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ジャニーズを震源とする「新浪ショック」と「ACジャパン祭り」に揺れるテレビ局 背景は進むテレビ離れ

テレビ局に大激震が走っている。例えるならば災害級の地震が起きたような感じである。だがその揺れを大きく感じている人もいれば全く気がつかない人もいるという奇妙な状態だ。

「ジャニーズ問題をきっかけにACジャパン祭り」が始まっていると一部の週刊誌系メディアが書いている。確かに、9月中旬ごろからニュース番組など一部でACの広告が増えた印象はある。きっかけになったのは「新浪発言ショック」だそうだ。仮にこれがジャニーズを震源としたショックであれば事務所が体制を整えればおさまるはずだ。しかし「そうならない可能性があるのではないか」と思った。

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ゲンダイとFRIDAYが「ACジャパン祭り」について書いている。ACジャパン祭りが始まったらスポンサーがテレビ局にノーを突きつけているサインなのだという。ゲンダイはスポンサー料は払いつつ「広告を流したくない」企業が差し替えに使うのがACジャパンなのだという。一方でFRIDAYは「ACジャパンの広告は無償だ」と主張している。ORICONが東日本大震災の時に出した記事には「会員の会社が必要と思われた時にお使いいただく広告素材」と説明していて、スポンサーが撤退したのか単に自粛しているのかについては触れていない。東日本大震災の時と同じような動きが起きていると考えることができる。

しかし「本当にこれはジャニーズ事務所を震源とした問題なのか」とも感じる。日本は忖度型の村社会なので、仮に企業がCMに頼っているならば企業の団体はショックを和らげる表現を選んでいるはずなのだ。

実はテレビ広告が伸び悩んでいるようだ。電通が毎年出す総括の解説をAdverTimesが分析している。

AdverTimesはまず電通発表の内容を紹介している。電通によると「広告費の全体は増えていた」ことになっている。中でも大きく伸びたのはネット広告とテレビ広告だった。しかし、AdverTimesはこれを疑っているようだ。続けて経済産業省の推計を出している。インターネット広告とイベント広告は伸びているのだが、テレビ、新聞、企画・調査などのその他が落ち込んでいるという。

少し古い資料ではあるが広告宣伝費が多い企業について調べている記事を見つけた。コロナの影響で広告費は全体的に減少しているのだが知名度が高い企業が知名度を維持するために広告を打つ傾向が強いというまとめになっている。順番に、ソニー、日産、イオン、リクルート、サントリー、セブン&アイホールディングス、ブリヂストン,マツダ,資生堂、任天堂と続く。最も悪い言い方をすれば「惰性」で広告を流している企業が多いということだ。上位10社を見ると「コンシューマー系」の企業ほど多く広告費を出していることがわかる。

国内では原油高によるインフレが始まっており、名目・実質ともに消費が落ち込んでいる。そんな中企業は「賢く」広告費を使いたいと考えるようになるだろう。だがここで問題が出てくる。

みんなが広告をやっているのにウチだけ広告費を縮小したらまずいのではないかという問題だ。この場合だれかが「ちょっと考え直しましょうか」というサインを送ると全体で行動を変えやすくなる。

今回のジャニーズをきっかけにした「広告自粛祭り」で仮に売り上げやシェアが落ちたとしよう。「やはりテレビ広告は必要だった」ということになるだろう。ここで「思ったほど売り上げが落ちなかった」らどうなるだろうか。惰性で広告を出しているところはおそらくテレビから広告を引き上げてしまうだろう。

さらに深刻なのはジャニーズタレントを安易に別のタレントに置き換えた時のCM効果である。CMの中身のなさをジャニーズタレントで埋めていた場合、タレントが変わると「単に意味がわからない」ことになってしまう。すると企業は「やはりテレビCMには効果がなかった」と考えるようになるはずだ。だが大手広告代理店も全てのクライアントに対してトップクリエーターをアサインして「意味のある広告」に切り替えることはできない。今、大手広告代理店はかなり試されている。「とりあえず他がやっているから御社も」と言いにくくなっているのだ。

初動において日本の広告代理店はこの状況をうまく理解できなかった。東スポによれば「ジャニーズにお金が流れると世間からバッシングされると思い出広を手控えている」という分析で「1年間マネージメント料はいただきません」というアドバイスがジャニーズ事務所側にあったのではないかとも言われている。

「企業側が恐れているのは、ジャニー氏の名前が付いたジャニーズ事務所にお金が入ることで、人権侵害を容認すると受け取られること。一連の〝見送りドミノ〟もその観点から起きている。そうした懸念を払拭するために、今回の案を講じたのだろう」(代理店関係者)

そう考えるとサントリーホールディングスの新浪さんの発言が生きてくる。「うちはやめた」というと他の会社もやめやすくなる。だがやはりこれはギャンブルではあるのだから「全面撤退」とはいわない。あくまでも様子見の体裁を取る。さらにサントリーが海外市場も重要視している場合には海外に対して「サントリーは人権企業である」とアピールすることもできる。逆にP&Gのように「契約は継続しつつ企業に対して粘り強く働きかけることが社会的責任だ」と発言する企業もある。実は代理店よりも企業経営者の方が情報を豊富に持ち情報発信にも長けている。CMよりもPRの方が先を言っていると言えるだろう。

P&G社長「責任ある広告主でありたい」 ジャニーズ起用続ける意図

テレビ局も対応を始めている。巷間指摘されるようにテレビ視聴者の高齢化が進行している。これまでテレビ局は「世帯視聴率」を意識し、中高年も交えて家族みんなで楽しめるような「手堅い」番組づくりを模索してきたとされる。フジテレビは今回の改編でそうした「手堅い番組」を終了させるのだという。今回の一連のショックは変革期にあるテレビにさらなる変化を求めている。

【改編期の異変】フジテレビが「楽しくなければ」の姿勢を鮮明に 世帯視聴率狙いの番組を一掃し原点回帰へ

あたらめて個人視聴率を狙うにあたり「固定客」を持っていたのがファンクラブがしっかりしていたジャニーズだった。確実に視聴率が稼げる「組織票」を持っているジャニーズ事務所を手放したくなかっただろう。

政治から無党派層が離れるなかで、自民党が組織票のある創価学会に傾斜してゆくのに似ている。

もう一つ大きな変化が起きている。Yahoo!ニュースを見ていると連日ジャニーズ関連のネガティブな記事が目立つ。だがこの記事を読んでいる人たちがどれくらい普段テレビを見る習慣があり「年末には紅白歌合戦がなければダメだ」と思っているのかがわからない。つまり、ある世代にとってテレビは見るものではなく外から論評するものになっているということだ。

これはテレビだけの問題ではないと思うのだが「みんなで楽しく見るメディア」はなくなりつつある。代わりに言論を監視し何かあればクレームを入れてやろうという人たちが増えている。そんな中「とりあえずみんなが納得する番組やタレント」の需要は低下しているといえるだろう。

仮に今回の問題がジャニーズ問題でなかったとすれば、ジャニーズ事務所が名前を変えようが、藤島ジュリー景子氏が株を手放そうが、全く関係ないということになってしまう。変化は別のところで起きている。

「他の会社がやっているからうちもやっていた」という企業がテレビから離れ「みんながジャニーズを使っていたからうちも使っていた」という企業がジャニーズから離れてしまう可能性は意外と高いのではないかと思う。

この場合に懸念されるのが「どの番組が切られるか」だろう。例えば最近では予算の多かったTBSのVIVANTが大好評だった。大手のスポンサーがVINVANTの出演者を使ったCMを流していた。しかし、このように成功する番組はほんの一握りしかつくれない。

一方でニュース番組にACジャパンが目立ったことを考えると「企業の選択と集中」が我々の知る権利を侵害することになりかねない。意外と政治言論に与える影響も大きいかもしれない。

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