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名門派閥にしてはあまりにも情けない最後 幹部批判が飛び交う中で清和会が45年の歴史に幕

自民党の名門派閥の一つである清和会が幕を閉じた。1979年福田赳夫氏のもとで旗揚げされてから45年目のことだったという。最後の総会では「幹部の説明に納得していない」と不満が噴出したと伝えられている。森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫と総理大臣を輩出し続けてきた名門だが、群れをなし名門に依存すぎた議員たちに自分達で行動を起こし国民の疑念を払拭するだけの力は残されていなかったようだ。あまりにも情けない最後だった。

幹部の説明責任を問う声が出る理由はわかる。6.76億円の「裏金があった」という報道だけが一人歩きしていた。説明がないため「一体いくらの裏金があったのか」や「それがどんな性質のものだったのか」がよくわからない状態になっている。

派閥幹部たちが説明責任を果たせないのは当然だ。幹部たちの中にはおそらく収入の使い道を言いたくない人たちが複数名いる。彼らは一人の政治家として逃げ切ることに必死で派閥全体の問題には構っていられない。おそらく「なぜこんなことになったのか」を彼らが総括するのはずっと後になってからだろう。

その間この派閥は「裏金の安倍派」と呼ばれることになるだろう。安倍晋三総理個人は人気も高かったが群れでしか考えられなくなった「安倍派」のためにネガティブな評価を後世に定着させることとなった。

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ニュースの中には4.35億円、4.27億円、6.76億円という数字が並んでいる。各紙の報道を整理すると3年分の修正申告を済ませたとする数字が4.35/4.27億円で5年分の不記載総額が6.75億円になるそうだ。ただ前者と後者の関係は不明だ。このため最初にニュースを聞いた時には全容が全くわからなかった、渋々調べて「ああそうなのか」と感じたが、おそらくそこまでニュースを整理する人はそんなに多くないのではないかと思う。

漠然とした情報が多いため、結果的に「安倍派が多額の裏金」という漠然とした印象だけが定着することになる。中には10万円のキックバックで政務官を追われた人もおり浮かばれないだろうなあと感じた。派閥選択を間違ったが故に今後の出世に大きな障害が出る。

安倍派はこれらを紙で報告しただけで記者会見に応じていない。このためマスコミも安倍派のステートメントを右から左に流すしかなかった。マスコミは「全く回答になっていない」と不満げである。伊藤惇夫氏は「これぞまさに紙対応」と呆れ気味だ。果敢に戦っているのは田崎史郎氏のみだ。批判を覚悟で「安倍総理には評価すべきところもある」と言っている。だがこれまで安倍政治を称賛してきたネット論客たちがメジャーなメディアに出てきて冷静な総括を披瀝することはなかった。

ではなぜ総括できないのか。どうやら幹部の中に使い道について明かしたくない人たちがいるからのようである。最も顕著なのが下村博文氏だ。次のように説明(いいのがれ)している。

  • 自分は全く知らなかった。
  • 秘書が勝手にやっていた。
  • 専用口座を作って別に管理していた。

この言い分を信じると未記載のお金を476万円も単に預貯金として死蔵していたことになる。誰も信じないだろうがとりあえずそう言っておけば罪には問われずに済むというわけだ。これがキックバックが「裏金」と言われる所以である。

キックバックは所属議員100名のうち90名が受けていたのだが、数千万円単位のキックバックを受けていた人たちは限られる。この人たちが裏金を何に使ったのかを隠しているため全容がわからない。そのために「キックバックそのものが悪である」という雑駁な評価しかできない。結果的に安倍派所属の若手たちは「キックバック」の前科がついた。今後公認されることはあるかもしれないがほとぼりが冷めるまで役職から締め出されることになるのかもしれない。

ここで数字についておさらいしておく。いろいろな報道を読んでようやく「ああこういうことか」と思った。だがやはり詳細はよくわからないというのが正直なところだ。

1月31日に行われた修正申告では過去3年間で派閥側に4.35億円が入り議員側に4.27億円が出ているという。これらの数字が新たに収入として上積みされた。訂正は「寄附した日付」がほとんど不明になっている。テレビ朝日において田崎史郎氏は「わかっていて書かなかったのではないか」としているが、なぜ書かなかったかの理由はわからないと言っている。下村氏は西村、塩谷、世耕氏と話し合って「キックバック不記載の是非」について話し合ったとしているが田崎史郎氏は塩谷氏がそんなことを考えるはずはなく、西村氏も否定していると言っている。残りの人が誰かを名指しするつもりはないようだ。下村氏は「それぞれの人に認識を直接聞いてくれ」と言っているが、おそらく田崎史郎さんは世耕さんに真意を確かめることはないのではないかと思う。

議員の環流分については朝日新聞に記述があった。

派閥から議員や元議員ら計91人側に還流した計4億2726万円も「寄付」として追記された。多い順に、池田佳隆・衆院議員3208万円▽大野泰正・参院議員3146万円▽谷川弥一・前衆院議員2303万円▽萩生田光一・前党政調会長1952万円▽三ツ林裕巳・衆院議員1808万円など。

ただし、これは毎日新聞の公表する不記載額とは異なっている。毎日新聞は検察または本人の公表としている。検察は5年分で計算しているそうだ。

・大野泰正(参)5154万円・池田佳隆(衆)4826万円・谷川弥一(元)4355万円・萩生田光一(衆)…2728万円・橋本聖子(参)2057万円・世耕弘成(参)1542万円・松野博一(衆)1051万円・高木毅(衆)1019万円・堀井巌(参)876万円・馳浩(元)819万円・末松信介(参)584万円

全容がわからない理由は期間の違いにあるようだ。今回安倍派から明細が出たのは3年分だ。だが検察が問題にしていたのは5年間だった。この5年分について安倍派は「6.76億円」という総額しか出しておらず18年と19年の2年分に関しては詳細を明かせないとしている。裏金を攻撃したいメディアは主にこの数字を使っていた。中には6.8億と多めに表現しているところもある。

読売新聞の記述は次のとおり。

関係者によると、同派は幹部を含めた各議員側に対し、過去5年分の不記載額や、還流資金が帰属する政治団体などを調査していたという。だが訂正に合わせて31日に出された同派のコメントでは、「過去5年の寄付支出の追加分は95団体で総額6億7654万円」と概要を示すのみで、個別の議員名や還流額、18、19年分の詳細な金額などは明かさなかった。

ここに至るまでには相当の混乱もあったようである。朝日新聞は次のように書く。各議員とも「できるだけ裏金を軽微に見せたい」という気持ちがあり、使っていないから返しますという人がいたという。

訂正に至る過程では混乱もあった。安倍派は当初、政治資金規正法違反事件で東京地検特捜部が一連の刑事処分を出す前に訂正する方針だった。ただ、各議員側に対する調査の過程で、複数議員側から「使わずに保管していたので返す」などと異論が噴出。派閥と議員で足並みがそろわないまま、訂正は26日の国会召集後までずれこんだ。

修正申告が必要な3年分に関しては仕方がないから情報を開示したが「それ以上は派閥からは何も言えない」「あとは議員が個人でなんとかしてくれ」「マスコミも勝手に調べてくれ」ということになる。

田崎史郎氏曰く「萩生田さん以下の人たちは逃げることができた」ことになるのだがおそらく還流額が少ない若手は不満だろう。安倍派にいたというだけで今後しばらくはあらゆる役職から排除されることになる。禊(みそぎ)はいつ終わるかはわからない。

産経新聞に現在安倍派には1.5億円が残っているそうだ。議員で山分けにする案と能登半島などに寄付する案が検討されていたそうだが、結局は全額寄付ということになりそうだが、その公的機関が何なのかについては報道されていない。今後の清算管理委員会の立ち回り次第ではさらに批判され「あの安倍派がまた何かやった」と言われてしまうのかもしれない。

安倍派の終焉にあたってはネット保守と言われる人たちからの応援はいっさいなかった。彼らも頭を持たない群れなので「一つの塊として結論を出す」機能がない。これまで熱心に安倍派を支えてきた言論機関や識者も「清和会再生」の提言は何一つしていない。彼らもまた安倍人気にあやかったフリーライダーに過ぎなかった。みんなで野党やリベラルをいじめていい気になっていた。

総括がない状態なので世論もなんとなく所属議員たちを「ああ、あの裏金の安倍派の人」と認識することになるだろう。今回なるほどなと思ったのは日本流の問題の落とし方だ。群れで考える日本人には日本人らしい問題の落とし込み方がある物だと感じた。

日本人は合理的な総括や説明責任は苦手だ。だが、村全体でなんとなく圧力をかけて針の筵におくことで同じことをやりそうな人たちを萎縮させる。つまり集団圧力の見せしめ効果がじいつ上の解決策になっている。例えばジャニーズ問題で村の厳しさを知ったテレビ局が松本人志問題で収拾を図ったのと同じようにこの「村の圧力」には実際の抑止効果がある。しかしこの「掟」には明確な輪郭がない。つまり何がセーフで何がアウトなのかはよくわからないままだ。

政治で似たような存在に田中派がある。田中角栄氏のような政治家がいてくれたらとする人々いるが、田中派という群れ全体は漠然と金権政治の象徴とされてしまっている。安倍派も同じような語られ方をするのではないだろうか。今後安倍氏の名前を表に出す人は減ってゆくのかもしれない。村の掟に逆らってまで戦う人はゼロではないだろうがそんなには多くないだろう。

今回数字や記述を引いたがリンクを示していない報道は以下の通りだ。

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