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岸田総理がフィリピンの準同盟化を推進 覇権主義的に動く中国への抑止力強化を念頭に

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カナダのヘリコプターが中国からフレア弾を打ち込まれたとCNNが伝えている。信憑性は確かではないが独自記事扱いだ。記事によると墜落の危険性もあったという。偶発的な軍事衝突の可能性が高まっていて、日本も対応を迫られている。

外遊中の岸田総理はフィリピンとの準同盟化を推進していると伝わる。

激変する国際情勢に対応するためには必要な措置なのかもしれないが突然の外遊に突然の関係強化報道だ。「準同盟」という言葉がひとり歩きする危険性もある。日本国憲法は国連のような国際機関を念頭に置いた協調主義を前提に作られているためそもそも「同盟」に関する規定すらない。だから「準同盟」にも定義がないのである。国民の間に共通認識を育て、枠組みをどう管理してゆくかがますます重要になってくる。

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CNNが独自として「中国軍機、南シナ海でカナダ軍ヘリにフレア弾放出 カナダ海軍発表 CNN EXCLUSIVE」という記事を出している。墜落の危険性もあったそうだ。背景にあるのは国際認識と中国独自の認識のずれだ。多くの国にとっては国際空域だが中国だけは南シナ海を「自国内海」であると主張している。偶発的な衝突の可能性が高まっている。

現在世界はウクライナ・イスラエルという二正面作戦の状態にあり南シナ海や台湾に対する相対的な優先順位が落ちている。ハマスの攻撃があっという間にガザ侵攻にエスカレートした状態を目撃した後では「こうした偶発的行為がいつ大規模な戦争にエスカレートしてもおかしくない」と感じる。完全にシナリオを整備することはできないのだから基本的な認識は揃えておくべきだろう。

中国の海洋進出を懸念している周辺国は多い。岸田総理はフィリピンを訪問し「フィリピンとの間の準同盟化」への意欲を表明していると伝わる。内政では支持率が下がっている岸田総理だが外交は比較的得意分野と考えているはずだ。憲法改正議論よりも具体的な中国への脅威に対する対策に共感する右派の支持者も多いのかもしれない。産経新聞によると12月に行われる日本とASEANの間の会談の地ならしであると指摘する。

しかし引っかかる点もある。

日本は緊密に連携する国の攻撃を自国への脅威と見做すという「新三要件」を持っている。密接な他国に関する厳密な定義はない。同盟関係を定義していないためである。そこにさらに「準同盟」という新しい要素が加わった。

  • 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
  • これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
  • 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

既にイギリスやオーストラリアの関係が「準同盟だ」と見做されているそうだが、おそらく軍事同盟・防衛協定などのない関係を指すものとみられる。つまり議会承認が必要ない協調関係という意味合いである。憲法はこうした同盟関係を定義していないので総理大臣がその気になればいくらでも好きなように定義できてしまう。

日本国憲法は国連のような国際連携を念頭に置いており、特定国との軍事同盟・防衛協定を考慮していない。このため日米同盟でさえも規定がない。つまり「準」同盟どころか「本」同盟すら憲法から浮いた存在になっている。これまで護憲派は「考えないことで巻き込まれない」と考えてきたのだろう。だが逆に「念頭に置かないことで管理できない」状態が生まれつつある。日経新聞は「オーストラリアや英国、韓国、フィリピンといった同志国」という言い方をしている。同志国の輪とはいかにも感覚的なネーミングだ。

麻生副総裁は「安倍さんですらできないことを岸田さんはやっている」と評価している。裏返せば安倍総理ですら「憲法が先で同盟関係は後」と考えていたということだ。岸信介首相が日米安保改定の後憲法改正を行おうとしていたことが念頭にあったのだろう。

一方の憲法審査会では新しい世界情勢に日本はどう対応してゆくのかという議論や新しい国際関係をどう管理するのかという議論はない。

これからASEAN会合が行われる12月にかけて「中国の海洋進出を念頭に置いた準同盟体制の推進」が語られる機会は増えてゆくのではないかと思う。支持率を向上させたい岸田政権としては流れを変えることができるチャンスだ。前のめりの発進が増えるのではないか。

岸田総理が順番に分かりやすく説明をしてくれれば「これは是非とも必要だ」と考える国民は少なくないだろう。何事も最初の印象が重要だ。

だが、これまでのやり方を見ていると「後先が逆」になることが多い。防衛費増額の話も突然バイデン大統領との間で約束をしてしまいその後の負担についての議論が錯綜している。特に気になるのは「負担増」議論と結びついてしまうことと韓国との関係だ。半島情勢に巻き込まれる不安が増えるとの初期報道が出てしまうと反発する人は増えるかもしれない。韓国も同志国と言われると反発する人も出てきそうである。

今後マスコミがこの体制についてどのように報道しSNSがどう反応するかでその後の印象が大きく変わることを考えるとどうしても「今回も突然だったなあ」と少し心配になる。大切な議論だけに落ち着いた情報発信を望みたいが岸田政権はそれに応えてくれるだろうか。

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