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「松本人志事案報道」を全否定 ジャニーズ問題から何も学ばなかった吉本興業とマスコミ

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松本人志さんに性加害スキャンダルが出ている。文春は報道に自信を持っているようだが吉本興業は全否定した。吉本興業はジャニーズ問題から何も学ばなかったのだなと感じた。中でも気になったのが「客観的事実」という用語の違和感だ。そんな日本語はない。メディアも両論併記にとどまっておりジャニーズ事件から全く学んでいないことがわかる。

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ジャニーズ事件から「企業も性加害を含む人権侵害を防ぐために責任を負うべきだ」という認識が国際的に広まっていることを学んだ。対応を間違えれば人権侵害を放置するだけなく「人権侵害に加担した企業」と見なされ法的なリスクを負う。また、CMスポンサーの撤退などを招き株主利益が毀損されテレビ局などの関係先にも迷惑がかかる、

これを防ぐために吉本興業ができることは二つあった。

  • 報道を重く受け止め社内調査を行う
  • この報道が事実でないという根拠をステークスホルダー(取引先)に明確に示す

だが実際に吉本興業が出したコメントは次のとおりだ。日本語として何も間違いはないように思える。

ファン及び関係者の皆様には大変ご心配をおかけする記事内容でしたが、以上のとおり本件記事は客観的事実に反するものですので、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。

だが実際には「主観的事実」という言葉はない。主観的事実は単なる印象に過ぎないのだから事実とは言えない。事実は客観的証拠によって検証されるべきものだから「客観的事実に反する報道」という概念はそもそも成立しないのだ。あるのは報道を否定する客観的な証拠や証言だけだあり、その信憑性を評価するのは受け手の役割である。

国語的処理が済めば後は簡単に解釈できる。

  • 吉本がないといったらそれはないのです。根拠は示しませんが事実はないという前提で行動してください。

つまり単に吉本興業が一方的に主張しているだけということになってしまう。実際に吉本興業に取材をした人もいるようだが「調査の予定はない」という回答だったという。文春報道によれば「ジャニーズの一連の問題が報道されるまで、自分の主張も潰されてしまうと思っていた」ということなのだから、そもそもこの「吉本が認知しない事実は事実でない」という態度が人権侵害になってしまう。吉本興業はこのステートメントで松本人志事案を吉本興業案件にエスカレートさせてしまった。PR戦略としては完全な失であり報道の推移によっては大惨事につながる可能性さえある。

笑いの王様である吉本興業が態度を変えられない理由はわかる。ジャニーズが男性アイドルを定義したように吉本興業は望ましい笑いを定義し「これがわからない人はセンスがない人だ」と宣言していた。つまり事実とは吉本興業のような権威が認定するものでありそれ以外とものは認められないという姿勢が染み付いている。

テレビの「なんとかグランプリ」が流行っている。つまり視聴者の中には「笑いの権威化」が好きな人も多いのだろう。笑いに多様性が導入されてしまうと「なぜそれが面白いのか」を自分で定義しなければならなくなる。

こうした権威化はラーメンでも見られる。ラーメンの知識がない人やお店での振る舞いがわからない人は「なんもわかっちゃいない」人だ。「わかっている人」はそこに心地よさを感じるだろう。

だがこの企業対応は「吉本興業が認定しない客観的な証拠」が出てきた時にリスクを抱えることになった。今回の報道はあくまでも「松本人志事案」だ。だが組織が庇ったとなると話は「吉本興業事案」に拡大し人権侵害を隠蔽したということになってしまう。つまり吉本興業は全否定を通じて本来追う必要がなかったリスクを負ったことになる。仮に決定的な証拠が出てきてしまうと「人権侵害企業吉本興業のタレントを使うのはいかがなものか」ということになってしまうだろう。

今回マスコミは「両論併記」で乗り切ろうとしている。ジャニーズ問題を全く反省していないことがわかる。ジャニーズ問題で地上波各局は「人権について取引企業の活動にも積極的に関与してゆく」と約束していた。だが実際には「文春はこう言っているが吉本興業はこう言っている」と両論併記で伝えるのみで、それをどう検証したのかについては触れなかった。たとえばNHKの報道は次のとおりである。NHKが積極的に調査しますとは書かれていない。

「いちいち週刊誌の報道が出るたびにそんなことはやっていられない」と考える人も多いだろうが、実際に各局が検証番組まで作って社会に「何かあったらいちいちこういうことをやります」と約束をしてしまっている。「吉本興業がこう言っているから推移を見守っています」では不十分だ。

当然ながら文春側にも「名誉毀損」という人権侵害の疑いもある。こういうことが起こるたびにいちいち両者を呼んでどんな調査をしたのかを調べて当事者として伝える責任がある。テレビ局は放送法によって報道業務を担っているが報道番組の他に「報道検証番組」を作って放送しなければならないという新たな約束をしてしまったということになる。

権威化を気に入っている人が多いのではないかと書いたが、今回のXのつぶやきを見ていると「権威主義化したお笑い」に対する不満がかなり溜まっていることがわかる。つまり権威化は一定数のアンチを生み出している。また、お笑い芸人の中にはかなり性加害すれすれの意識を持っている人たちがいたという報告もある。テレビの笑いが画一化する一方で粗製濫造されるバラエティ番組が「単なるうちわの楽屋話」に堕しているという不満の現れである。そのつまらなくなったお笑いの頂点にテレビとの関係を強める吉本興業があると見る人がいるのだ。

最も気になるのはジャニーズ問題を厳しく追求してきた独立系のジャーナリストたちの「取材」だ。ジャーナリズムも権威化を起こしておりこれに反発する人たちがいる。吉本興業は松本さん本人の聞き取りを拒否しており「客観的証拠」どころか調査もやるつもりはないようだ。にもかかわらず「事実はない」と表明していることから、組織的隠蔽なのではないかと指摘されている。

テレビ局は年末年始の忙しい時期にCMの差し替えなどやりたくないだろうから「両論併記」で乗り切りたいのだろうが、おそらくそれではとてもすみそうにない。長引けば長引くほど「個人」の問題ではなく「組織の」問題ということになってしまうのではないかと思う。年末のややこしい時期にテレビはまたややこしい問題を抱えた。正月になればレギュラーの番組がお休みになり吉本だらけのバラエティ番組やお笑い番組がテレビをジャックすることになる。

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