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ジョンソン下院議長のきわめて政治的なイスラエル支援提案とウクライナに広がる厭戦気分

ジョンソン下院議長が新しいイスラエル支援策をまとめた。上院で抵抗されることは間違いがない。だがこの動きは極めて政治的だ。上院を通らないことでジョンソン下院議長の政治的なメッセージを浸透させる効果がある。ウクライナの支援を含めて、外交問題は2024年の選挙を有利に運ぶための「ツール」になっている。

世界の関心がイスラエルに向かう中、ウクライナでも動きが出ている。ゼレンスキー大統領は徹底抗戦を主張しているが「政治的解決を求めるべきではないか」という声が出始めているそうだ。日本の報道はアメリカの報道の引用が多く「厭戦気分」がどの程度広がっているのかまでは見えてこない。

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ジョンソン下院議長の提案には含まれるものと含まれないものがある。イスラエル支援は含まれているが、ウクライナ支援が切り離され、IRS(日本でいうと税務署のようなものだ)に対する予算が削減されたという。

この記事だけを読んでいてもわからなかったと思うのだが事前にQuoraで「富裕層に対する減税」の狙いがあるとの指摘があった。議会は予算は決められるのだが執行はできないのだから予算を絞ることで富裕層への監視を緩める狙いがあるのかもしれないと感じる。

となればジョンソン下院議長の狙いは明確だ。資金を豊富に提供してくれる富裕層とユダヤ系を優遇することで共和党に対する支持を取り付ける狙いがあるということになる。この戦争支援を単純な選挙キャンペーンだと考えると最も合理的な選択ということになるだろう。

逆にウクライナ支援に対して「あれは税金の無駄遣いなのだ」と考える人が増えているのであろうということもわかる。

アメリカの共和党支援者たちの中には企業に支援された候補者に対して反発を持っている人たちがいる。中小企業を含む経営者たちを味方につければ相対的に「反企業的」な共和党候補者たちを抑制できる。民主党支持のユダヤ系も共和党を支持するようになるかもしれない。

一方でバイデン大統領の立場は弱まっている。当初イスラエル支持を明確にしてしまったために若者から離反される可能性がある。共和党支持に転じないまでも選挙に行かなくなればバイデン大統領の再選も危うくなるだろう。

BBCは次のように伝える。

バイデン大統領がこの日、ミネソタ州ミネアポリスでの集会で演説していたところ、停戦を求める野次が飛んだ。

支持集会でも「一方的にイスラエルを支持するのではなく停戦・休戦を呼びかけるべきだ」との声が出ているようだ。イスラエル支援を求めるユダヤ系の資金も諦めたくないがかと言って支持者から離反されるのも困る。困ったバイデン大統領はこう反応した。

停戦を繰り返し求める参加者の質問に対してバイデン氏は、「我々に必要なのは一時休止だと思う」と返答。「一時休止によって、捕らわれている人たちを脱出させる時間ができる」と述べた。

この一時休戦に対してBBCはポーズという言葉を使っている。BBCはこれに別の解説記事を重ねる。現在「停戦」と「人道のための一時停戦」を求める声があるが、厳密にはこれは異なる概念だというのだ。記事には直接の言及はないものの、バイデン大統領のいう「ポーズ」がどちらに当たるのかはよくわからないという含みがあるのかもしれない。選挙キャンペーンのためにどのような立場をとるべきなのかがわからなくなっていると言えるだろう。この曖昧さが今のバイデン大統領の弱点だ。

このようにアメリカ合衆国のウクライナ支援とイスラエル支援は2024年の選挙のための道具という色合いが強くなっている。そしてなぜか共和党が攻勢を強め民主党のポジションはやや危ういものとなりつつある。そして予算成立の見込みは立たない。

イスラエルはいかなる形の停戦・休戦にも応じないと言っており、ガザ地区の人道的状況は日増しに悪化している。難民キャンプへの攻撃は戦争犯罪の可能性があるとも囁かれる。国際社会におけるイスラエルと後見人アメリカ合衆国の立場は脆弱なものになりそうだ。さらに作戦が終わった後のガザを誰がどのような形で統治するのかについてのビジョンも見えてこない。積極的なアメリカ合衆国の関与が求められているにも関わらずだ。

イスラエルの状況が行き詰まる中、もう一つ気になる動きがある。実はウクライナでも大統領選挙が行われる。事実上の戦時下にあり大統領選挙が実施できるかも怪しい状況だが「徹底抗戦の継続」がテーマになりそうだ。

共同通信は「タイム紙に政権の対立を示唆する記事が出た」と紹介している。ゼレンスキー大統領が徹底抗戦を主張しているため異議が挟みにくくなっているという内容だ。政権内部に徹底抗戦を疑う人がいてアメリカの世論に訴えかけようとしていることになる。

バイデン大統領の議論の組み立ては「今ロシアの立場を認めてしまうと民主主義にとって深刻なダメージになる」から「ウクライナを応援せねばならない」というものだ。だがこれはウクライナの徹底抗戦が今後も続くという見込みのもとに組み立てられている。つまりこの前提が崩れてしまうとバイデン大統領の主張の根拠は弱まる。

テレビ朝日は新しい候補者が「政治的な解決を目指す」と表明したと伝えている。領土を諦めるとは言っていないが事実上ロシアの侵攻を認める内容になっている。

ウクライナの内部でも我々が知らない動きが出始めているということのようだ。

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