連日、日本円で運用しても利子はつかないので「ドルで運用した方がオトク」と言う話を書いている。だが「今、ドルを買うべきだ」と言う話は一切していない。単に研究しろと言っているだけだ。
なんかずるいーなあと思うかもしれないのだが理由がある。来月の動向がどうなるかがよくわからないのだ。さらに、150円は既に「オーバーシュート」の領域に入っていると言われている。
年末にかけて155円程度まで円安が亢進する可能性もある。情報を順序立てて組み立てればそれなりの方針が立てられるが既に情報酔いしている人は手を出さない方がいいかもしれないと思う。ギャンブル好きの人には活躍のチャンスだが、単に「あ、値上がりしている」で買ってしまうと後で損をする可能性も高い。
- ドルはピークが視野に、米政府機関閉鎖が長期化なら-ソシエテG(Bloomberg)
- コラム:ドル150円後の展開、上下のリスクは原油高と米景気失速=内田稔氏(Reuters)
- 年末のドル/円目標、153円に引き上げ ピークは155円=BofA(Reuters)
普段から経済ニュースを見ていて「この人は何を当たり前のことを言っているのだ」という人はここから先は読まなくてもいいと思う。この文章は「なんかよくわからない」という人に向けて書いている。
アベノミクスを冷静に判断して早めにドルを手に入れていた人たちには依然魅力的な環境だが、150円から155円程度までドルが上がるのを見て「もっと上がるのではないか」と考えて手を出すと高いドルをつかまされる可能性が高い。「これまでの議論がわからなかった」と言う人は面倒なマテリアルを読むのはやめて支出を減らした上で、割の良いバイトか副業を増やすべきだろう。
ロイターの記事で内田稔氏は「150円台はオーバーシュート」と言っている。オーバーシュートとはあるべき状態を外れていることを意味している。それはいずれ「あるべき水準に戻る」ということだ。もっとわかりやすく言えば「今は高すぎるぞ」と言っている。
そうしたことを見据えると、年度末にかけての日米金利差は拡大するより、限定的ながら縮小する可能性の方が高いのではないか。2022年以降の日米間の名目長期金利差とドル/円の散布図を描くと150円台は既にオーバーシュートの領域でもあり、155円に達することなくピークアウトすると考えられる。
この観測はBofAの観測に近似する。
現在、米ドルが一人勝ちという状況が続いている。中国とヨーロッパの景気はよくない。日本の成長も見込めない。そのためアメリカ合衆国以外に資金の行き場がなくなっている。さらにもう一段のFRB利上げが予想されておりこの場合は155円を目指して上昇する可能性がある。ここで「過去のグラフを見るとさらに上がるのでは?」と考えてしまうのは危険である。
ここに別のリスク要因が加わる。政府閉鎖が避けられない状況になりつつある。これについては何回かお伝えしているのだが「アメリカの政府閉鎖は日本には関係ない」と考える人が多いようで全く読まれなかった。だから「何が何だかよくわからなくなる可能性も高いから米ドルは今はやめておけ」と具体的に説明するのがいいのかもしれない。良い方に転がるかもしれないが悪い方に転がる可能性も高い。
Bloombergは「上院でディールがまとまった」と伝えていたのだが、直前になって慌て始めている。どちらかと言えば共和党寄りのBloombergは現状をあまり認めたくなかったのかもしれない。
米議会は10月1日からの政府機関一部閉鎖を回避するための合意をまとめることができていない。閉鎖に追い込まれれば、政府の請負業者が直面する売上高の損失や遅延は1日当たり最大で19億ドル(約2800億円)に上るとされ、長期金利上昇や依然高い水準にあるインフレを巡る懸念が増幅する格好となっている。
確かに下院のマッカーシー下院議長は下院をまとめきれていない。一部の下院議員たちはバイデン大統領の弾劾に夢中になっていて予算もまとまらないのに弾劾に対する調査が始まっている。おそらく共和党寄りのメディアはこの状況を直視したくないのだ。
- 米下院議長、一時的な政府資金手当案を拒否 政府閉鎖のリスク高まる(Reuters)
政府閉鎖が長引けば来月は政府統計が出なくなる可能性が高い。政府が閉鎖になると集計作業の優先順位が下がるのでCPIや労働統計が出せなくなってしまうのである。
- 米政府閉鎖なら雇用統計など主要指標の発表が停止=当局者(Reuters)
この政府閉鎖の影響が軽微に終わるのかあるいはそうでないのかは人によって意見が全く異なる。
米政府機関の閉鎖、1日19億ドル規模のリスク-影響は日増しに増大(Bloomberg)
数日で終われば影響は軽微なものに終わるが「これは妥協が成立しない」ということになるとじわじわとパニックが広がる。特に面倒なのが1ヶ月程度妥協が成立しない場合だ。10月31日から11月1日にかけてFOMCが開催されるそうだ。さすがに「政府統計がありませんでした」ではなにも意思決定はできない。
もちろん統計が出ない間に再びインフレが亢進し11月にもう一度利上げがあるかもしれない。だが、Bloombergは「米ドル一人勝ちのトレンドが変わる可能性がある」と書いている。議会に向けた脅し(働きかけ)という側面もあるのだろうが、「政府閉鎖」というトンネルの先がどうなるかは今は誰にもわからないというのも確かだ。ジリジリと身を焦がすようなギャンブルが好きな人にとっては魅力的な相場だが資産防衛をしたい人にとってはあまりよろしくない状況になっている。まあ、この際焼け焦げてみるのも一興かもしれないがあまりその気にはなれない。
前回の政府閉鎖はトランプ大統領が「壁建設」を優先し譲らないのが原因だった。つまりトランプ大統領が妥協をしたことで騒ぎが収まった。だが、今回妥協が成立するかはアメリカ有権者の気分次第である。
面倒なことに今のアメリカの気分はメディア報道だけからはよくわからない。QuoraのようなSNSで直接アメリカの人に話を聞くと、アメリカ人が共和党・民主党対決に夢中になっていることがわかる。下手に妥協をしてもフリーダムコーカスを甘やかすだけなので「行くところまでいけばいい」という人もいる。まさに頭に血が昇っている状況である。「サウンディング」は重要だなと思う。
これらのシナリオを想定すると次のような絵が作られる。
おそらくまずは混乱があり、その後にもう一度利上げがくる可能性が高い。この時に若干円安・ドル高に触れるがその後オーバーシュートの揺り戻しが起こる。さらにアメリカは利下げ局面に入り今度は「円高」局面がくることが想定されている。この時にアメリカの景気がどうなっているかはわからない。このままソフトランディングできるという人もいればハードランディングだと予想する人もいる。また正常化した時にドル円水準にも合意はない。
- コラム:予想される米政策金利高止まり、円高の動きは緩やかに=上野泰也氏(Reuters)
回復後のドル円水準がどうなるかはわからないが、アメリカが利上げから利下げに転じると今のような極端な円安は終息する。円が下がる前にドルを買っていた人は今のうちに調達レートを計算してどれくらいで撤退するかを決めておくと良いだろう。
調達レートが十分に低かった人はこのまま撤退せずに金利の高い米ドルで資産を持っておいてもいいかもしれない。円貨資産の利率はそれほど高くないからである。為替が少々下がったとしてもドルの調達コストも低ければ十分に元が取れる程度の合理的な資産になるだろう。