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フィンランドで右派のストゥブ大統領が誕生 核兵器の域内通過を容認

フィンランドで大統領選挙が行われた。昨今の大統領選挙は泥試合になることが多いのだがフィンランドの大統領選挙は国営放送を見ながら「どうやら私が負けたようだ」と素直に認めるという穏健なものであったと伝えられている。これこそが民主主義のあるべき姿だと賞賛する人がいた。

表面的な穏健さとは裏腹に安全保障上は大きな意思決定が行われた。これまで中立を貫いていたフィンランドはNATOの核の下に収まり域内の核兵器通過を容認するものと見られている。核兵器に対して拒絶反応が強い日本にとっては非常に考えさせられる内容だ。

ヨーロッパでは「脱アメリカ」の議論も始まっている。ドイツの軍事産業のトップがNATOが脱アメリカを目指すにしても10年程度はかかるだろうとの見通しをBBCに伝えた。これも日米同盟に依存しきっている日本から見ると非常に考えさせられる内容である。

日本の政治は「政治とカネ」の問題に夢中だが世界情勢は大きく変化しており通商国家である日本にとっては極めて厳しい状況になっている。これまでの安全保障議論の枠組みであった左右対立ではもう議論を扱えないのだ。

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フィンランドで大統領選挙が行われた。SNSのXである朝日新聞の記者が「なんというスムーズさ」と驚嘆していた。かつては当たり前の光景だった。だが、アメリカやブラジルなどの大統領選挙では負けた陣営が負けを認めないことが続いており、非常に新鮮に見えるのも事実である。

表面上の穏やかさとは裏腹に今回の大統領選挙では大きな意思決定が行われた。それが核兵器の扱いである。右派のストゥブ氏は核兵器の域内通過を認める立場である。フィンランドは長年ロシアに弱腰だという非難にさらされつつも中立を維持してきた。これをフィンランド化という。必ずしも中立を賞賛する立場ではなくむしろ悪口として使われることも多かったようだ。このフィンランド化が修正されNATOのもとで核の傘の恩恵も受けるという判断が行われたことになる。

日本では左右対立を背景に核兵器禁止条約に参加すべきだという議論と欧米が参加していないのだから参加しても意味はないという二つの極端な立場がある。フィンランドは長年NATO加盟国ではなかったが核兵器禁止条約にも参加していない。今回、核兵器通過を認めたことで本格的にNATOの核の傘の中にはいることになりそうだ。こうなると「核兵器禁止条約など単なる夢物語だ」という人が出てきそうだ。

しかしながら、世界情勢が不安定化する中で核兵器が最も安価な防衛手段になりつつあることもまた確かである。北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は国力では大韓民国に完全に遅れをとっているが核兵器に開発に成功しつつある。イランもまた経済的にはそれほど豊かな国ではないのだが核兵器の開発を目指していると言われることがある。核の傘議論は同時に他国の核開発を容認する議論につながる。「規制を強化し核兵器を先進国で独占する」という議論にもはや実効性はない。

もちろん北朝鮮が再び朝鮮戦争を起こすのかは定かではない。だが、外交的に孤立を深める北朝鮮は軍事境界線を国境と呼んだ上で国境を閉ざしハリネズミのように「攻撃するなら攻撃してみろ」と核兵器を脅しに使おうとしている。そしてそれが北朝鮮にとっては最も安上がりな国防手段である。

日本もこれまでのように「絶対に核兵器を持ち込ませない」というようなことを言い続けられる国際環境ではなくなりつつあるが、同時に一部の国だけが核兵器を管理するから絶対に安全だと言い切れるような状態でもなくなりつつある。管理ができないなら禁止を目指すしかないわけで両方の選択肢を残したまま「是々非々」で進んでゆくしかないということがいえる。

左右陣営がそれぞれの立場に固執し議論に耽溺している日本がいざという時にフィンランドのように冷静な判断ができるのかと言われると「いささか心もとない」と考えざるを得ない。

BBCは「欧州の軍備強化は10年かかる=独最大の防衛企業トップ」という記事を出している。トランプ大統領再選の可能性が出てきたことで「アメリカの軍事力に依存する状況から脱却しなければならないのではないか」という議論が出始めている。しかしながら実際に脱アメリカに舵を切るとしても10年程度の時間がかかる上に財政的な負担も重くのしかかる。ドイツの場合は過去の軍拡がナチスドイツの台頭と国民生活の破壊につながったという反省もあり議論は決して一筋縄とはいかないだろう。

BBCの記事は次のように結ばれている。

今年の米大統領選がどうなるかは誰にも分からない。ただ、トランプ氏の最新の発言は欧州全体への警鐘と受け止められている。それは決して初めてのこととはされていない。

それでも現実を直視し実効的な議論が必要だとヨーロッパの人たちは考えているのである。

ロシアのウクライナ侵攻以来世界の軍事費は伸びているという統計もある。日本の繁栄は通商の自由に支えられているがこれを維持するコストはかなり高いものになりつつある。ウクライナ侵攻のきっかけはアメリカのアフガニスタン撤退にありアフガニスタンの撤退は膨張する軍事費の削減にあったことを考えると日本の繁栄の基礎となっていたパックス・アメリカーナに翳りが見えることもわかる。

正常性バイアスが極めて強く危機になると依存している相手に返って強くしがみつく傾向のある日本人にとっては極めて厳しい国際状況と言えるだろう。難しい議論を扱えず思考停止に陥ってしまう人が多い。

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