そろそろ話が複雑になり「一体何が報道されているのかよくわからない」と言う人たちが出てきたころだろう。そこで「自民党・安倍派裏金問題」についての基本情報を思いつくままにまとめてみた。
そもそもこれまでなぜ見つからなかったものが今になって見つかったの?
もともとこの問題を見つけたのはしんぶん赤旗だった。この問題についてインタビューを受けた神戸学院大学の上脇博之(ひろし)教授が政治資金収支報告書を調査し共通の手口があることに気がつき刑事告訴した。
ただしこれまで各政治団体と派閥のお金の流れをいちいちチェックしようと考える人は誰もいなかったようだ。このためこれまで不正が発覚することはなかった。河野太郎デジタル担当大臣は「報告書をオンライン提出する政治家は少ない上に提出されたものも機械的に処理できない」と言っている。
現在安倍派には会長がおらず集団指導体制になっている。まず塩谷座長がウッカリと「キックバックがあった」と言ってしまい(のちに否定)問題が表沙汰になる。さらに検察からマスコミに対して盛んに情報がリークされた。このリークによって党内に動揺が走る。まず事務方のだれかが検察に「安倍派には二重帳簿がありました」などとの情報を渡している。誰にいくらキックバックがあったかというリストもあったのではないかと言われている。マスコミのリークが進むと「口止めされていた」などと言い出す副大臣も出てきた。
田崎史郎氏は安倍総理などは検察から情報を集めて法務省を通じて「落とし所を探してきた」などと証言しているが、岸田官邸はこのような情報収集は行っていないようだ。
そもそも派閥って何? 何でパーティーが必要なの?
自民党は保守合同によって作られた政党でもともと党内にいくつかのグループがあった。吉田茂氏は官僚の中から「これは」と思う人をピックアップして自分の支持基盤にしてきた。このため自民党では政策を勉強しつつリーダーを総理大臣として押し上げる人たちの仲間を「政策集団」とか派閥といっている。吉田学校などともいわれ政治家育成の役割も果たしていた。
派閥に入った人はリーダーを応援する代わりにそのリーダーからポジションをあてがってもらう。このため2つの派閥に同時に入ることはできない慣例になっている。
石破茂氏は「掛け持ちもOKですよ」という集団を作っていたがこれは「石破グループ」などと言われていた。石破氏が総理大臣を目指すと決めた時に派閥化しのちに総理を目指さなくなったので解体している。総理大臣候補が複数いることが派閥の前提なので野党で派閥を持っていない。野党は党首や代表がそのまま総理大臣候補になっている。
ただし派閥が権力闘争だけをやっていると言うわけでもない。下村治の案をもとに「国民所得を向上させよう」という所得倍増計画も当時主流でなかった派閥の勉強会から生まれている。つまりかつてはきちんと軸になる政策を打ち出す役割を果たしていたこともある。
パーティーがなぜ行われていたのかは今回の中核的なテーマだ。政党助成金をもらっているから収入は必要ないのではなどとも言われており、さまざまな議論の対象になっている。
検察と政治の関係は?
安倍政権時代には人事を通じて検察に圧力がかかっていた。これについて快く思っていない人がいる。東京地検特捜部のトップは桜を見る会などの捜査を経験したがトップの責任までは追求できなかった。このため就任時には「正直者が馬鹿を見る社会であってはならない」と表明してきた。今回の捜査では安倍派が特に狙われているが、検察と政権のこれまでの関係に影響を受けていると言ってよさそうだ。
NHKは東京地検特捜部のトップ就任の際に次のようなコメントを取っている。
伊藤氏は10日、報道陣の取材に対し「正直者がばかをみるような社会はなくしたいので、国民が不公正や不公平だと思うような、社会に潜んでいる犯罪を摘発していきたい。国税や公正取引委員会など関係機関と連携して真実を解明していきたい」と抱負を述べました。
なお東京地検特捜部は戦時物資の隠匿捜査をしていた部隊が母体になっている。国会議員を監視し不正を未然に防ぐミッションがあり検察の中では特異な存在と言える。ただ田崎史郎さんのように「法務省経由で情報収集して」「黒を白に」という交渉をしてきたと言う実態はあったようだ。また法務大臣は検察に命令して捜査を止めさせる権限(指揮権)がある。指揮権発動と呼ばれ一度実行されたことがある。
何が問題なの?
現在の問題は政治資金をきちんと記録していなかったことが問題になっている。形式的な問題で罪としては比較的軽微だが公民権剥奪という罰則があるため政治家たちが戦々恐々としている。実際に4,000万円強の不記載で公民権を3年間停止された議員がいる。
誰が悪いの?
まず受け取ったのに記述していなかった政治家の側が罪に問われる。政治家本人でなく「側」とされているのは事務作業をやっていた人がまず罪に問われるからだ。
政治家からの指示があったことが証明できれば政治家本人が罪に問われる。また派閥が指示をしたということになれば派閥の管理責任者が罪に問われることになる。現在では会計責任者が立件されるのは確実であろうと考えられている。
現在マスコミは「安倍派の事務総長」と言われている人たちを疑っている。事務総長は会長につぐ派閥のナンバーツーと表現されることが多い。時効が成立していない事務総長には下村博文、松野博一、西村康稔。高木毅氏がいる。会長経験者の安倍晋三、細田博之氏はすでに亡くなっている。森喜朗氏の時代から慣行があったという人もいるがすでに時効を迎えているため話は聞けそうにない。今回の最も大きな鑑賞ポイントは「事務方の会計責任者が処分されて終わりになるか、あるいは大物政治家が公民権を失うか」ということになる。
検察の捜査は国会が開いていない時期に行うのが通例になっている。年末から予算編成が始まる年始にかけて捜査が行われるものとされており、捜査が終わるまで誰が立件されるのかはわからない。
キックバックとか裏金って何? いけないことなの?
パーティー券収入のうち「ノルマ以上」の余分が派閥から議員側に払い戻されていたことをキックバックと言っているが専門用語ではないため明確な定義はない。キックバックそのものは罪ではないが、それを受け取って記載しないことはさまざまな問題につながると言われている。つまりさまざまな悪事の「ゲートウェイ(入り口)」になるためだ。
帳簿に書かれていない時点で「裏金」になるのだが「帳簿に書いて報告しなかった」ことが問題なのであって裏金自体が問題になることはないようだ。
またこれを使ったとしても政治活動に使ったのであれば脱税にもならない。仮に政治活動以外の遊興費などに使うと収入ということになり税金を支払わなければならなくなるため脱税の可能性が出てくる。またこの資金を使って投票を依頼していたなどとなると公職選挙法違反に問われる可能性が出てくる。「裏金」を違法にするためのハードルは極めて高いといえるのだが、さまざまな犯罪(売買収や脱税)などのゲートウェイとしては重要だ。
弁護士ドットコムは法的な問題の論点を整理している。不記載が問題だが、話し合っておこなっていれば「共謀罪」が成立するとされている。また、外から把握できないお金がさまざまな政治犯罪のきっかけになる可能性があるとも指摘する。
この後、実は報告もせずに懐に入れていた人もいるようだと話題になっている。これは横領ではないかと指摘する人もいるがまだ論点整理ができていない。中抜き・横領とは穏やかではないがさまざまな手法を合わせると10億円程度になるのではとする報道もある。
ただ、難しいことはわからない有権者はとにかく政治家が裏でコソコソと何かをやっていたのが問題だと考えているようだ。このため共同通信調べでは「規制強化と厳罰化が必要」とする人が86.8%にもなっている。つまりルールが甘すぎると考える人が多い。
安倍派だけが悪いの?
当初告発では不記載を行っていた派閥は5派閥(安倍、二階、茂木、麻生、岸田派)だった。キックバックをおこなっていた派閥はいくつかあるとされている。安倍派は組織的におこなっていた可能性が高いが、二階派と岸田派にも同じような事例が見られるという。厳密には安倍派問題ではないため「なぜ安倍派だけがターゲットになっているのか」については諸説が出ている。スキャンダルの政治的利用も疑われているためこれも1つの鑑賞ポイントとなる。
ただし安倍派のやり方があからさまで悪出さも突出していることだけは確かなようだ。
今後政治家はどうするの?
さまざまな対策が表明されているが、そもそも全容がわかっている人が誰もいないため捜査が一段落するまで本格的な対策は難しいだろうとされている。捜査は年末年始を跨いで次の国会が始まるまで続く見通しだ。岸田総理、河野太郎デジタル担当大臣が対応策を表明している。また次の総理として名前が上がることが多い石破茂元幹事長は「法律改正を行うべきだ」と主張する。
岸田総理:1月までに派閥改革の具体案を出す表明している。世襲でない議員ほど政治活動の維持に苦労しているためパーティーを禁止してしまうと親から政治団体経由で資金を「相続」している世襲政治家に有利になるのではないかと指摘する人もいる。
河野大臣:収支報告書のデジタル化を総務省と協力して進めると言っている。上脇氏は「政治団体と派閥の収支を照らし合わせるのは気が遠くなる作業だった」と言っており、透明化が実現すれば確かに政治資金問題の解決には役立つだろう。
石破茂氏がテレビで語った内容は次の通りだ。読売新聞が伝えている。
自民党の石破茂・元幹事長は17日のフジテレビの番組で、同党派閥の政治資金パーティー収入の裏金化疑惑を巡り、来年1月召集の通常国会で政治改革について議論すべきだと訴えた。「政治資金規正法を含めて法体系を見直さないと、『以後、気をつけます』では済まない」と語った。見直しの内容に関しては、「透明性の確保、あるいは罰則の強化もあるのかもしれない」と話した。