オリンピックや万博はかつては国家の威信を示すために有効な手段だった。だが今ではどういわけか問題を引き起こすことの方が多くなっている。日本の東京オリンピックや大阪・関西万博を見ればそれは明らかだが、同じようなことがフランスでも起きている。警官が割り増し手当を求めてデモを行った。要求が満たされないならストも辞さないと言っている。
国家の面子にこだわる当局はできるだけ警官を刺激しないように交渉合意を急いでいるそうだ。だが割り増し手当を要求しているのは警察だけではない。医療従事者をはじめ、パリの地下鉄、鉄道、バスの運転士、街路清掃員など自治体職員と特別手当の交渉を進めているとAFPは書いている。
東京オリンピックは大会としては成功したがその準備は失敗したと言って良い。招致活動から汚職が噂され、開幕式をめぐってもひと騒動あった。これは大阪・関西万博も同じだ。大きくなりすぎたプロジェクトには「乗っかりたい」人たちが大勢集まるが誰も責任は取ろうとしない。
政府は国威発揚を目指すが、むしろ巨大プロジェクトはその国の問題点を大きく映し出す鏡のようになっている。例えば大阪・関西万博では「少子高齢化に伴う建設労働者の不足」の問題が浮き彫りになった。
フランスでも同じことが起きている。年金受給年齢の引き上げなどで労働者の反発を買っているマクロン政権が新たな問題に直面している。労働者からの突き上げだ。公共部門の労働組合がパリオリンピックの夜勤などに特別勤務手当を求めている。要求を出している労働組合は多岐にわたるがその中に警察も含まれているそうだ。警察の労働組合は手当が支払われないとストも辞さないとして当局を脅している。
AFPは日本語でも要約版(仏警察労組、五輪「手当」要求 大会中のストも示唆)を出しているのだが、フランス24が伝える英語版を読むとより詳細な情報がわかる。
ハードレフト(過激左派)の労働組合というものもあるそうだ。下手したら国家的イベントに合わせてゼネスト(ゼネラルストライキ)起きるのではないかという印象さえ受ける。CGT( Confédération Générale du Travail)は日本語では「フランス労働総同盟」と訳される。フランスの労働者のナショナルセンターの一つだそうだ。つまり日本でいうと「連合」のような労働組合の連合体だが、労使協調路線の日本と違い権利主張はかなり強硬だ。
On Wednesday, the hard-left CGT union demonstrated in front of the headquarters of the Olympics organising committee in northern Paris to denounce the government’s decision to suspend some workers’ rights during the Games.
Unless the government reverses its decree, “we will launch high-impact operations during the Games,” said Amar Lagha, the head of the CGT’s branch representing the private-sector service industry and retail workers.
もともと権利意識が高い個人主義の国だが年金支給年齢の引き上げや格差の拡大などで労働者の間にはかなり不満が溜まっているのかもしれない。イエローベスト運動が起きたのは2018年のことだが状況はあまりよくなっているように思えない。国威発揚のためにオリンピックを利用したい政府は「オリンピックの間にはバケーションを取るな」と言っていることもあり労働者たちは「なぜ政治家のために自分達の権利が侵害されるのか」と怒っている。
フランス政府は保守の離反を防ぐためにも、100年ぶりに開かれるパリオリンピックを通じて「世界に誇れるフランス」を宣伝したいと考えているはずだ。このため「最悪ストライキも辞さない」とする警官たちに特別手当を支給するなどの対策を講じる考えだという。やや足元を見られているようにも思える。
AFPの日本語版は「フランス当局は現在、医療従事者をはじめ、パリの地下鉄、鉄道、バスの運転士、街路清掃員など自治体職員と特別手当の交渉を進めている。」と伝えておりさまざまな労働者たちが特別手当を求めていることがわかる。
ナショナルイベントの成功のためには国民の支持と合意が欠かせない。だが、どうもフランス人全員が「オリンピックは自分達のもの」とは考えているわけでもなさそうだ。