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いよいよ始まったアメリカの報復 従来の「世界大戦」とは異なるいびつな衝突の構造

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いよいよアメリカが親イラン勢力に報復を始め、SNSのXでは一時「第三次世界大戦」がトレンドワード入りしていた。「いよいよ第三次世界大戦が始まったのか?」などという懸念が広がっていることがわかる。

しかしスマホを離れて外に出かけると戦争の気配はない。中には「何だトレンドワード詐欺か」などと書いている人もいた。確かに何かが始まっているのだが、今までにない形の戦争でありその実態は極めてわかりにくい。

一体何が起きているのかを一言で言うと「文明と文明の間の衝突」なのかもしれない。サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突(1996年)」の世界に突入したと言える。

そうなると当然「日本もいずれこの衝突に巻き込まれるのか?」も気になる。

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ヨルダンにあるアメリカの基地に対して何者かが無人ドローン攻撃を行った。アメリカにとって戦争の犠牲者は単なる統計上の数字だがアメリカ人の死だけは別物だ。アメリカの大統領は「全てのアメリカ人を守る絶対的存在」でなければならない。西部劇に出てくるスーパー保安官でなければならないのだ。

政治的に何もしないわけにいかなくなったバイデン大統領は主語を明確にしないままで「報復」を誓った。だが同時にイランとの全面戦争も避けたいと考えている。色々考えた結果イラクとシリアにいる武装勢力が問題であるということなった。背景にイランがいるものと思われているがイランの名前は出さなかった。

イランの側にも同様の事情がある。慎重にアメリカへの武力攻撃についての言動を避けている。イランはイランで内政の問題を抱えておりアメリカに言いがかりをつけられて攻撃されては困るという気持ちがあるのだろう。イランのライシ大統領もイラン国内の強硬派から圧力を受けていると言われている。

ロイターによると今回の攻撃では85箇所が攻撃されている。だが、イラン領内に踏み込むことは慎重に避けられている。代わりに犠牲になったのがイラクとシリアだ。地図で見るとわかるのだが、ヨルダンにあるアメリカの拠点とイランは直接は接続しておらず間にイラクやシリアがある。時事通信は「民間人を含む39名が犠牲になった」としている。米兵の犠牲は尊いがイスラム教徒の民間人の犠牲は単なる統計上の事実に過ぎない。「何かと何かの間」にいる人は何も悪いことはしていないのにとばっちりを受けた。

イラクは主権侵害を訴えている。だがアメリカから見ると良い主権侵害と悪い主権侵害がある。ロシアがウクライナの主権を侵害することはあってはならないのだが、イラクの主権を侵害するのは構わない。文明間対立では「世界の内側と外側」は明確に区別される。そこには大きな断層(フォルトライン)がある。文明の内側に住んでいるのは人間だが外側にいる人たちはそうではない。

イランは親イラン勢力を支援することで間接的にアメリカ合衆国を攻撃してきた。アメリカ合衆国もイランに踏み込むのを避けてその手前を空爆している。すでにイランとアメリカは事実上の交戦状態にあると言って良いのだがお互いの陣地への直接攻撃を避けている。そのために犠牲になるのが「その間にいる人たち」である。今起きていることは大抵この図式で説明ができる。

ロシアとアメリカ・ヨーロッパが対立している。だが結局のところ犠牲になっているのはその間に挟まれたウクライナである。ロシアはロシア正教を代表しておりアメリカとヨーロッパはカトリック・プロテスタント同盟と言って良い。ウクライナはウクライナ正教なのだがポーランドと一体だった地域がある。ポーランドはカトリック国だ。

イスラエルとパレスチナ武装組織が対立している。犠牲になっているのはその間に挟まれたガザ地区の一般人だ。これは西岸地区も同じである。エジプトとヨルダンは自分達の領内に攻撃が加わることを恐れている。この対立はユダヤ教・キリスト教同盟とイスラム教の戦いと言える。

イエメンと紅海の欧米系船舶の間にも緊張があり英米はリモートでイエメンを攻撃している。表面的にはキリスト教とイスラム教の戦いなのだが、イエメンの状況が安定しないのは国内にシーア・スンニというイスラム教の党派対立があるためと言われている。つまりキリスト教の中にも対立があるがイスラム教の中にも対立がある。

こうした対立の元を辿ると近代国家ができる前の帝国と帝国の間の争いに極めてよく似ている。帝国と帝国の間には緩衝地帯があり常に戦争が起き続けている。そんな状況だ。

CNNがウクライナのザルジニー軍総司令官の独占インタビューを掲載している。「戦争の設計が変わった、ウクライナ軍総司令官が寄稿」と言う表題だ。この寄稿にはある政治的狙いがあるのだが、このエントリーではそれについては触れない。ウクライナは今「戦争の形」でトラブルが起きており日本の防衛の将来の一つの参考となる形ができている。

  • 勝利の概念は変わっていない。敵を殲滅させ領土を確保・解放することだ。
  • しかし変わったものもある。技術が進歩し国内外の情勢が変わっている。
  • ウクライナの戦争においては無人兵器システムの発展が需要な役割を果たしている。
  • ウクライナは陣地戦に突入することを避けなければならない。
  • 弾薬支援は尽きかけていて各国は支援疲れを起こしている。一方でロシアには豊富な人的資源が動員できる状態にある。
  • 消耗戦に突入すればウクライナは不利な状況に置かれる。
  • だから、ウクライナは戦争を再設計し新しい戦争に対応しなければならない。

以下、具体的な記述が続くので興味のある人は読んでみれば良いと思うのだが重要なことを言っている。ウクライナは現在全土がNATOとロシアの間の緩衝地帯の状況に置かれている。だがサルジニー総司令官はロシアとウクライナの間に緩衝地帯を設けて「リモートで」防衛をしなければならないと言っている。実際に手駒の兵士を殺される軍の総合指揮官としては極めて真っ当な意見である。つまり緩衝地帯を小さくして持続可能な状況を作り出せとの主張だ。

第一次世界大戦と第二次世界大戦は主権国家同士の戦いだった。既得権を持っている国に新興国が挑戦し敗北したという戦いだ。最終的に日本を含む新興勢力は既得権を持つ国家体制に組み込まれ「国連(連合国)」と言う新しい秩序が形作られた。今回起きていることのはこの体制の崩壊だ。国連という一つの枠組みはもはや事実上存在せず近代国家ができる以前の帝国同士の争いが絶えなかった時代に逆戻りしている。

極めて興味深いのは日本、中国、東南アジア、サブサハラのアフリカ、南アメリカなどがここから除外されていると言う点である。帝国同士の争いに参加していなかったのはアメリカ合衆国だけである。

日本と中国は一神教世界ではなく「白黒はっきりつける」と言う戦いは無縁なのではないかと個人的には思う。これは日本が将来「何かと何かの間に置かれ得るか」を考える上では大きなテーマだが結論はない。人によっては中国もまた世界秩序に挑戦しているのではないかと考えるだろうし、いやそうではないと言う人もいるはずだ。

イランとアメリカの間の戦争がエスカレートする確率もゼロではない。共和党が「攻撃が遅過ぎた」と批判している。中にはこの際にイランを直接叩くべきだと言う意見もあるそうである。

イランのライシ大統領も親イラン勢力の支援を続けるといっている。イランにも強硬派がいてライシ大統領の弱腰を批判しているようだ。代理でパキスタンを叩いたところ外交関係が途絶しかけたというインシデントも発生している。自発的に言っているのか言わされているのかはよくわからない。

バイデン大統領の治世は期せずして「終わらない戦争の始まり」の4年となった。バイデン大統領の個人的資質による物なのかあるいはバイデン大統領がたまたまそこに居合わせたのかはわからない。あるいはトランプ政権時代に溜まった請求書を処理しているだけなのかもしれない。アフガニスタン撤退、ウクライナ侵略、ガザ侵攻、フーシ派による攻撃、今回の親イラン組織の攻撃などアメリカ合衆国を核にしてさまざまな争いが起きておりどれも終わりが見えない。極めて皮肉なことだがトランプ氏は2020年の選挙に負けたことで全ての破綻の責任をバイデン大統領に背負わせることに成功している。

おそらく日本にとって最も危険なのは中国の脅威ではなく経済的に困っているアメリカのATMになることなのではないかと思う。具体的に言えば岸田総理が自身の政権に対する保証を買うための費用を負担させられることである。保証書の期限は大統領選挙次第だがもう1年もない可能性もある。

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