イエレン財務長官が「ソフトランディング達成」を宣言したと読める記事がBloombergに出ている。だが、どうもこの記事のタイトルがおかしい。ロイターの表現は控めに「米経済「ソフトランディング」に向け進行中=財務長官」となっておりソフトランディングが成功したとは書いていない。現在完了形か進行形なのかで意味合いが大きく異なる。
ヘッドラインがずれる背景はなんだろうか。まず投資家は楽観的な予測を好む。さらに大統領選挙が近づいたことで政府も問題よりも成果を強調するようになっている。この2つが合わさり過度に楽観的な報道が生まれるのだ。当然「穴」も大きくなる。
この二つの記事には大きな違いがある。そこで元になったCNNの記事を読んだ。「‘We’re really making progress’: Treasury secretary lays out economic wins」というタイトルになっていた。
この記事は「なぜ人々は現在の経済評価に厳しい評点を下しがちなのか?」とする司会者の発言から始まる。これをきっかけにイエレン財務長官が現在の政権の成果を説明するという構成だ。最後の方に「バイデン大統領はできる限りの政策を総動員している」という発言も出てくることから「ああ大統領選挙が近いのだ」と言うことがわかる。わざわざ給料の上昇がインフレを上回っているというグラフまで登場しておりこれが実質的な民主党の選挙運動になっているということがわかる。
どの世論調査を見てもバイデン大統領は支持率よりも不支持率の方が高い。不支持の理由として挙げられているのが経済であり、続いて移民問題と犯罪の増加が続いている。バイデン政権は11月までに「アメリカの経済が上向いている」と有権者に信じさせなければならないのだが議会に予算を封じられている。
バイデン支持のCNNも大統領が失敗したことを半ば認めている。CNNのあるコラムは不人気の理由を、イデオロギーでも経済問題でもないとあれこれ逡巡したあとで「もしかすると原因は年齢なのかもしれない」と言っている。
Bloombergはそもそも共和党寄りのところがありバイデン大統領には厳しい論評がつくことが多い印象だ。それでも投資家が期待する「アメリカの経済は大丈夫だ」というメッセージは崩したくないのだろう。そのためイエレン財務長官の発言を中途半端に切り取った上で「アメリジャはソフトランディングを達成した」と言いたいのかもしれない。思惑と見込みによって支配された経済観測に「盲点」がないのかが気になる。
さて、肝心の大統領選挙はどうなっているのか。
トランプ氏は数々の訴訟を抱えているがその発言を見る限りは絶好調をキープしている。一方でデサンティス氏はアイオワ州で負けると撤退するのではないかと言われている。このためヘイリー氏と組んでCNNで「なぜ自分が大統領候補として残らなければならないのか」を説明した。
- トランプ氏、バイデン氏や共和ヘイリー氏を攻撃 アイオワで演説(Reuters)
- アングル:瀬戸際のデサンティス氏、アイオワ州で敗北なら撤退も 米大統領選(Reuters)
- 2024年米大統領選、デサンティス氏とヘイリー氏の対話集会でわかったこと(CNN)
CNNも共和党エスタブリッシュメントも「トランプの再来」に怯えている。日本の経済雑誌も例外ではない。「もしトラ(もしもトランプが大統領に再選されたら)」という記事が増えた。読むには会員登録が必要ですとなっているところから話半分に聞いておく必要があるのかもしれないが、実際に混乱が起きることは間違いがない。毎日新聞などは「ほぼトラ」と書いている。
- 【大図解】もしトランプが米大統領に復活したら…「もしトラ」で世界は再び大混乱へ!(ダイヤモンドオンライン)
- 「もしトラ」が冷やす日本企業の投資意欲 経済好循環の足かせに(日経新聞)
- 米共和党予備選へ 「ほぼトラ」遮る三つの壁=及川正也(専門編集委員)(毎日新聞)
アメリカ経済は近い将来「インフレを高い水準で維持する」か「失業率上昇のリスクを追い続けても金融対策を継続するか」という二者択一を迫られているという。仮に前者を選ぶと格差が拡大し不満を持つ人が増える可能性がある。賃金が上昇する職場にいる人は別に構わないのだがそういう人ばかりではない。また金利もある程度高い状態が続く。一方後者では生活が成り立たなくなる人が増加する。これを政府ではなくFRBが選択するというのが現在のアメリカの状況である。状況は厳しいが政治は悪い意思決定はしたがらない。
おそらくアメリカ合衆国では「見出し」を元に投資をする人が増えているのではないかと思われる。能登半島地震のニュースが伝えられると円相場が大きく円安に動いた。東日本大震災と同じ規模の地震だと考えられている可能性がある。
政治の不安定を背景にFBR要人のちょっとした一言が相場に大きな影響を与えると言う状態は今後も続きそうだ。アメリカの経済が活況であれば日本も金融政策を動かしやすくなるが、このまま失速してしまうと選択肢が大きく限られることになるだろう。