岸田総理が記者会見を行い、能登半島地震の対策費用として40億円程度を支出すると表明した。もう慣れてしまったが今回もまたあまりにも遅い対応だと感じる。
このエントリーではなぜ岸田総理の意思決定が遅いのかを考える。結論だけを書くと「リーダーシップを強調したいが後から反対されるのを極端に恐れる」気質が意思決定を遅らせている。結果的に優秀な人を遠ざけ情報が混乱する。おそらくこれは岸田総理個人の資質に起因する構造的な欠陥でありおそらく岸田内閣が続く限りこうした状態が続くだろう。派閥の領袖が次の総理大臣になるという今の慣行を変えない限り同じようなことが続くのではないかと思う。
岸田総理が記者会見を行った。人々が期待したのは地震対策なのだろうが優先課題は政治改革だと主張したそうだ。奥能登の人々が困窮する中「やはり政権の延命しか頭にないのか」と感じさせる内容だった。
地震対策に関しては「閣議決定が遅すぎるし規模も少額すぎる」という批判が出ている。今後補正予算も検討すると表明しているので額についての批判は保留したい。だが意思決定そのものは遅すぎると感じる。
過去の経験から地震対策においては「初動の72時間が勝負」と言われている。各地で生き埋めや行方不明者が報告されている。能登半島は意外と長い半島で陸路も限られている。遠浅の日本海では隆起があったなどとも言われていて船でのアプローチも難しい。
増員が決まってからは自衛隊のホバークラフトによる重機の搬入が進み珠洲や輪島への陸路も確保された。つまりやる気になればできた。各地で生き埋めになっている人や連絡が取れない人がいる。
ではなぜ初動が遅れたのか。当初、災害対策を担っていたのは有能な林芳正官房長官だった。受け答えが実務的で安心感がある。だがある時点から林さんが出てこなくなり「私のリーダーシップ」を強調する岸田総理が情報発信者となった。あまりにも有能な人が前に出てしまうと自分が霞むという危惧があったのではないかと思う。
しかしながら同時に「自分だけで責任を取りたくない」という強い恐れも滲む。あらかじめ批判しそうな人たちを取り込むためまず野党の党首を集めて「会談」することになった。
さらに地元のニーズも把握できていなかった。あまり前に出ると「リーダー岸田」に睨まれるという懸念があったのではないか。官邸は主導的に動かず、総務省もようやく石川県にリエゾンを送り込んで情報収集を始める。
これらの体制が整ってようやく最初に必要な人員や予算が割り当てられる。だから初動の決定ですら9日まで待たなければならないということになる。
では問題は予算なのか。おそらくそうではないと思う。問題は情報収集と意思決定の柔軟さだ。現場で判断し重要な問題について逐次決裁しながら進まないと災害対応はできない。トップがリーダーシップにこだわる上になかなか決め切れない人であるため組織としての柔軟さが発揮できないのだろう。
影響はすでに出ている。石川県は個人の支援物資やボランティアを受付られない。石川県職員だけでは足りないからだ。準備が整ったらお知らせしますということになっている。
また海外からの支援要請も全て断っている。外務省経由で地元と調整するような通路が作れなかったのだろう。台湾(中華民国)は支援を準備していたが隊を解体している。今回体制作りが始まったことでようやく自律的に動ける在日米軍の支援受け入れが決まった。誰に支援を申し出ていいかわからないという状態だったのかもしれない。政府高官は「米軍は自己完結できる」と言っており政府が支援体制を構築できていないことがわかる。
現地では真水と情報が足りていない。トイレなどの生活用水が不足している箇所があり、送信所のアンテナに使う非常用バッテリーが切れていてテレビを見ることができない地域もある。
岸田総理は、リーダーシップは発揮したいが後から批判されるのは嫌だという気持ちが強いようだ。今何が必要なのかを判断しリスクを取って行動するのが良いリーダーだと定義すると、最もリーダーに向いていない人といえるだろう。
この姿勢は政党改革にも現れている。顧問として麻生副総裁と菅義偉氏を起用することにした。宏池会(岸田・麻生・茂木ライン)で決めてしまって後から文句を言われることを恐れたのだろう。だが過去の行動パターンから見るとライバルになりそうな人(例えば石破茂氏や高市早苗氏など)は前に出ることができないようにするのではないか。彼らが目立つと岸田さんが霞む。
今後、菅義偉氏と麻生太郎氏が協力してくれることを望むばかりだが、麻生さんは自分の影響力にこだわり周囲がついてこないとふてくされてしまう。会議が麻生さんの「ご機嫌とり」になり菅さんが「何だかしらけた」時点で改革は膠着するだろう。
そもそも岸田総理は「現在の最優先課題は政治改革だ」と言っているが国民は「とにかく目の前の災害をどうにかしてほしい」と考えているはずだ。このややこしい時期に「今すぐリーダーを変えろ」などと主張するつもりはないのだが、やはり早く誰か代わりを見つけてほしいとは思う。ただし今のように派閥の領袖が次の総理になるという体制ではなかなか危機対応ができる優秀なリーダーは出てこないのではないかと思う。