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岸田総理が日本の金融資産運用の解放を表明 英語のみで行政対応が完結する「特区」設立の意向を示す

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サプライズ好きな岸田総理はニューヨークで講演し「資産運用特区」創設を表明した。特区では日本独自のビジネス慣行や規制の打破を目指す。

中でも注目されそうなのが「日本独自のビジネス慣行」の中に「日本語の行政サービス」が含まれている点だ。英語のみで行政サービスができる体制を整えるという。サプライズ発表だったため、どの地域が特区になるかは示されておらず、国内からの反応もこれからだ。外資に日本の金融資産が解放されると外貨による運用も一般化するのかもしれない。一方でキャピタルフライトを引き起こし円安が加速する可能性もある。

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事前に予想されていなかった発表だけに各紙は驚きを持って伝えている。だが、岸田総理の発言以上の詳細はまだわからない。

最も詳しく書いているのは日経新聞だ。ファンドマネージャーを招く上で「日本語が障壁」と分析した上で、行政サービスが全て英語化されれば優秀なファンドマネージャーが成長著しい日本に集まってくれるはずだと考えているようである。

柱は資産運用特区の創設だ。海外から優秀なファンドマネジャーを招くうえで日本語の壁の高さが指摘されてきた。「英語のみで行政対応が完結できるよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める」と改善策を説いた。

制度そのものは米国やフランスなどの「運用資金獲得支援プログラム(EMP)」を参考にしていると見られるためそれほど混乱はなさそうだ。コピー・アンド・ペーストは日本の得意とする分野である。「新しい資本主義」よりは具体性がある。

一方で東京都以外の自治体が「英語のみの行政サービスに耐えられるのか?」と言う疑念は浮かぶ。当然金融庁の監査なども英語で行われることになるはずだ。解放だけして監督しないということはあり得ない。さらに記事は「行政手続き」ではなく「対応」と言っている。つまり何かあったときは英語で直接問い合わせが入ってくると言うことになる。ファンドマネージャーの暮らしを支えるサービスも全て英語対応が必要になるだろう。日本人の英語力は国際的に極めて低い状態にあるとされているだけに、具体的な環境をどのように整備するのかには懸念もある。

岸田総理のサプライズは日本国内ではネガティブなハレーションを起こすことが多い。もともと変化を嫌う性質がある上に実務能力が伴わないことが多いためだ。今回も「変わらないための抵抗運動」が広がることも予想されるのだが着想を聞いただけで「そんなことは無理に決まっている」と頭から否定することは避けたいと思う。

だが、どうしても拭えない懸念がある。それがキャピタルフライトである。すでにロイターにこのような文章が出ていた。「円安マグマ」と言っている。外貨による資産運用に後ろ向きな人たちが外貨による資産運用の魅力を知るとおそらく円貨が削られ外貨を購入する動きが起きる。

確かに唐鎌氏が指摘するように、最近はネット銀行で「外貨預金」への誘導が始まっている。新生銀行は2022年末に1年ものの定期預金の利率を5%にすると発表した。2022年11月のITメディアの記事は「住信SBI、外貨預金3500億円超える ドル定期は金利5%、円安とドル利上げ背景に」と書いている。ソニー銀行も円からドルを買った人には6ヶ月の間9%の利息をつけますと言うキャンペーンを始めたばかりである。その後は相場通り5%となるようだ。

こうしてネット銀行では外貨運用を通じた顧客獲得合戦が始まっている。

唐鎌氏は「ネット世代にとっては何を今更と言う話だろう」とした上で、これが一般(つまり高齢者のことだ)に波及すると外貨による資産運用が一般化し円安の方向に作用する可能性があると言っている。これが「円安マグマ」である。

実際に行政特区がどうなるかは別にして「これからは外貨運用だ」と言う流れができればそれになびく人は大勢出てくるだろう。

ただし、冷静になって考えてみると「そもそも米株も米国債も自宅で購入することができる」のにファンドマネージャーがわざわざ日本に来る理由が見当たらない。

落ち着いて考えてみると、おそらく日本に必要なのはベンチャーに対する海外からの直接投資などだろう。つまり「投資の呼び込み」が必要なのだ。この場合、起業家も英語で対応する必要がある。イスラエルなどはこうした環境になっていたがネタニヤフ首相の司法改革をきっかけにしたテック企業の逃避が始まっている。英語が堪能な人が多く資金も調達しやすいが政情が不安になればさっさと国外に流れてしまうのだ。

今回も「日本に対する企業投資・起業家支援」と併せて提案すべきだったのかもしれない。海外から日本に投資が流れ込んでくるのであれば日本の金融資産が出てゆくのは構わない。しかしながらその場合は日本の起業家が英語を話す必要がある。おそらく本当の「参入障壁」はそこなのではないかと思う。海外のファンドマネージャーたちが日本にいる必要があるとすればそれは「日本にしかない魅力的な機会」を探す場合だけなのである。

今後岸田総理の大胆な提案がどのように受け止められるのかを注目してみてゆきたい。

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