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某女性記者が全く理解できなかった「旧ジャニーズ事務所」会見の問題点 エージェント事務所幻想と巨大知財財産争奪戦

旧ジャニーズ事務所が会見を行った。当初予想されていたように欧米企業が持つ人権懸念払拭が主眼になっていた。当初、旧ジャニーズ事務所は日経新聞にリークを行い海外への発信を重要視されているなどと言われている。海外渉外(危機管理)が専門の木目田裕弁護士をつけたところからもこれがどこの誰たちに向けた会見かは明らかであった。

一方で一部の自称ジャーナリストたちは旧来型の吊し上げに終始した。彼らにはおそらく事務所側の狙いもその問題点も理解できなかったであろう。特にノイズとして目立ったのが望月衣塑子氏と見られる「某女性記者」ら一団の集団だった。いまだにネットで不当会見だったと主張しているようである。

ただ、勉強不足の彼女が気がつかなかったことがある。それが「エージェント事務所」が何を意味するのかという点と今後起こるであろう知的財産権争奪戦だ。事務所が解体するのだ。その焼け跡から「巨万の富を産むガチョウ」を持ち去ろうという人も多いはずだ。

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アメリカでは「知財」はビッグビジネス

今回の会見で最も気になったのは「知的財産」の扱いだ。

最も卑近な例で言えば、今後SMAPの「世界で一つの花」やKinki Kidsの「硝子の少年」をでカラオケを歌った時に誰がお金をもらうのであろうか?という話である。この知的財産を狙っている人は多いであろう。仮に誰かが知財を全て持っていってしまうと、Kinki Kidsは自分達の歌を自由に歌って営業活動ができなくなる。かといってそれを誰かが外に持ち出して一括管理すれば「補償の原資になるはずだった」ものを持ち逃げしたとして問題になるだろう。

さらに言えば既に独立しているSMAPの一部メンバーがYouTubeなどで「世界で一つだけの花」を自由に歌えない状況はおかしい。なぜならば新しい社の理念は「エージェント制」だからだ。エージェント制度とはつまりアーティストファーストなのだから独立した人たちも今後独立するであろう人たちも自由に楽曲が使用できなくてはいけないのである。

このことから今後ジャニーズの知的財産という巨大遺産をめぐる争奪戦が起こることは容易に想像できる。

アメリカの投資会社はこうした権利を常に狙っている。例えばテーラー・スウィフトの原盤権(レコードを作る権利)は312億円で投資会社に買収された。楽曲の権利ではなく原盤(レコードなどに使う音源)の権利だったためテーラー・スウィフトは後に楽曲を録音し直おすことができた。逆に原盤権を手にした側はファンから攻撃の対象になっているそうだ。

アメリカでは割と頻繁にこのようなことが起きている。これが日本に波及し仮に何らかの手違いで

  • アメリカや中国のファンドが知財を丸ごと買ってしまったから紅白歌合戦ではジャニーズの曲は使えません

となればおそらく国民は大騒ぎになっていただろう。

今回の会見はYouTubeに上がっている。知財の観点から情報を拾ってみるといいと思う。明確な答えは見つかっていないことがわかる。さらに藤島ジュリー景子氏に寄せられた「有利なオファー」の狙いもよくわかる。


会見の主眼はスポンサー離れ対策

今回の会見のポイントは2つあった。

藤島ジュリー景子氏も広い意味では喜多川姉弟の被害者であったということが明らかになった。補償当事者として残り「心のケアを担当する」と言っているが、仮に彼女が告白したようにパニック障害を抱えているのなら「被害者に寄り添う」冷静なメンタリティは持てないであろう。さらに藤島ジュリー景子氏は「多くのファンドから私に有利なオファーをもらった」と主張している。知財を狙っている人が多いと考えるとメンタルが弱っている人に「いっけん有利」な条件が提示された可能性が高い。「全てお断りした」のは正解だったのではないだろうか。

一方で、事務所側が現在集中的に取り組んでいるのはスポンサー離れ対策だ。

ジャニーズ事務所が人権侵害と共犯者と見られることによってスポンサー企業が将来的にステークスホルダーに対する訴訟リスクに晒されることを防がなければならない。このために、ジャニーズ事務所からタレントを切り離した事務所を作ることが急務とされた。

今回のメディア対策はこの点に絞って行われ、東洋経済・日経新聞・ロイターはこれを理解した質問をしていた。だが知財の資産継承の問題は解決していないことが明らかになっている。東山新社長はこの点には言及せず、井ノ原快彦新副社長はおそらく知財についてはまだ理解できていないようだ。そして弁護士はこの問題が解決していないことを知っている。

唯一この問題に切り込んだのが元テレビ東京の高橋弘樹氏だった。日経新聞の企画でリハックというブランドを作ったが日経新聞の意向で企画をチャンネルごと潰されて外に持ち出せなかったという経験をしている人である。

知財は継承しなくても継承してもそれぞれ問題が出てくる。高橋氏はおそらくそれを本能的に理解していたのであろう。

例えばSMAPの一部メンバーは既に独立している。だが、知財をジャニーズ事務所が抱えているためにSMAP時代の歌を自由に歌うことができない。飯島三智氏はジャニーズの知財を使った興行はできないし草彅剛氏のYouTubeで「世界に一つだけの花」は演奏できない。知財のアーティストへの移譲が速やかに行えなければ(例えば)Kinki KidsはKinki Kidsも解散した嵐のメンバーも自分達の曲が使えなくなる。これでは「アーティストファースト」とは言えないのだから「エージェント制」は形ばかりのものということになる。

さらに言えば新しく設立される事務所も「育成」のためにジャニーズ事務所時代の楽曲を使えなくなってしまう。井ノ原快彦氏はジャニーズとの関係で言えば今後は飯島三智氏と同じ立場(無関係)になってしまう。この点について井ノ原快彦副社長は「そこはきちんとやってほしい」と弁護士に希望を述べていた。

知財を「アーティストが作る」新会社がごっそり継承してしまうと今度は「単に名前を変えただけの事務所ロンダリングだ」という批判が起こりかねない。

また、独立したアーティストがエージェント契約や業務提携を選択しない場合「その人たちは過去の楽曲が使えるのか?」という問題も生じるだろう。するとアーティスト活動を放棄しない限り事実上独立はできなくなる。「独立するなら諸権利を買ってください」などとオファーしても経済的な理由から独立を諦めざるを得ない人も出てくるかもしれない。

さらに誰かが資本を独占するとその人は投資会社などに知財を売り飛ばすことができる。すると今度はそれが「補償の原資にできたのに」という社会的非難の対象になるだろう。

危機管理が専門の木目田氏はこの辺りの困難さがよくわかっていたのであろうし、おそらく高橋弘樹氏にももっと聞きたいことはあっただろう。木目田弁護士はまだ名前のない新しい会社のファイナンスについて心配しているようだ。アーティストが主体的に作る新会社が知財を買い取れるのか、またファイナンスのために知財を誰かに売り渡してしまうのではないかなど心配の種は尽きない。

この失敗例に株式会社TOKIOがある。アーティストは実は資本と知財を継承してもらっていなかった。だからこそ藤島ジュリー景子氏が代表権を持っており城島茂氏は代表権がない存在だったのだ。株式会社TOKIOに問題が露呈しなかったのは彼らがバンド活動を行っていなかったからにすぎない。今回ようやく藤島ジュリー景子氏が代表取締役から外れることになったそうだ。

このように考えると「エージェントシステム」というあやふやなコンセプトに問題があることもわかる。俳優やモノづくり工房として第二の人生を送るなら問題にならないが、これからもアーティスト活動を続けたい人たちには死活問題なのだ。

そもそも既にデーブ・スペクター氏が記者会の前に分析しているように、日本では成り立たない制度である。

日本や韓国の芸能事務所はまず目利きであるタレント事務所がタレントを自費で育成してテレビ局に売り込む。そしてテレビ局がスポンサーを集めて番組を作るというシステムになっている。例えて言えばタレント事務所は養殖業者でありテレビ局はそれを仕入れるだけである。韓国はこれがさらに進んでいて「練習生」システムを採用している。練習生のレッスン費用は全て事務所が出している。だからこそ得られた収益は事務所が受け取ることになる。

エージェントシステムはテレビ局を含めたエコシステム全体が「売れているタレントが最も偉い」というタレントファーストの前提がないと成り立たないとデイブ・スペクター氏は主張する。つまり、ジャニーズ事務所だけが「ウチはエージェントシステムでゆきます」と言ってもエコシステム(テレビやドラマプロダクションなど)全体が変わらないと成立しない制度なのだ。

今回、ジャニーズ事務所は国際的な風評被害対策を優先してしまったために「アメリカ型のエージェントシステムをモデルにします」と宣言したのだろう。確かに海外メディアにはわかりやすく伝わりそうだ。だが結果的に今のような「タレント事務所」意識のままで「エージェント」とすると中身を誤魔化しているのではないかという印象を与えるかもしれない。

TBSのニュース番組でハロルド・メイ氏も「エージェントにする必要があったのか? 従業員の意識が変わらないのであれば意味がないのでは?」などと指摘していた。さらに知財と補償財源の問題ついても明らかになっておらず懸念が払拭できないとも言っている。ハロルド・メイ氏はこれを「ビジネスモデルが曖昧である」と表現していた。


本来聞くべきことが聞けなかったのは、記者側の不勉強とヒステリックな吊し上げ願望を持った一部の記者たちのせい

本来ならばこの辺りをどう考えてゆくのかという点について掘り下げて欲しかったが、印象に残ったのは望月衣塑子さんのヒステリックな叫び声だけだった。井ノ原快彦氏の「子供たちも見ているのでルールを守ってください」という呼びかけに対して記者たちから拍手が沸き起こっていたのが印象的だった。単に吊し上げのためだけにあの場を活用しようとしたのであろう。この意識の低さはつくづく残念なことであった。

仮にプロの記者たちがある程度勉強した上で質問をしていれば新体制のビジネスモデルと補償の原資について、もっと踏み込んだ質問ができていたであろう。そのためには情報をリークせず事前に知らせた上で経済に詳しいメディアに踏み込んだ質問をさせるべきだったのかもしれない。

この会見を見終わった後で思い出したのが横溝正史の金田一耕助シリーズだった。葬式の席で惨劇が起こる。どの映画かは忘れたが遺影がニヤリと笑ったシーンがあったことを記憶している。

解体すると言っても資産が消えてなくなるわけではない。むしろ燃えている今こそがチャンスだと考えている人は多いであろう。

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