの同盟国との強い結びつきによって支えられている」という見解が広く浸透している。日本もアメリカのエスタブリッシュメントたちに対してこの見解を売り込んできた。結果的に日本は安定した通商環境を低いコストで享受することができていた。
しかしながらトランプ氏はこの見解に賛同していないようだ。その根拠として挙げているのが1987年のニューヨーク・タイムズに掲げられたトランプ氏の意見広告である。全面広告でトランプ氏は「日本をはじめとする他国はアメリカを食い物にしている」と主張した。さらにニューハンプシャー州の演説で日本とサウジアラビアが「我々をカモにしている」と断定している。トランプ氏は「昭和」の感覚をいまだに持っておりこれが外交戦略の基本になっている。
元々トランプ氏には日本をはじめとする同盟国にフリーライドされているという被害者意識がある。NATOに対する働きかけもその一環にすぎない。トランプ氏の感覚は40年前に固定されており同盟国が働きかけたとしても「理解していないか理解しようとしていないか」だと記事は断じる。
日米同盟に依存している日本としては「そうはいってもアメリカには優秀な官僚や軍人がいてトランプ氏をなんとか制御してくれるだろう」と思いたくなる。
ところが実際にはそうなっていない。トランプ大統領は「韓国に対して撤退を迫り大幅な譲歩を引き出そう」と考えていたが周囲の反対にあったことが知られている。周囲はトランプ氏は間違っているとは言わず「在韓米軍撤退は二期目のお楽しみにとっておいてはいかがでしょうか?」と主張している。日本に対しても駐留経費値上げ圧力があったと指摘されており下手をしたら日米同盟破棄を仄めかして交渉を仕掛けかねない状況だ。日本と韓国では状況が全く違うはずだがトランプ氏がこの2国を区別しているかは定かではない。
少なくともNATO加盟国はこれを真剣に受け止めた。ドイツも防衛費2%を達成している。CNNの記事は「NATOも応分の負担をしているのだから」という根拠づけに使っているが、裏返せば「トランプ氏がこの問題を持ち出したからこそヨーロッパも真剣に受け止めたのだろう」と捉えられかねない。
ドイツの財政状況はかなり逼迫しており各種補助金を削ったことで農家がベルリンを封鎖するなどの騒ぎになっている。にもかかわらず防衛費を引き上げなければならないと考えるほど国際的な圧力と危機感が高まっている。NATOのストルテンベルグ事務総長も慌てて31か国中18カ国が2%を達成すると宣言しておりこれも「トランプ氏の働きかけの成果だ」と解釈されかねない。
となると当然「日本はどうする?」という話になってくる。日本のリーダーには3つの資質が求められる。
- アメリカが無理筋の球を投げてきても慌てずに対処できること
- 日本国民に信頼されていて負担増や必要な憲法・法律の改正についてきちんと説明できること
- 防衛費増強をアメリカの国益ではなく日本の国益に結びつけられるようなビジョンを持っているかまとめることができること
岸田総理に統一教会がらみの疑惑が出ている。だが、その対応は「自分を守るためのダブルスタンダード」だった。
閣僚たちには「統一教会に関する聞き取り」を行い関与したと自己申告した人たちを後退させている。さらに山際大志郎経済再生担当大臣にもあとから関与していた証拠が出てきたため結局事実上の更迭に踏み切った。だがこれは全て自分の内閣を守るための行動だった。今回は統一教会問題を所管する盛山文部科学大臣、林芳正官房長官、岸田総理という岸田派の三人に疑惑が出ているが問題視しない考えだ。盛山・林氏をこれまでの基準に合わせて更迭してしまうと今度は自分自身を「更迭」することになる。
こんな人にさらなる負担増を求められても賛同できる国民はいないだろう。と同時に統一教会に対して法廷闘争を仕掛ける際には当然予想された反撃だった。脇の甘さも気になるところだ。
さらにバイデン大統領に対して自分から2%の負担を持ちかけたのもよくなかった。国民にとっては唐突感のある提案でアメリカの言いなりになって防衛費を上げようとしているという印象がついた。このため国民の反発は強く財源の目処が立っていない。そもそも数字ありきの提案なので日本の防衛力強化につながるかどうかはよくわからないという不安もある。岸田総理は自分より強いものに取り入って守ってもらうとすることがある。その時に周囲への根回しを忘れる悪癖も持っている。どうも段取りを立てるのがあまり上手ではないようである。
いずれにせよ「防衛費2%」はすでにアメリカにとっては既成事実だ。アメリカ流の交渉術ではこの時に机の上に足を乗せ「2%は前にも聞いた。ところで他に何をしてくれるのか?」と聞くのがセオリーだ。相手が予想しない球を投げることで動揺を誘うというのが伝統的な手法だからである。すでに岸田総理は自らカードを差し出してしまっていることになる。外交によって成果を出して日本国民に認められたいと渇望する岸田総理は本質的に交渉が下手なのだ。
では、野党の指導者の方が期待が持てるのかという話になる。玉木国民民主党代表と泉立憲民主党代表の協議が当面行われないことがわかった。自民党との協議に失敗した玉木氏が泉氏に近づくのだが岡田幹事長に「反省するなら許してやる」と言われたことで態度を硬化させた模様だ。「まず維新と話し合う」としているが、こちらはすでに前原氏との間で会派ができているため玉木氏が入り込む隙間はない。目の前の政策連携の枠組みさえ作れない人たちが外国と交渉できると期待する人は誰もいないだろう。
日本は安全保障の問題よりも先にリーダーの枯渇という「資源不足問題」に直面していると言って良いのかもしれない。
トランプ氏再選の可能性が出てきたことで「こんな時に安倍さんがいてくれたら」とする記事を多く見つけた。日本の記事の中には「安倍総理はトランプ大統領とうまく渡り合っていた」というものが多い。そう思いたい人も多いのだろう。
ところが中にはこんな記事もある。40年前の偏見をトランプ氏がいまだに持っているという意見を採用するとどちらかと言えばこちらの方がトランプ氏の本音に近いのかもしれない。仮に安倍さんがうまくやっていたとしてもまだまだ不十分だったことになる。またさらに言えば安倍さんは自分の後継になる指導者を自民党に残さなかった。
ところが予想は外れた。トランプ氏は、輸入制限発動の前日である22日に「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」と宣言。日本を除外しなかったのである。
好調な株価や賃金上昇などを背景にして岸田内閣の支持率下落には歯止めがかかるかもしれない。週刊誌報道と赤旗に依存する立憲民主党の追求も迫力不足だ。
岸田総理は「得意の外交」で成果を上げて支持率を向上させたいと考えているようだ。安倍総理以来となる議会でのスピーチも決まったようだ。こうなると岸田さんがバイデン大統領にどんなお土産を持ってゆくのかに注目が集まる。
バイデンさんがそのまま大統領になってくれればまだいいのだが、仮にトランプ氏が再選した場合にはおそらくこのお土産に加えて「プラスアルファ」が要求されることになるのではないかと思う。
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