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ジャニーズ事務所の「マネージメント料金はいりません」が国際ビジネスを展開する企業に全く響かない明確な理由

ジャニーズ事務所所属タレントをCMから締め出す動きが加速している。この対抗策としてジャニーズ事務所は今後1年間マネージ年と料金はいりませんと宣言した。ジャニーズ事務所が今回の問題を全く理解していないばかりか新社長やそれを支援する法務チームにビジネスセンスが全くないということを露呈している。

藤島ジュリー景子氏と東山紀之氏がこの会社を経営し続けるのはおそらく無理だろうし、周囲にサポートしてくれる人もいないのだろう。ジャニーズ事務所を解体し補償と権利管理に特化した会社にした上で、タレントの受け皿を他に探した方がいい。

だがそもそも「なぜマネージメントフィーを受け取らない」が対策にならないのかがよく理解できていない人も多いのかもしれない。ジャニーズ問題については実にさまざまな記事が出ているが今回の企業のCMからの撤退についてはその理由はよく理解されていないようだ。

当然読者にはもやもやしか残らない。善悪を判断する前に状況を整理してモヤモヤの解消をすべきだろうと感じる。

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今回の問題のおさらいをしておこう。まずBBCが問題を掘り起こし日本社会が性加害の問題を放置していると指摘した。これが直ちに大きな問題になることはなかったが被害者たちが実名で会を結成し組織的にマスコミに情報発信を始めたことで社会は問題を無視できなくなる。だがこの時点でもスポンサーやテレビ局が直ちに取引を停止するような事態にはならなかった。

問題が大きく展開したのは国連の「ビジネスと人権」の調査団が入ったからだ。事務所側が起用した調査チームがこれに乗り「ビジネスと人権」のスキームで調査報告書を仕上げたことで社会的にジャニーズ事務所を非難する動きが強まった。

ではビジネスと人権とはどんな考え方なのか。

2017年に「人権を軽んじる企業には、1000億円以上失うリスクあり」という記事が出ている。企業内が人権を無視すると訴訟を起こされて多額の損失を負う可能性がありますよと書かれている。

これが約6年前の状況だ。その後議論が進んで「企業内でなく取引先の人権状況にも関心を向けなければならない」ということになった。これが林真琴座長の対策チームの説明の骨子だ。林真琴座長は親族経営ではこうした新しい社会的要請には答えられないであろうから、それが理解できる人を入れて企業統治体制を再構築した方がいいと言っている。

だが記者たちはこれを理解しなかった。最も目立っていたのが望月衣塑子記者だったが他の記者たちの意識も実は望月さんとそれほど変わりはない。

仮に国際企業が問題を無視したと仮定する。この結果不買運動などを起こされたうえで株主が訴訟を起こす可能性が排除できなくなる。

アフラックのステートメントを見ると問題がよくわかる。アフラックは2011年から櫻井翔さんを使ったCMを打っているそうだ。つまりお金をかけて櫻井翔さんを顔としたブランド価値を構築してきた。ところが今回の件でジャニーズ事務所が問題を認めてしまったのでビジネスと人権の観点から訴訟リスクや離反リスクを抱えることになった。そのため「事務所と櫻井さんを切り離せないか」と考えている。仮に将来リスクが解消できなければこれまでの投資は埋没費用になる。つまり櫻井さんを切り捨てるほかなくなる。またサントリーホールディングスの新浪氏も「タレントを旧経営陣から切り離す」ことを提案している。つまり彼らもこれまでのブランド投資の価値と今後のリスクを切り離そうとしている。

課題は「これまで構築したブランド価値」と「訴訟リスク」の比較であり、感情が入り込む余地はない。

ところが日本の評論からはこのベネフィットとリスクという観点は抜け落ちている。代わりに議論されているのは「事務所に悪い印象がついた」という風評の問題や「とはいえタレントに罪はないのだからかわいそうだ」というような感情論である。さらにマスコミは自分達が加害者であるという罪の意識もあり、この問題を冷静に分析できない。

さらに日本特有の「お金儲けはいけないことだ」という感覚も拍車をかける。士農工商の時代から「金儲け」は最も下賎な仕事とされておりその感覚が残っている。東京スポーツは次のように書いている。広告代理店の解釈だが、おそらくこの「広告代理店」は電通や博報堂などの国内の代理店なのではないかと思う。アドバイスが極めて日本的である。「性的搾取で金儲けかよ」という批判が払拭できれば良いと読めるのだ。

「企業側が恐れているのは、ジャニー氏の名前が付いたジャニーズ事務所にお金が入ることで、人権侵害を容認すると受け取られること。一連の〝見送りドミノ〟もその観点から起きている。そうした懸念を払拭するために、今回の案を講じたのだろう」(代理店関係者)

外資系はコンプライアンス(法令遵守)の厳しいスタンダードを持っているはずだ。マクドナルドのようなフランチャイズ企業や日産などの日系企業もおそらくは国際展開する中でこうしたスタンダードを理解しているものと思われる。彼らが重要視しているのは「将来の訴訟に耐えうるエビデンス」であり、ジャニーズ事務所がそれを準備できるのが中心課題だ。

ジャニーズ事務所の問題はチャイルドアビュース(児童虐待)の問題だとされている。まだ分別のつかない子供を連れてきて性的に搾取する。さらに精神的に支配し「社長」のいうことを聞かなければスターにはなれないと信じさせる。そしてスターになったらその収入の一部を自分達のものにしてテレビで有意な地位を築き劇場などの土地を購入する。さらにテレビと新聞・雑誌も広告料収入を得るために一緒になって問題を見て見ぬ振りをするという図式だ。戦後の復興期から昭和にかけては常識だったのかもしれないが、いまは通用しない。

仮にジャニーズ事務所が引き続き林真琴座長らと密にコミュニケーションを取っていたならもう少し違った対応になったのかもしれない。だが、ジャニーズ事務所、芸能関係者、広告代理店、日本のテレビ局はおそらくこうした国際基準に合致したコンプライアンスが理解できておらず、従ってその対策も講じることができない。まして企業内部の性犯罪をタレント育成の過程として容認し圧力をかけて報道を潰すような異常なファミリービジネスにどっぷりと浸かっていた藤島ジュリー景子氏やこれまでそもそも会社の経営にいっさい興味がなかった東山紀之新社長に対策を考えることができるはずもない。

彼らが悪いわけではない。だが彼らは対処できない。

この問題を理解する上で最も重要なことは感情を取り除いて事態を「数字で」把握することだろう。練習問題として万博がジャニーズタレントを使い続けることが適切なのかを解いてみたい。

大阪市・大阪府はジャニーズタレントを使った万博のプロモーション活動を続ける意向だ。理由は「頑張ってきたタレントが悪いわけではない」からである。「大阪万博は人権上の配慮を欠いており参加できない」と離反されるリスクは覚悟しておいた方がいい。仮に国際社会からの批判を覚悟でジャニーズタレントを擁護するのであればそれはそれで正当な意思決定と言えるのかも知れない。だが仮に万博ボイコットのような運動に発展すれば維新にとっては政治問題になる。また多額の公的資金の回収も難しくなる。問題は政治がこうしたリスクを許容することができるかという点にある。

参考課題としてフランスのルモンドが櫻井翔さんがラグビーワールドカップにおいて主要な役割を果たすことに疑問を持っているというニュースをあげておきたい。「マスコミの批判」はリスクだが、それ自体が問題になることはない。問題が起きるのはそれが実際の行動(ボイコットや訴訟)に発展したときだ。取引先企業は行動に耐えら得るだけの反論材料を持っていなければならず、ジャニーズ事務所はそのための材料を提供しなければならないのである。

万博の場合は果たして誰かがボイコットなどの行動を起こした時にそれに反論する材料を持っているのか、あるいはボイコットによって生じた損害を有権者に説明できるのかということになる。人によって見積もりは異なるだろう。維新に是非舵取りを任せたいと思う人もいるだろうし、そこまでの過剰支出の可能性をを黙認するつもりはないという人もいるだろう。是非一度考えてみてもらいたい。

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