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能登半島地震と羽田事故 なぜ日本人の災害対応は世界から称賛されるのか

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2024年開始早々に地震と航空機事故に見舞われた日本だがBBCやCNNなど世界のメディアがこぞって日本人の危機対応を称賛している。過去から謙虚に学び、危機意識を素早く共有し協力して対処する姿がとても新鮮に映るようだ。

このエントリーではなぜ日本人の姿勢や行動が称賛されるのかについて見てゆきたい。これについて分析すると、なぜ岸田総理など政治家が評価されないのかや日本人がなぜ強みを実感できなくなっているのかもわかる。

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海外メディアに日本人と日本が評価される理由はいくつかある。

第一の要素は過去から謙虚に学ぶ姿勢である。この2つの記事では過去の経験を共有しそれを組織的に語り継いで行っている姿が称賛されている。「決して忘れない」ことは重要だがそれだけでは不十分だ。徹底的に話し合いを行い対策を協議する。

こうした姿勢は災害報道にも活かされている。NHKのアナウンサーが「テレビなんか消さなくていいからとにかく逃げろ」と絶叫していた。東日本大震災の時に津波の映像を見ながら「逃げろと呼びかけていいのか」と悩んだ経験が生かされている。大勢の人が亡くなった経験から目を背けず具体的な対策を話し合ってきた経験が今回も生かされた。今も継続的に話し合いが行われマニュアルもメンテナンスされている。

もう一つが危機対応の早さと自主的協力だ。

今回の羽田の事件ではまず炎が上がってからクルーたちがとっさに的確な判断を下した。乗客たちは開けてくださいと懇願したが安全確保が確認されるまで扉を開けなかった。そして荷物を取らないようにと乗客に命令を下し乗客たちも素直に従った。仮にこの時に我先に逃げ出す人がいれば機内は混乱していたかもしれない。だが、乗客たちも何をすべきなのかがわかっていた。これは間違いなく奇跡だが一人の英雄によってもたらされた奇跡ではない。徹底的な訓練と統制によって裏打ちされた奇跡だ。

いくつかの要素を抜き出すことができる。

  • 日本人は共通の体験を組織的・社会的に共有しそれを行動に結びつけることができる。共有は長期間かけて蓄積される場合もあるが瞬発力もある。
  • 日本人は危機対に際して「前例」や「組織の損得」を潔く捨て去り、それぞれの持ち場で協力して力を発揮することができる。そしてそのイニシアティブに対して周囲は進んで協力する。生き残りが優先されるからだ。

危機を共有した時の日本人は強い。第二次世界大戦からの復興の過程を見てもそのことはよくわかる。助け合いの精神が根付いておりその善意もきっちりと理解される。これも具体的事例がある。

「ヤマザキのトラック」が称賛されている。山崎製パンは自社トラックを持っている。インフラの維持にはお金がかかるが災害対応のために必要なコストとして認識されているようだ。山崎製パンはこれを「私たちは社会貢献をしています」と強調しないが国民にはちゃんとわかっておりSNSでは称賛されていた。

これを裏返しにすると日本人の強みが生かされない理由もわかる。危機を全体で共有せず「組織」や「自分」の利益を追求する人が多くなると強みが消えてしまう。

国土交通省と海上保安庁の間で事故原因について「言った言わない」という論争が起きている。まず海上保安庁側が機長からの聞き取り結果として「滑走路への侵入許可が降りていた」との認識を示した。次に国土交通省側が「滑走路直前まで侵入許可がでていた」と発表する。ただここで「JALと海保双方に許可が出た」という印象が生まれると今度は国土交通省が全文を公表し「これは決して許可ではなく、直前待機だった」と強調した。

警察が動いていることもあり組織の間で「どちらの過失なのか」という押し付け合いが起きているのかもしれない。重要なのは将来の事故を防ぐことである。くれぐれも組織防衛が先に立たないことを望みたい。

体験を共有すると日本人は協力できるのだが組織の論理が先に立つと組織防衛に変わってしまう。新聞記者も「独自情報を聞き出して組織で褒めてもらいたい」という気持ちも働くのだろう。朝日新聞の記者がJALを追求したことで「今はそんなことを言っている場合ではないのではないか」と批判されているたようだが、記者か会社の側に見出しの想定がありそれにあった「供述」を引き出したかった可能性もある。

こうしたチーム間の駆け引きはたとえば志賀原発議論でも起きている。経済的・政治的動機から志賀原発問題を殊更軽く見せたい人たちとどうしても廃炉に持ってゆきたい人たちの間で不毛な駆け引きが続いている。電力総連などが背景にいる玉木雄一郎国民民主党代表は反対派を「イデオロギーに突き動かされている」と決めつけている。こうした危機感を共有しない姿勢は見透かされ国民民主党の支持の伸び悩みにつながっているのだろう。

岸田総理は会見を行い能登半島地震に全力で取り組んでいるとアピールしていた。だがこの文章には「私」という言葉が目立っていた。国民にリーダーシップを宣伝するチャンスだと思っているのだろう。

そして、本日からは、被災自治体の要望を踏まえ、総務省の調整の下、災害マネジメントの知見を有する中部ブロックの自治体職員を被災自治体に派遣することとしております。各省庁の幹部職員の指揮の下、被災自治体に派遣しているリエゾン職員などとも緊密に連携をとりながら、必要な物資の確保等に全力を尽くしてまいります。昨日、私自身も、県知事や輪島市長、珠洲市長と意見交換を行いましたが、本日も、他の被災自治体の首長と直接意見交換を行いながら、被災地のニーズに沿った対応を、私が先頭に立って進めていきたいと考えております。

殊更に強調されなくても岸田文雄さんが総理大臣であるということはみんな知っている。さらにいえば悪天候と余震が続いており災害対応が難しいこともみんなわかっている。とにかく総理大臣が先頭に立ってきちんとやってもらわなければ困るのだ。

あらためてこの文章を読むと一貫して「私の認識」が先に来ており状況や被災者に対する共感が希薄であるということがよくわかる。日本人の強みが素早い状況認識と共有にあると考えると岸田文雄さんは被災者の状況に寄り添っているとは言い難い。おそらくこれが岸田総理の支持率が伸び悩む理由だろう。

日本の政治家たちが国民に寄り添ってくれないことはわかる。だが、今回の件で極めて残念だと感じる点がもう一つある。日本人自身が日本人が本来持っている強みを認識できなくなっているのではないかと感じるのだ。

日本人自身が日本人が本来持っている強みを理解できなくなっており外国メディアに称賛してもらうまでそれに気がつくことができない。

社会に主体的に参加できる機会が減っていて実感できるチャンスに恵まれないという人も多いのかもしれないが、まずは日本人が持っている強みを正確に理解することが重要なのではないかと思う。日本人が本来持っている強みを理解しそれを共有しない限り、政府批判も社会批判も単なる日本disにしか感じられないだろう。

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