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崩壊に向かう自由主義体制と安倍政権

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トルコが大変なことになっている。エルドアン大統領が独裁的な姿勢を強めており、テロ事件も頻発している。トルコは民主主義を捨てたとすら言われており、同じく民主主義を捨てかねない日本と共通している。トルコと日本には非ヨーロッパ圏の自由主義国である。
キリスト教圏は自ら民主主義・自由主義を選択したのだが、非西洋圏の事情は異なっている。どちらかといえば周辺の非民主主義大国との対抗上自由主義体制を維持しているに過ぎない。トルコが対抗しているのはイスラム教の非民主主義国であるサウジアラビアと民主主義国ではあるが自由主義とは言えないイランだ。一方、日本が対抗しているのは民主主義国ではない中国である。
どうやら、日本が自由主義・民主主義を選択しているのは、国民がそれを信じているからではなさそうだし、憲法がそれを守っているとも思えない。どちらかといえば「人権を抑圧するような活動をするとアメリカが怒るかもしれない」と考えた自民党がそれなりに忖度してきたから、民主主義がそれなりに守られてきたのだろう。
安倍政権も第一次政権の頃は「あまり派手に立ち回るとアメリカがうるさいのではないか」と思っていたようだが、第二次政権で「意外と何も言ってこない」ことに気がついたようだ。理由はいくつか考えられるが、オバマ大統領の影響力が大きかったのではないだろうか。オバマ大統領は「戦争や核をなくす事」とか「世界平和の実現」のような大きな問題には興味があっても、こまごまとしたことには関心がなさそうだ。「銃をなくすべきだ」とは言うが、具体的な政策はない。よい言い方をすれば「根っからのビジョナリスト」であり、実務を担当する補佐役が必要だったのだ。
そんな夢想家のオバマ大統領の最大の失敗はTPPだ。「自由で開かれた貿易圏を作る」というビジョンはいつのまにか「大企業が国(日本ばかりではなく、アメリカさえ)を搾取する」仕組みに変わってしまった。このため、当のアメリカがTPPに反対する大統領候補者だけが生き残り、当事者だったクリントン候補すら距離を置いている。
日本は長い間中国を自由貿易圏から排除することで繁栄を享受してきた国なので、中国が改革開放路線を始めると凋落が始まった。中国を排除したTPPはかつてのスキームを復活させるはずだったわけだが、大きな誤算があった。拠り所になる自由主義経済そのものが変質してきているのだ。
自由主義経済は大企業が市場をフリーライドしつつ権益(主に知的財産)を確保する仕組みに変わりつつある。企業から見れば、国は教育や福祉を担当して大企業に安い労働力と豊富な市場を提供するための仕組みだ。
普通に考えると「豊かな消費市場」と「格安の労働力」は両立しない。労働者は消費者だからだ。つまり、この仕組みは持続可能ではない。だから、大衆は自由主義や民主主義を擁護しなくなった。
その自由主義に代わる拠り所になりそうなのが宗教だ。エルドアン大統領はもともとイスラム教との関係が強い人で、その為に被選挙権を剥奪されたこともあるそうだ。復古的な政策も多い。エルドアン大統領が独裁者だということも言えるのだろうが、背後にはそれを支持する人たちも多そうである。一方、安倍首相は神道系の人たちとの結びつきが強い。安倍首相が独裁的だということも言えるのだが、国会質疑で「日本を賞揚する」発言から始める質問をする議員が多いところからも類推されるように、選挙民向けのアピールなのだろう。つまり「民主主義なんか下らない」し「自由とはわがままな事だ」という主張には一定の支持者がいるのだ。
その背景にあるのはいわゆる「グローバリズム」への拒否反応だろう。自由主義が搾取しか意味しない社会では、大衆の支持は開かれた市場そのものを拒否することになる。しかし、大衆は代替モデルを持たないので手近にある「伝統」に拠り所を求めてしまうらしい。
左派は[自由主義・民主主義]と[大企業支配・政治的な独裁]を対立概念として捉えているが、右派は[グローバリズム・民主主義・自由主義]と[ローカリズム]を対立概念だと考えていることになる。これでは話がかみ合うはずもない。
もっとも、こうしたことが起きているのはトルコや日本だけではなさそうだ。アメリカでも「ポリティカルコレクトネス」に疲れた人たちが、トランプ候補を熱烈に支持している。日本人がグローバリズムの元凶はアメリカだと考えているのと同じように、アメリカ人は日本人や中国人がその元凶だと考えていることになる。
つまり、民主主義とセットになっている自由主義を健全で持続可能なものに戻さない限り、大衆は自らの選択として政治的な自由を捨て去ってしまうことになるだろうと予想される。

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Comments

“崩壊に向かう自由主義体制と安倍政権” への3件のフィードバック

  1. かかしのアバター

    資本主義(種別:経済イデオロギー)は抑制する部分は抑制しないといけないと思うと同時に
    民主主義(種別:政治イデオロギー)を望む人は健在だと思いますよ(それどころか昔より増えてる)

  2. かかしのアバター

    不思議なのが
    「左派は[自由主義・民主主義]と[大企業支配・政治的な独裁]を対立概念として捉えているが、右派は[グローバリズム・民主主義・自由主義]と[ローカリズム]を対立概念だと考えていることになる。」
    ならば
    左派と右派の利害は対立しないと思うのですが
    なぜ左派と右派は対立しているのでしょう?
    左派はローカリズムは批判せず
    大企業と政治的な独裁を批判してるように見えますが。
    私の考える右派と左派の対立の原因は
    「単なる左派攻撃のために政治的に利用される右派」なんじゃないかと思います。
    大企業はグローバリズムを進めようとしていて
    ローカリズムである右派とは対立するはずなのに
    大企業優遇の自民党を応援する。
    これは右派の仮面をかぶった右派を左派にぶつけたい人たちがいるからだと思います。

    1. 「環境も立場も同じなのだから、対立するはずなんかないのに対立しているよね」とは思いました。いつまで経っても問題が解決しないので、苛立ちをぶつけ合っているだけ。アメリカでは左派のサンダースと右派のトランプが同じように成長に取り残された(あるいは締め出された)人たちの支持を集めているのに、お互いを罵り合っていますよね。あれと同じなのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
      コメントとTwitterのリツイートなどありがとうございました。