岸田文雄総理大臣が代表を務める自民党広島県第1選挙区支部で政治資金収支報告書に記載ミスが見つかったそうだ。共同通信によるとこのほかにも間違い10件以上あったそうだが岸田総理側はうっかりミスであるとして修正する方向だ。
一方で10月1日からインボイス制度が始まる。中小零細事業者が打撃を受けそうな制度だが50万筆の抗議署名の行方はよくわかっていない。「ルールを作っている方が偉い」というのが社会常識なのだと考えれば「まあ世の中ってこんなものなのかな」とは思うがどこかやりきれなさが残る。自分達の出納管理は極めていい加減なのになぜ国民にばかり厳しい制度を押し付けようとするのかと考えてしまうからだ。
ただこれについて考えていて「日本の成長を阻むある考え方」に行き当たった。それが「置かれた場所で咲きなさい」である。
共同通信は次のように伝える。
岸田文雄首相が代表を務める自民党広島県第1選挙区支部が2021年、他の自民党支部から受けた寄付金10万円を政治資金収支報告書に記載していなかったことが28日分かった。第1選挙区支部のほか、岸田首相の資金管理団体と後援会の収支報告書、選挙運動費用収支報告書でも、寄付を受けた日付や団体名を間違ったケースが計9件あった。不記載を含め10カ所以上の修正が必要となる見込みで、首相の事務所担当者はいずれも「訂正する」としている。
「あれ21年か」と思った。この件に関しては既に文春が空白の領収書の問題を報じておりこれが間違って再配信されたのかと思ったのだ。だが日付を見ると2023年9月になっている。どうも新しい問題のようである。2021年当時も公職選挙法違反になる可能性があると言われたが結局は「お咎めなし」だった。ここできちんと情報を精査していれば今回のような問題は起こらなかったのだろうがマスコミの批判を重く受け止めていなかったのかもしれない。
正直「ずるいなあ」と思う。
政治資金収支報告書は政治家に極めて甘い制度になっている。記載ミスがあってもバレた時に修正すれば問題にならない。これは前回、小渕、萩生田、高市各氏が公共工事を請け負っていた会社から寄付を受けた時にもあった問題だ。この時も「バレてから返金すればいい」という話になった。予算や事業拡大をめぐって政府を刺激したくないNHKは問題を特に大きくしようとは考えず「返金するから問題はない」というコメントだけを報道した。
一方で、消費税をめぐっては10月1日からインボイス制度が導入される。消費税は政治的な理由から税率にさわれないので「今ある制度をできるだけ活用しよう」という流れになっている。増税議論も進まず防衛などで支出が膨らむことが予想されている。だから、取れるところから取ろうとしているのだろう。
フリーランスなどへの周知徹底は不十分で50万筆の反対署名が集まった。だが、受け取りを拒否されている。政治家にツテがないと会ってももらえず、会おうとした努力すらなかったことにされてしまうのである。政府は29日に対策会議を開くと言っているが制度は10月1日から始まる。一体何を話しあうのだろう。
一方で政権側は組織化された労働者への取り込みは強化している。新しく首相補佐官となった矢田稚子氏をまるで閣僚のように扱い「自公国政権」ができているかのような写真をマスコミに撮らせている。政権にとって労働者一人ひとりはシラスのようなものだ。一人ひとりの労働者を釣るような作業は好まれず、代わりに「一網打尽」にしたがるのだ。「聞く力」という割には随分と荒っぽい。
岸田首相、「自公国」で物流視察 斉藤国交相と矢田補佐官同行(時事通信)
インボイス制度に関しては消費税の徴収強化と増税を狙ったものだと言われているが財務省側はこれを否定している。否定はしているが「どれくらい増収が見込まれるか」について鈴木財務大臣は口を濁している。
確かに先進国では消費税や付加価値税の導入に対してインボイスを義務付けており世界標準に合わせているだけという見方はある。さらに言えば免税事業者に収まっていれば消費税は納めなくてよいのだから「これ以上事業を拡大しよう」と思わない人も出てくるだろう。実はこれこそが問題なのかもしれない。
- インボイス制度「増税目的ではない」 鈴木財務相(日経新聞)
上場企業に限って言えば賃上げが進んでいるとも言われている。実はこれが税金を考える上で「実に絶妙な額」なのだ。
- 上場企業の平均給与638万円 過去20年で最高額(産経新聞)
実は年収が1000万円規模になると税率が極端に上がる。今は年収330万円から695万円が一つのレンジになっているそうだ。これが国税が決めた「普通のサラリーマン」である。企業は従業員が普通のサラリーマンレンジに収まるように給料を調整しているのかもしれない。
これ以上に年収を上げてしまうとスタープレイヤーに対して「税金を取られるのが嫌だから自分で会社を作ろう」ということになってしまう可能性がある。さらに労働者の方も「税金を取られるくらいならそこそこ頑張ればいいや」と考える。
実はパートの103万円の壁と同じような現象が起こっているのかもしれない。
今回のインボイスを見ても免税業者特権を守りたいためにビジネスを拡大したくない人がいるのだろうと考えると、それぞれのレンジで「置かれた場所で咲きなさい」というような気持ちがあり、社会が全体として成長を目指さなくなっている可能性が浮かんでくる。
このように日本は「とりあえず今置かれている境遇でそこそこ節約して暮らせればいいや」という国になっている。そもそもの労働人口が減ってゆくなか収入拡大意欲を削ぐような制度ということだ。だが、一人ひとりの収入意向や見込みについての調査はない。だからこの「置かれた場所で咲きなさい」という抑制的な気持ちは発見されず、したがって政策に生かされることはないのだ。
政治家は統計などを駆使して阻害要因を取り除いた上で広い視野で成長戦略を組み立てるべきだろう。だが、そもそも自分達の収入管理もできていない。まずは政治資金の出納管理をきちんと見直してから国民に対する改革を行って欲しいものだと思う。
Comments
“岸田総理も修正 政治資金収支報告書は「ごめん間違えた」でお咎めなしの一方で零細事業者には徴税強化” への2件のフィードバック
https://news.goo.ne.jp/article/mainichi/politics/mainichi-20230927k0000m010087000c.html
上の記事を読むと、首相への署名の手渡しがセキュリティを理由に断られたようですね。手渡しにこだわる理由は、郵送よりも世間にアピールできるからなのでしょうか?
匿名の書き込みを見ると、ネット署名を渡すことへの批判や、手渡しに固執することへの批判が見受けられました。
政治活動に興味ないと、署名を手渡すことにこだわる理由が不明なのは理解できます。その一方で、署名を直接受け取れば首相は民意を「聞いている」アピールが出来るんじゃないかと思いました。
https://mainichi.jp/articles/20230929/k00/00m/040/283000c
上の記事では、議員会館で首相の秘書と面会。オンライン署名のため、情報が入ったUSBメモリーを手渡したと書かれているので署名自体は渡されたようですね。しかし、これでインボイス反対運動に有利になるとは微塵にも思うことが出来ないですね。そもそも、今の日本で署名活動をしてそれを渡しても、影響を与えると思うことが出来ません。決まったことは覆すことはできないと諦めてしまいます。今までもそういう法案はいくつかあったので、そういう風に思うのかもしれません。
こういう風に書いていると、凄く自分が日本の民意や民主主義に対して悲観的だなと感じます。
ようやく会議も開き(とはいえ1日から制度は始まってしまうわけですが)署名も受け取り(とはいえ原本は郵送されているのでUSBで)とネットの評価に慌てて対策したんですね。初動の「会ってもらえなかった」だけが報道されて印象に残りますから、組織票対策は上手でも無党派層対策は下手くそだなあと思います。今にして思えば、だからこそ「聞く力」アピールが必要だったんでしょうね。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8888c79defc0e44755cd9da7102593440e1e4579