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何のために働いているのかわからない 日米で本当に始まっているゲーム的雇用という現実

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前回、雇用がゲーム化することで規範意識が薄れているのではないかと書いた。あくまでも象徴的な意味合いしかなかったのだが、実際に雇用はますますゲーム化してゆくかもしれない。アメリカでは看護師が「ギグワーカー化」している。ウーバーのようなアプリでアサインされた現場にゆくと良い賃金で働けると人気になっているそうだ。だがちょっと休むと懲罰的に仕事の予約ができなくなったり「誰も状況を知らない」という現場で働くこともあるという。日本でもCMでタイミーのようなアプリの広告を見るようになった。こうした働き方は労働市場を効率化するというメリットもあるがプログラムに指示されてミッションをクリアするだけということになりがちだ。労働が生きがいをもたらすと言うかつての常識が消えかけている。

日米とも意外と「ゲーム化」の進展は早いのかもしれない。

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ロイターが「焦点:米で増加「ウーバー型」看護師、高給でも監視の重圧」という記事を出している。ギグワークという言葉はわかりにくいのでウーバー型と言っている。自分で予約を入れて看護師の求人を探すというサービスだ。高収益のために人気が高いそうだ。

賃金が高いのはマネジメントが効率化できるためだ。これまでの派遣型労働よりは労働者に支払われる割合が高いのだろう。また既存の派遣業者から看護師を引き剥がす効果も期待できる。高収入は「ウーバー型」のメリットと言える。一言で言うと「オークション」で賃金が釣り上がる仕組みである。

だが問題もある。まず施設の説明はほとんどない。周りの人たちも同じようなギグワーカーなので患者の状況もよくわからないそうだ。さらにしばらく休んだり再勤務を断ったりすると仕事がもらえなくなる可能性があるという。またGPSによって居場所も確認されている。そのうちルールに支配されていると感じるようになるという。働いているのではなく働かされている感覚になるということだ。

ロイターが看護師の例に着目したのは専門性の高さのせいだろう。つまり単純労働だけでなく専門職にもこのようなギグワーキングが広がる可能性がある。

人手不足が叫ばれる日本でもこのようなサービスが出始めている。最近「タイミー」の広告を見るようになった。これも労働上の効率化という意味では「良い」サービスなのだが問題もある。

「ハケンの品格」という2007年のドラマがあった。お時給のためだけに働く大前春子は正社員ばかりの会社で派遣として働いている。このため職場の人間関係はからは排除されていた。だがスキルでは正社員よりもはるかに能力が高いという設定になっている。当時の正社員と非正規雇用の格差を象徴している。これを医師というもっと専門性が高い職場に当て込んだのが2012年から始まった「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」である。同じ脚本家の作品だ。

現在、これと似た状況が生まれている。すでに少数正社員と多数のバイトで構成されている職場も多い。そうした職場でギグワーカーは名前ではなく「タイミーさん」と呼ばれることがあるそうだ。東洋経済が取材をしている。日本でもアメリカのようにアプリに支配される雇用が生まれているが村社会の日本では身分差別にも晒されてしまうということになる。

前回の議論をおさらいする。昭和時代にはたくさん勉強していい会社に入りそこで頑張って出世をすると郊外に一戸建ての家を買うことができるというような一般的な褒賞プランがあった。つまり、昭和のサラリーマンたちは会社にさえ入れば会社が「何がよくて何が悪いか」を教育してくれていた。そしてそれに応えて働けば本当に「ご褒美」がもらえた。

昭和の問題は職場にある倫理基準と社会一般の倫理基準のずれだった。組織社会を外から見ていた山崎豊子は「組織の倫理を守って出世することがそんなに大切なのだろうか」と考え、このテーマで多くの名作を書いている。

だが、平成・令和に入り働き方が多様化・流動化すると「何がよくて何が悪いか」を誰も教えてくれなくなる。共通した文化基盤がないからである。今回問題になっている派閥と金の問題もその一つだ。田崎史郎さん曰く「政治が黒を白としてきた」歴史が長い上に、政治家には「組織の一員」という側面と「個人商店」という側面がある。殊更、個人としての規範意識をしっかり持たなければ組織として暴走する可能性があるということになるが、自民党は「政治家のための倫理学入門講座」と言うようなことはやっていなかったのだろう。

リアルの働き方を見ると想像のはるか先を行っている。アメリカでは専門性の高い看護師であってもプログラムの指示に従って働いている。理不尽な状況に置かれることもあるが異議申し立ては許されない。これがAIの不具合によるものなのか仕組まれた(つまりプログラムを書いた人がそれを狙っているのか)が誰にもわからない。日本の場合はさらに「正社員・派遣・ギグワーカー」という身分差別も生じており状況はさらに複雑である。

その人なりの善悪の基準を持たなければ容易に流されてゆくことは確実だが、日本の学校は倫理教育をしない。働き方自体は労働市場が自ずから形成するべきであって政治が介入する余地は少ない方がいい。だがその結果として作られた社会で起きた問題には対処する必要がある。倫理を失った集団は時に暴走する。

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