NBCが短い記事を書いており日本の媒体もこの話題を多く取り上げていた。バイデン大統領が周囲に苛立ちをぶちまけネタニヤフ首相をAss holeと呼んだという内容だ。一体何があったのか。
ネタニヤフ首相がガザ地区への攻撃をやめられなくなっている。極右の大臣たちは「軍事作戦を止めれば自分達は撤退する」と恫喝しており、これはネタニヤフ首相にとっては牢屋への一本道を意味している。ガザ地区の難民たちをラファに追い詰めた上で今度は「ラファを攻撃するから北に逃げろ」と警告した。
バイデン大統領は「ラファに攻撃するなら人道的な措置を講じるべきだ」と電話をしたと明らかにした。現在では6週間の停戦を提案していると表明している。国際的な批判を背景にネタニヤフ首相の後ろ盾という立場からの脱却を図っているのだ。
結果だけを見るとこのバイデン大統領の訴えは全く聞き入れられなかった。イスラエルはラファに攻撃を行い多くの犠牲者が出ている。イスラエル側は2名の人質が解放されたと主張している。つまり6週間停戦などしなくても今のままで成果が出るだろうというようなことを言っている。
NBCのニュースにはそのような背景がある。もともとバイデン大統領はネタニヤフ首相とはそれほど相性が良くなかったと言われているがその苛立ちはピークに達しているようだ。要約すると次のようなことが書いてある。
バイデン大統領は周囲に不満をぶちまけている。その原因はネタニヤフ首相で「彼は我々に地獄を与えている(giving him hell)」と言っている。バイデン氏はネタニヤフ首相をあいつ(this guy)と呼び少なくとも3回はネタニヤフ首相を「ass hole」と言った。
トランプ大統領の「狂った男」戦略がある程度の紛争抑止力になっていたことは間違いがない。ところがこの戦略には大きな副作用がある。それを解いてしまうと拡大した矛盾が爆発してしまうのだ。その爆弾処理を一手に引き受けているのがバイデン大統領だということができる。アメリカは「正義の味方戦略」と「狂った男戦略」の間で揺れ動いており、その度に世界情勢にネガティブなインパクトが出る。
バイデン大統領も行きがかり上感情をあらわにして見せなければならない。慣れないことをやっているせいなのか徐々に感情に歯止めが効かなくなっているようだ。とは言え、ネタニヤフ首相のように本気で破滅戦略をとる人たちを制御することもできずおそらくは意図的にメチャクチャなことを言って相手を動揺させる傾向があるトランプ氏をうまくいなすこともできない。言い間違いも加速しておりついに「記憶力が限定的だ」と指摘されるに至っている。このレポートには悪意があるが有権者たちがこれを深刻に受け止めているのもまた事実である。
ついにバイデン大統領はTIkTokに手を出した。「”lol hey guys」は若者言葉だが「おじさんが無理をしている」という痛々しさを感じる人もいるかもしれない。目から赤い光線を出す写真も使われており「一体あれはなんなのだ?」と戸惑いを感じる人もいるようだ。
とはいえトランプ氏が目に見えて優勢ということもないようである。こちらはこちらで有罪判決が出るリスクを抱えており「有罪判決が出ればトランプ氏には投票しない」という人も増えている。
こうした情勢が続く限り議会や世論を巻き込んだ過激な言動はなくならず、その度に世界中が大騒ぎになるという情勢は続くだろう。2024年のスーパーチューズデイは3月5日だそうだがそれまではますます過激な言動が繰り返されることとなる。その後は、バイデン対トランプという構図が生まれ直接の罵り合いが増えるものと予想される
一方のアメリカ経済は好調そのものである。消費者物価指数は市場予測よりも高い伸びを見せていて利下げは6月ごろになるのではないかと予想が修正された。ニューヨークの株価にはネガティブなインパクトがあったがそれでも株式市場は高い水準を維持し続けている。ドル円相場は当然円安に動いた。直前の日経平均は1000円以上の値上がりとなり投資家はホクホク顔だっただろうが150円を超える円安は株式などの資産を持たない一般庶民にとっては単なる悪いインフレに過ぎない。日銀・財政当局は円安を誘導していると見られるがさすがに150円を超えると介入への期待と警戒感が高まる。
格差が広がる日本同様アメリカにも同じ状況があるといえるだろう。
株や住宅などの資産を持っている人たちは加熱気味の経済の恩恵を受けることになる。だがおそらく恩恵を受けるのはごく一部だ。リーマンショック以降財産を失ない没落した中産階級も多くトランプ氏の陰謀論めいた言動を支持する人も多い。トランプ氏が過激化すれば過激化するほどバイデン氏もそれに付き合わざるを得ないわけで発言が不安定化し議会との交渉も難しくなる。
バイデン氏は今後も苛立ちつつも難しい現状に一つひとつ向き合わなければならない。側近たちの苦悩はしばらく続くことになるのかもしれない。