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ナゴルノカラバフでアゼルバイジャンが一定の成果 一時は「新しいコーカサスの戦争」の指摘も

アゼルバイジャンの攻撃をきっかけにナゴルノカラバフにいた分離派が掃討されたようだ。厳密には「アゼルバイジャンの内政問題」だが、一時は「新しいコーカサス戦争の危機」が高まっているなどと囁かれていた。次の課題はアルメニアの内政の混乱かもしれない。パシニャン首相への批判が高まり国内で難しい立場に置かれている。

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コーカサス地方にはコーカサス系の独自言語を話す民族、インドヨーロッパ系の住民、トルコ系の住民が混じって暮らしている。コーカサス系の代表的国家がジョージア、インドヨーロッパ系の代表国家がアルメニア、トルコ系の代表的国家がアゼルバイジャンだ。このほかにインドヨーロッパ系のオセチア人なども暮らす。

アルメニアは紀元前からある古い国だが数々の帝国に支配され最終的には東西に分かれた。東部はペルシャやロシアに支配されたが西部はトルコ系が支配的なオスマン帝国に組み込まれた。

オスマン帝国にいたアルメニア人たちはオスマン帝国末期にジェノサイドの対象になった。このため現在のアルメニア領域はセヴァン湖とエレバンを含む狭い地域に限られている。かつてはヴァン湖やアララト山などもアルメニアに含まれていたが、現在のアルメニアはその東側の一部地域を支配しているに過ぎない。

このジェノサイドによってアルメニアにはトルコ系を恨んでいる人が多い。トルコはアルメニア人虐殺を認めていないがバイデン大統領が2021年にジェノサイドを認定しトルコから反発を受けていた。アメリカ合衆国にはジェノサイドを逃れたアルメニア系住民が多数暮らしている。

アルメニアは西側をトルコに奪われ東側沿岸部にはアゼルバイジャンに奪われれた。アゼルバイジャンはロシア領に組み込まれたトルコ人の国だ。アゼリ人は現在のイランにも多く暮らしている。つまりアルメニアはトルコ系にぐるりと取り囲まれている。

今回のアゼルバイジャンの攻撃はナゴルノカラバフ地域にいるアルメニア系分離勢力の掃討を目的としていた。アルメニア人にとってみれば本来自分達の国だった東西の地域をトルコ系に奪われていると言えるのだが、アゼルバイジャンから見ればナゴルノカラバフ地域はアルメニア系の分離勢力に不法占拠されている状態だ。

このためまずラチン回廊を封鎖してアルメニアとの行き来を9か月にわたって遮断した上で反発を強める分離独立派を攻撃し全面降伏に持ち込んだ。死者数は30名ちょっととされている。

今回の衝突においてアメリカはアルメニアに対して全面的な支援を表明していたが何の役にも立たなかった。また駐留するロシア軍も実質的に何もしなかったといわれている。

前回の大規模な紛争は2020年に起きている。この時の死者数はよくわかっていないが約5,000人程度が亡くなったと見られているという。

一度ナゴルノ・カラバフについては調べたはずだと思い検索したところ2022年9月にも軍事衝突が発生しアルメニア側に100人以上の死者が出ていた。今回の攻撃を見るとアゼルバイジャン側はこの時の停戦合意に全く納得しておらずラチン回廊を封鎖した上で隙を見てナゴルノ=カラバフを攻撃するチャンスを狙っていたことがわかる。今回はアメリカ側が停戦を求めたにもかかわらず攻撃をやめなかったことから、アメリカの存在を全く恐れていなかったようだ。

アゼルバイジャンの強気の理由はおそらくは天然資源である。アゼルバイジャンはカスピ海で産出されるガスをジョージアとトルコ経由でヨーロッパに送っている。ヨーロッパでは燃料価格の高騰が始まり経済に悪影響が出始めているためこの天然ガスはヨーロッパにとって極めて重要だ。アゼルバイジャンが一方的に構成を強めナゴルノカラバフにいるアルメニア人を迫害してもおそらくヨーロッパは形式的な非難をして終わりにしてしまうのかもしれない。

ガスパイプラインはアルメニアとナゴルノカラバフ地区を迂回するように走っているため、ナゴルノカラバフ紛争が直ちに影響を与えることはない。だが、隣国のジョージアもアブハジア独立・併合運動を抱えている。

ジョージアはロシアの脅威に晒されておりNATOへの加盟を求めている。グルジアはカフカス諸語を話す独自語族だがオセット人はロシア系の地域に取り残されたイラン系の人たちで民族系統が異なる。アブハジア人はコーカサス系の独自言語を話すがジョージア語とは系統がまた異なるそうである。ロシアはアブハジアと南オセチアを自分達の領土にしたいと考えている。

今回の一件で、アルメニアのパニシャン首相が批判を受けている。パシニャン首相は「軍がクーデターを画策している」と指摘し与野党が睨み合う事態になっている。AFPが首都エレバンでのデモの様子を伝えている。

さらに今回の件でも「自分達は関与していない」として責任回避を図ったそうだ。時事通信は次のように伝えている。

アルメニアのパシニャン首相は20日、アゼルバイジャンと地元当局の間の合意で、自国は関与していないと説明。国内で反政府デモが起こり、弱腰と批判される中で責任回避を図った。

アルメニアにアゼルバイジャンに強く対峙する強硬な政権ができた場合も地域の不安定化につながるのかもしれない。

そもそも歴史的に安定しない地域であり現在も国境線を巡り様々な駆け引きが続いている。今回の件はひとまず小規模な対立で終わったように見えるのだが、コーカサスが世界の火薬庫であることは間違いがない。このため小規模な掃討作戦でも「すわコーカサスで新しい戦争か」と言うような記事が出てしまうのだ。

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