知的資本はどこに蓄積するのか

会社にとって知識は重要だ。ドラッカーあたりが唱え、堺屋太一先生がこれからは知価社会だなどといっていたのを懐かしく思い出す。では知識はどこから生まれ、どこに蓄えられるのか。
日本では「正社員の頭の中に蓄積され、マニュアル化できない」という答えが導き出すのが一般的なようだ。日本人が考える高度な知識というのが「暗黙知ベース」だからだろう。優れた経営者はすし職人のようなもので、簡単に極意や秘伝を人に教えられるものではないのだ。これ自体は問題ない。
一方アメリカではある程度標準化されている。キャリアチェンジのために学校に通いなおすのも当たり前だ。このやり方のメリットはいくつかある。労働者はスキルを蓄積できる(これまでの知識もムダにならない)し、会社も外部の知識を取り入れることができる。個人の知識を体系化して、その会社にしかない知的資本を構築する。
また、業務知識を持っている人が集まることによって、各社の知識を外に出すことができる。それを論文にまとめて形式知化する。MBAの教官も現場の知識を下地に研究をする。知識の形式知化には社内マニュアルだけではなく学術論文も含まれる。そうして生まれた形式知を個人が各社に持ち帰ることで暗黙知の更新を図るのだ。マニュアルや論文だけですべてが解決するわけではない。暗黙知を形式知を循環させることこそが重要なのである。
同じことはプログラミング言語にも起こるだろう。新しい言語を覚えるために学校に通いなおしてもよいわけだ。会社としては「忙しく業務に縛り付けておく」か「余裕を与えて知識の更新を図る」かという選択肢が生まれる。学校だけでなく、各種の研究会活動も盛んである。従業員の学習会すら許してくれない日本のSIベンダーとは考え方が全く違うのだ。
日本人は学校を「知的レベルを示すマーカー」と捉えるが、アメリカ人は「必要な知識を学ぶ場」と考える。ハーバードやウォートンは名門として知られるが、知的レベルのマーカーとして重要視されているわけではない。ハーバードの卒業生がネットワークを作り、そのコミュニティのメンバーになれることが重要だと考えられている。つまり、コホート(誰を知っているか)も知識の一部なのだ。
デメリットも明白になりつつある。経済不調が長引くと、労働者が教育に投資できなくなる。高い学費が払えないという大学生も多い。するとキャリアアップが望めなくなり、社会に不満が蔓延する。大統領選挙の候補者たちはこうして成長に取り残された人たちの支持を集めているところから判断すると、かなり大きな問題になっているのではないだろうか。
知的資本の蓄積は従業員だけから得られるわけではない。顧客接点も知識の吸収点として役に立っている。日本の会社は顧客接点を非正規化してしまったため、消費者からの知識が入らなくなった。結果「お客さんが何を考えているのか分からない」と考える会社が多くなり、消費市場から次々と撤退しつつある。製造業で残っているのは販売代理店システムが有効に機能している自動車産業だけだ。最近までは直販ルートを持っているユニクロがアパレル唯一の勝ち組だった。直販ルートを持たない家電メーカーは法人営業中心に切り替わりつつある。法人営業は社員が担当するので知識を吸収するパイプが残っているのだろう。
ドライなように思えるアメリカの企業だが、顧客接点を重要視している会社も多い。例えばAppleは直販店を作り、カスタマーセンターも充実させている。
日本の会社は、外部からの教育から切り離され、消費者からも切り離されている。残る新しい知識の吸収点は、事業体が分解することだけだ。事業体に新陳代謝があれば、定期的に「新しい風」が入ってくることになるだろう。だが、日本の会社にはそれもない。
正社員にとって重要なのは、社内政治を勝ち上がることだ。だから、社内政治に熟知することが正社員として生き抜くために必要な知的資本なのである。故に日本の会社は外側から隔絶されて、たっぷりと内輪の知識を知的資本として詰め込んでいることになる。だが、内輪の知識は1円の価値も生まない。お客さんとは何の関係もないからだ。彼らにとって「ムダ」こそが重要だ。それが外部からの参入障壁になっているからである。だから日本の会社はムダを構造的に蓄積するようになっていると言える。
やっかいなことに、この知識は利益を生むことがある。手っ取り早いのは国と結びつくことである。社内政治だけではなく政治と結びついてしまうのだ。この結果、支出の支え手が消費者から国(公共事業である)に移りつつある。次から次へと無駄な公共事業が作られ、ITまでもが公共工事化するのはそのためなのではないかと思う。
この典型的な事例が東芝だ。国と結びついた原子力部門と家電部門の間に対立があった。社内政治を繰り広げた結果「敵陣営(つまり自社のことだ)」に打ち勝つ目的で粉飾決算が横行した。結局、消費者向けの部門を切り売りしてしまうようだ。

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