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イスラエルのテック企業は国外退去を検討している

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イスラエルの主な輸出産業はIT産業である。そのIT産業が国に残ってネタニヤフ首相と戦うか逃げ出すかという選択を迫られているそうだ。特にスタートアップはかなり動揺しているという。思わぬ批判にさらされたネタニヤフ首相はBloombergのインタビューに答えてみんなが困るような司法改革はやらないと説明している。だがこのインタビューを追加報道するところはなかったようだ。「その場凌ぎの言い訳だ」とみすかされているのかもしれない。オープンな社会は国に豊かさをもたらすということがよくわかる。日本人もここから何かを学ぶべきである。

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世界各国から国民が集まってきたイスラエルは憲法を制定することができなかった。そのため最高裁判所が最後の防衛ラインになっている。議会と行政の方針に対して最高裁判所が拒否権を持っているのである。このためイスラエルの民主主義は比較的健全に保たれてきたと考える国民が多い。

汚職裁判を抱えているネタニヤフ首相は司法の力を減じたい。また超正統派と呼ばれる原理主義的なユダヤ教徒たちもイスラエルをユダヤ人だけの国にしたい。二つの勢力の利害が一致して実現したのが「司法改革」である。彼らの共通目標はおそらく国家の私物化である。

この動きに対して国内外から懸念がある。特に懸念を表明しているのがイスラエルのテック企業なのだという。テック企業が国からいなくなれば国家を私物化してもその中身は空虚なものになってしまうかもしれない。さらに国が貧しくなればネタニヤフ氏を支えてきた人たちと超正統派がお互いにお互いを非難し始めるかもしれない。彼らは所詮同床異夢なのだ。

自由な民主主義と開かれた社会は富を惹きつける。逆に閉鎖的な社会から富は逃げてゆく。閉鎖的な社会のもとで「失われた数十年」を経験する日本人もこの点は知っておくべきだろう。国を開けば豊かさはそれを求めてやってくるのだ。

民主主義が失われると国の豊かさが逃避するという指摘は香港の民主主義が中国共産党によって制限された時にも指摘された。だがイスラエルの事例はそれよりも極端だ。もともと国を持たない民族だった歴史が長いので動きが早い。

もともとユダヤ人は国を持たなかったためにお互いに資金を融通し資産保全をやっていた。このため映画などのエンターティンメント産業やハイテク産業に資金が集まりやすい。イスラエルに優秀なテック産業が多かったのはそのためだろう。だが、ユダヤ人は国際的な広がりを持っているのだから「国が何かおかしい」ということになれば当然資金を外に逃す。スタートアップの7割がイスラエルから現金を引き出したり本社の所在地を動かしたそうだ。あくまでも国に残って戦うとするテック企業もあるがごく少数だという。既に拠点を持っているイスラエル企業も難しい選択を迫られている。

現在イスラエルのテック企業は輸出の半分を占めている。WIREDの伝えるところによればその納税額は135億ドルにものぼるという。スタートアップが国外に逃げ出しても投資家や起業家は困らない。もともと主な市場はアメリカにある上にアメリカで十分にビジネスが継続出るからだ。

さらに有事の際に国を守れるのかどうかも怪しくなりそうだ。

周囲をアラブ圏の国々に囲まれているイスラエルは有事に備え現役兵士よりも多くの予備役が動員できるようになっている。今回の司法制度改革により予備役の将校たちは「任務放棄」を宣言している。

こうした反発を受けてネタニヤフ首相は「司法制度の改革はやらない」とBloombergに対して説明している。

このためBloombergは「ほぼ取りやめ」と伝えているが、そのほかのメディアは追随していない。たとえばロイターは同じ記事をこのように伝えている。結局司法改革を進めているという内容だ。

自由で開かれた社会は世界中から富とアイディアを惹きつける。成長から見放され人材不足まで囁かれるようになった日本人は大いにこの事例から学ぶべきだ。

だが日本の低成長は1990年代以降既に30年続いている。変化が徐々に進行したこともあり文化的・政治的な閉塞が富を遠ざけるという実感は得にくいかもしれない。特にIT産業は個人のアイディアが大きな富に化けるというギャンブル性の高い産業である。IT土方に張り付けられている日本では「何か一つ大きなアイディアを考えてやろう」という意欲を持つ前に潰されてしまう。このような悲惨で希望のない労働環境の元に優秀な才能は残らない。

日本では実感できない社会・文化のオープンさと豊かさの関係を我々はイスラエルから学ぶことができるのかもしれない。イスラエルはネタニヤフ首相が破壊したものを見て失ったものの大きさに徐々に気がつくだろう。失ったものは容易に再構築できない。

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