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羽田の事故での犯人探しはいますぐやめてくれ! 民間航空関係者が悲痛な叫び

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航空安全会議(JFAS)が「犯人探しはやめてくれ!」と悲痛な叫びをあげているというXの投稿を見つけた。聞きなれない団体だが民間航空会社の関係者で組織した団体なのだそうだ。

羽田の事故では警察が捜査に入りマスコミ主導で犯人探しが続いている。これがかえって真相究明を難しくするという訴えになっている。

マスコミの「何が起こったのか」を知りたがるが報道は「誰が悪いのか問題」にすり替わる。さらに政府からの情報発信が少ないためマスコミの憶測ベースの報道がなくならない。SNSは「航空機事故調査とはそんなものなのだろう」と感じるようになり好き勝手に憶測を投稿する。これが当事者たちに恐怖心を与えているのだろう。

さらにステートメントを読み進めると1966年の苦い体験がもとになったステートメントだったことがわかる。航空事故が多発した1966年と今の状況が似ているということになる。かつて日本の空に何が起きていたのかについても調べた。

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ステートメントのタイトルは「2024年1月2日に東京国際空港で発生した航空機事故に関する緊急声明 / Urgent Statement for the Aircraft Accident at Tokyo International Airport on JAN 02, 2024」である。

JFASは航空機の安全確保が道半ばであることを率直に認めつつ警察とマスコミが入り犯人探しに躍起になっている今の状況に警告を発している。ICAO(国際民間航空条約)により刑事処罰よりも原因究明を優先することになっている。だが、日本では条約の趣旨が正しく認識されておらず前近代的な犯人探し報道が蔓延していると主張している。さらに「事故調査結果をもとに刑事裁判が行われる日本の現状」もICAO違反で容認できないという。

JASFはつまり今回の件でどちらかに過失があったとしても刑事責任の追求はやらないでほしいと言っているように思える。一見これはあまりにもわがままな要求なのではないかと感じられる。この糾弾が正当なものかを確認するために続きを読んでゆこう。

JASFのWebサイトには設立経緯が出ている。

1966年当時の日本はプロペラ機からの切り替えが進んでいた。しかしながら労働争議も頻発しており「このままでは整備不良による事故が起こるのではないか」という危機感も高まっていたという。労使関係が悪化すれば航空機事故が起きかねないと考えた現場は航空局長に申し入れをするが「近く事故でも起きるというのかね?」と軽くあしらわれてしまった。

この結果起きたのが全日空羽田沖事故だった。申し入れの3日後だったという。

乗員乗客133名全員が死亡し当時としては世界最大の単独航空機事故だったそうだ。証拠が限られる中で事故調査が行われるが当然「機体が悪いのではないか」とか「整備の問題だったのでは」とか「いや操縦が悪かったのでは」などと責任の押し付け合いが起き、結果的に事故原因が特定できなかった。この当時のメディアがどのように事件を報道したのかはわからないのだがおそらくこの当時も犯人探しが行われたのではないかと思う。結果的にこれが事故原因の究明を難しくしたのではないだろうか。つまり今も昔も日本人の基本的な性質はそれほど変わっていないということだ。

Wikipediaは1966年には5つの航空機事故が起きていると指摘している。JASFは日本航空123便の事故も加えて書いている。1985年に御巣鷹山に墜落した日航機の事故を指しているがこれも「劣悪な整備環境」に起因していると考えているようだ。経済合理性を追求するあまりに「もの言えぬ職場が作られている」と主張しておりやや組合系に傾いた現場的な認識を持っているようだ。

今回の事故の報道をざっくりとまとめると次のようになる。

まず海上保安庁側から「機長は進入許可をもらっていたと言っている」とする独自報道が出た。時を同じくして「警察が捜査に入った」と報道される。その後で「管制は直前までの進入許可を出していた」とする報道がでたことで「どちらにも許可を出していたのか」ということになった。そこで国土交通省側が「直前待機であって進入許可ではない」と情報を修正した。海上保安庁の固定翼機が40秒滑走路で待機していたという報道も出てきたため「海上保安庁側が間違えたのではないか」ということになった。

このためSNSでは「どちらが悪いのか」と言った話や「ヒューマンエラーは避けられないから信号機を設置するべきだ」とか「不明瞭な通信のせいだから文字情報を送るべきだ」などという素人提案が飛び交っている。中には「AIを導入すべきであろう」などという人もいる。ヒューマンエラーという言葉が飛び交っていることから「人間はあてにならないからシステムを整えるべき」と考える人が多いようだ。鉄道の安全整備が念頭にあるのかもしれない。

議論の沸騰に驚いた元パイロットの専門家はテレビで「手順が複雑化すると却ってヒューマンエラーが増える」と反論する。確かに無秩序な提案をそのまま受け入れてしまうと複雑かつ問題が多いシステムが誕生することになる。議論の整理が必要なのは明らかだがマスコミにそんな機能はない。これは政府の仕事であるべきだ。

ここで政府(総理大臣でも国土交通大臣でもいいのだが)が「問題を認識して情報を整理します」と宣言すればよいのだろうがそのような声は全く聞かれない。このためメディアやSNSの圧力が自分達に降りかかるだろうという危機感が当事者たちに募る。これが組織防衛的な態度になって現れていることがわかる。結局1966年と同じような状況が再現されそうになっているということだ。

1966年当時はプロペラからジェットという切り替え時期にあたりさまざまな問題が整理されずに残っていた。だが政治の側はこれを正面から受け止めず事故が起きてしまう。おそらく今回の事故の背景には混雑し複雑化する羽田空港という問題があるはずなのだが政治が主体性を発揮しない。そんな中で人々が犯人探しに夢中になると基本的な問題を見過ごす可能性がある。こうしたインフラの陳腐化による混乱はおそらく2024年問題などと言われる運送の現場でも起こっているはずだ。

建設と交通行政が一体になった国土交通省は利権配分のために重要だと考えられており公明党の定席になっている。果たしてこのポスト配分が交通インフラの問題解決のための「適材適所」になっているのかはもう一度考え直したほうがいいのかもしれない。その意味では今回の問題はおそらく単なる航空機事故として捉えるべきではないのだろう。JASFは航空業界の視点でステートメントを出しているが「インフラの整備問題」として広く捉えるべきなのかもしれない。

Xは「要するに素人は黙っていろっていうことだろう」と総括しているようだがおそらくこれも正しくない。専門家は「これまでの航空管制のあり方」を所与のものと考えてしまうため抜本的なアイディアを出すのが難しいはずだ。さらにこれを「交通インフラ全体の問題」と考えるならばおそらく航空コミュニティだけで議論すべきでもない。正しい認識を持った部外者や素朴な視点を持った素人の意見も大いに参考にすべきだ。何よりも重要なのは現状認識に対する懸念の共有と議論の交通整理ーつまりモデレーションなのである。

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Comments

“羽田の事故での犯人探しはいますぐやめてくれ! 民間航空関係者が悲痛な叫び” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    今回の事故を見て、ナショナルジオグラフィックの「メーデー!:航空機事故の真実と真相」を思い出しました。
    この番組を見ると、事故の原因は複合的なもので、どれか一つだけに責任を負わせればいいというものではないということを伝えていると思います。それと、事故の原因解析は時間がかかることを知りました。
    今回の事故だと聞き間違えが有力な説に感じますが、なぜ聞き間違えたかのか調べる必要があるので、そうなると関係者への聞き込みも必要になるので、原因解析と提言にはまだ時間が必要だと思いました。

    1. コメントありがとうございます。今日のエントリーでは「現場への負担が増えていたのではないか」という視点で書きました。事故調査報告書がここに踏み込むか、あるいは過失を按分するだけに終わるかはちゅうもくしていいのかもしれないですね。