自民党の政党支持率が1960年6月の調査開始以来最低の14.6%に下落した。Xのタイムラインではタイトルの中にある「下野直前を下回る」がトレンドワード入りしていた。不思議なことに内閣の支持率は微増している。岸田総理・総裁が自民党を悪者にして生き残りを図っている構図で今後党内に波紋が広がりそうだ。
そんななか、岸田政権を支えてきた麻生副総裁と岸田氏の中が怪しくなっている。麻生氏を切り捨てることができるかによって今後の政権運営の進路が変わるのではないかと思う。麻生太郎氏は地元福岡で人間関係の好き嫌いに起因するトラブルを多く抱える。ポスト派閥の統治体制を構築しない限り自民党政治は長老の好き嫌いによって左右される混乱状態に陥るだろう。
時事通信の世論調査は対面で行われるため信頼性が高いと言われる。その時事通信の世論調査で調査開始以来最低(ただし野党時代を除く)の支持率を叩き出したことで今後自民党はかなり動揺するのではないかと思われる。
これまで政権の支持率が下がっても自民党の支持率が下がることはなかった。つまり表紙さえ変えればいいという安心感があったはずだ。ところが今回の調査では自民党の支持率だけが下がっている。岸田総理が自民党を切り捨てて政権を維持しようとしているという図式に心穏やかではない議員は大勢いるだろう。「自分だけいい格好しやがって」ということになる。
政権支持率が微増した原因はよくわからない。一般的には地震などの災害があると現状維持を望む人がやや増えるなどと言われる。また年が明けて新しい予算編成が始まるという事情もあるかもしれない。NHKの調査を見ても国民の関心事は賃金上昇と社会福祉の維持であり「政治と金の問題」をまずやってほしいという国民は多くない。とにかく何もせず現状を維持してほしいという有権者が多いのかもしれない。
気になる情報もある。田崎史郎さんが「麻生さんと岸田さんが喧嘩別れした」と言っている。その後の首相動静を見ると岸田総理と麻生副総裁がThe Hotel Okura Tokyoの高級和食レストランで会食をしている。
一度は啖呵を切ったものの後になって怖くなってしまったのかもしれない。プライドの高い麻生さんをもてなすためにはやはり高級ホテルくらいでなければダメなんだなあという気がする。
今後の政権の動向はこの二人の個人的な人間関係によって大きく変わるのではないかと思う。麻生氏はとにかく人間関係に好き嫌いが多く一度機嫌を損ねると「もう協力しない」と腹を立てる。岸田氏はこれまでも麻生氏との関係構築にかなり苦労してきた。
岸田氏が総裁選挙に打って出ることを決めた時にまず古賀誠氏に会いに行った。そして次に麻生太郎氏に会いに行ったことで「「古賀とメシを食ったその足で俺のところに来るなんて、どういうことなんだ」」と激昂したとされている。このため大勢は菅支持に傾き、そのまま菅義偉氏が総裁に選ばれた。
今回岸田総理が派閥焼き捨てを画策した裏には「古賀誠の呪縛からの解放」があったことは間違いがない。宏池会岸田派は純粋な「岸田派」ではなく前会長の古賀誠氏の影響力も強かったからだ。
では派閥がなくなれば長老政治も終わるのかということになる。これがわかる事例が福岡にある。おそらく長老の好き嫌いによって周りが振り回される体制が生まれることになるのかもしれないと感じる。福岡県では2019年ごろからそのような状況が生まれている。
福岡県知事の小川洋さんは麻生太郎氏が連れてきた人だった。だが小川氏は次第に麻生太郎氏を疎ましく感じるようになり最終的に決裂した。代わりに麻生太郎氏が連れてきたのが武内和久氏だった。結局県連が小川支持(つまり反麻生)でまとまり武内さんは知事になれなかった。これが2019年のことだ。
武内氏は自民党を頼るのを諦めて独自で人脈を作り北九州市長選挙に立候補した。北九州市長選挙を取り仕切っていた自民党参議院議院の大家(おおいえ)敏志氏は津森洋介氏を公認候補に立てる。このため、結果的に麻生太郎氏に近いグループと武田良太氏に近いグループに分かれてしまった。結果的に勝ったのは麻生氏に近いとされる武内氏であった。
福岡9区に鞍替えしたい大家氏は長年麻生太郎氏と懇意とされていたが支部長の椅子を得るために二階派の重鎮である武田良太氏を頼った。これは麻生氏にとっては裏切りである。麻生氏は立腹する。これを気にした茂木敏充幹事長は大家さんを支部長にしないことにした。すると今度は山東昭子氏が大家さんの支援に回った。麻生派は番町政策研究所と合流した経緯があり実は山東昭子氏と麻生太郎氏の仲も複雑なのだ。福岡9区の支部長は空席のままだ。
ある程度派閥によって整理されてきた中央の関係と異なり地方の人間関係は複雑だ。福岡の例を見ると長老が現役議員を振り回しておりその間を地方議員が右往左往するという構図がある。おそらくポスト派閥の世界はこのようなものになるだろう。
岸田総理は宏池会を解散することで古賀誠氏の呪縛からは解き放たれた。だが麻生太郎氏は「派閥は存続させる」と言っている。また岸田氏が完全に決別できなければ岸田派を破壊した上により一層麻生派に頼るというような図式も生まれかねない。
派閥が部分的に破壊されたことにより地方議員との系列関係もよりわかりにくいものとなるだろう。岸田総理の統治システムを再構築できなければ政権支持率が微増したが政党支持率は下がり続けこれまで岩盤支持層になっていた人たちから離反されかねない。
古くからの人間関係に支配される地方政治といえば江東区の柿沢未途氏の例もある。山崎家の意向により柿沢家が都連から排除された。そこで木村家を巻き込んで「お金で支持を集める」ことになり公職選挙法違反に問われているという事件だ。今回の自民党刷新会議は裏金については話し合われないものと見られている。買収合戦を個人の力で止めることはできないだろうから派閥の監視がなくなったことで逆に過激化するかもしれない。
政治家たちが好き嫌いの人間関係に翻弄される一方で有権者たちは「おいてけぼり」になっている。
八王子市長選挙では自民党・公明党が推薦する初宿和夫氏が僅差で初当選した。自民・公明が推薦し維新も支援に回ったことで最悪の事態は避けられたようだ。最終的には小池百合子氏も出てきて初宿氏を支援したという。とにかく反リベラルの票をかき集めて辛勝した。
萩生田さん系列の地方議員たちは支援者から説明を求められたであろうが「いやあれは秘書がやったことですよ」で納得した人がいたとは思えない。八王子市長選挙は「国で起きているゴタゴタと市長選挙は別」という戦略で乗り切ったようだが、の「戦略」の効果がいつまで続くかも極めて不透明だ。
今回の件を殿のご乱心と呼ぶか岸田の乱と呼ぶかは議論の分かれるところだ。中には「焼き討ち」だから本能寺の変に倣って「岸田の変と呼ぶべきだ」という人までいるようだ。派閥を焼いた後に何かがニョキニョキと生えてくればいいのだがおそらくそんなことは起こらない。逆に構造が不明確になったことで「声が大きい人に周りが振り回される」という悪夢のような現実と向き合うことになるのかもしれない。麻生氏はその典型的な事例の一つなのだ。