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G20ではインドとアメリカ合衆国が成果を分け合う 不在の習近平国家主席の言い分は通らず

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このところ国際社会では習近平国家主席の成功が目立っていた。ところが中国が「ぼくの考える新しい地図」を出したあたりから雲行きが怪しくなりG20には習近平国家主席は出てこなかった。その穴を埋める形でバイデン大統領がインドと接近しインドのモディ首相と成果を分け合う形となった。ただしバイデン大統領は用事だけを済ませると後半の会議には出席せずベトナムに渡り「戦略的格上げ」を宣言した。かつてはベトナム戦争戦った相手が手を結んだことになる。

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話はBRICSの首脳会談まで遡る。BRICSには新しい参加国が入り11カ国体制になることが決まっている。注目ポイントはロシアと中国によるアメリカ外しだった。アメリカ合衆国が不在の中でイラン、UAE、サウジアラビアがBIRCS入りし「脱ドル体制」を目指しているとも伝えられている。

バイデン大統領はASEAN首脳会談をスキップした。地元メディアは盛んに「議長国インドネシアが軽視されているのではないか?」とジョコ大統領に迫ったそうだ。

一方でG20には出席した。プーチン大統領はICCの指名手配がかかっており国際会議には出られない。そして習近平主席もどういう理由からかはわからないが会議を欠席しさまざまな噂が飛び交っている。アメリカにとっては外交成果を披露する千載一遇のチャンスだった。

インドはインドで「G20の一連の諸会議で共同声明が出せない」ことに苛立ちを募らせていた。財務大臣会議では調整すら行わなかったという。首脳同士が妥協しなければG20は何もできない。そんな状況だった。

G20閉幕 共同声明は発出せず 参加国間の対立が原因か(NHK)

当初、バイデン大統領はウクライナの戦争について厳しく批判する共同声明が出ることを望んでいたようだ。だが「インドの顔を立てて」これを引っ込めた。「共同声明が出せるようになった」というアナウンスの際に「2026年の議長国はアメリカになる」と宣言する。

中国はこれに反発したようだが習近平国家主席が不在のためこの要求は通らなかった。ここで反対すれば一人悪者になってしまう。「共同声明を出すな」とも言えず、インドとアメリカ合衆国が成果を分配する形で声明が出た。

モディ首相は中国に対して直接「失望した」とは言わなかったがアメリカの高官(キャンベル国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官)がわざわざ失望を伝えてみせるという意地の悪さを見せた。

今回の声明の目玉はAU(アフリカ連合)の格上げだった。インドと中国は発展途上国の代表の地位を争っている。中国は「自分達こそが最初にAUをG20の正式メンバーにするように働きかけた」と言っている。G20にアフリカを引き入れることでG20での先進国と発展途上国の力関係には少なからぬ影響がありそうだ。インドはアメリカのバイデン大統領と台頭に渡り合いアフリカ連合の国際的地位を認めさせたという成果を得ることができた。これまで共同声明が出せていなかったとしても「終わりよければ全てよし」という言葉通り、結果的にインドの面目が守られたということになる。

代わりにバイデン大統領はこの機会を大統領選挙に向けた目玉づくりの場として最大限に利用した。

アメリカ合衆国は一帯一路政策に対抗する形でインドと中東を結ぶ鉄道と船の回廊計画も発表した。イスラエルとパレスチナを巻き込む形で中東でのプレゼンスを維持する考えだ。外で仲良くしてみせるとアメリカが寄ってきて「魅力的なオファーを投げてくれる」ということを見抜いたモディ首相の作戦勝ちと言えるのかもしれない。

アメリカの世論は今回の一連の外交を見てほっとしたようだ。APは大きくサウジアラビアの皇太子とバイデン大統領がガッチリ握手をしている写真が取り上げている。中東外交でのアメリカの不在にアメリカ人がかなり不安な思いをしていたということがよくわかる。計画は単に交通網を整備するものではなくデジタルインフラ整備も含まれるという。ただしその詳細な予算規模は不明だ。バイデン大統領はこのディールによって「外交的に何もできていない」という批判に対応できるようになる。

バイデン大統領はG20の後半戦をスキップしベトナムに渡った。アメリカとベトナムはかつてベトナム戦争で対立していた「敵国」同士だが中国の台頭をきっかけに接近している。今回のディールでベトナムにとってアメリカは中国やインドと並ぶ重要なパートナー国になったそうだ。

ベトナムは10日の会談で米国との関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に正式に格上げした。ベトナムの外交関係においてこれは最上位に位置し、米国は中国、インドと並んだ。

バイデン大統領は、極東で仲の悪い日本と韓国をまとめ上げ、中東に一帯一路に代わる壮大な構想を立ち上げ、さらにベトナム戦争で対立していたベトナムとの関係を一段階格上げすることに成功した偉大な大統領であるという評価を欲していることがわかる。

インドはロシア・中国陣営とアメリカとの間の距離を調整しつつ、発展途上国のリーダーとしての地位を固めたいのだろう。中国・習近平国家主席の不在は大きい。なぜ直前になってインドの係争地の自国化を含む地図を発表したのかはよくわからないがその代償は大きかったようだ。

このG20の陰の敗者はウクライナかもしれない。ウクライナはロシアが名指しで非難されなかったことに対して立腹している。6月の時点から招待されないことが決まっていた。G7広島サミットはすっかり「ゼレンスキーサミット」になってしまったが、モディ首相はゼレンスキー大統領の存在がロシアと中国を刺激しサミットを台無しにされることを恐れていたようだ。

食料問題が内政の危機に直結しかねない発展途上国にはウクライナの戦争を早期に終わらせたい国が多い。NATOやアメリカも本音では終結を望んでいる可能性が高いがウクライナが領土をあきらめる姿勢を見せておらず説得ができていない。バイデン大統領の優先順位は大統領選挙に勝つことであり、ウクライナを含む外交はそのための道具に過ぎない。

さて、2026年のG20議長国を勝ち取ったアメリカだが、こうなると2024年の議長国が気になる。2025年の議長国はブラジルなのだそうだ。ブラジルのルラ大統領はICC加盟国だが「プーチン大統領は逮捕しない」と言っている。ルラ大統領は独自通貨の発行を盛んに呼びかけておりアメリカに対抗する姿勢が強い。さらに2025年の議長国は南アフリカで3年連続してBRICSが議長国になっている。ブラジルほどアメリカに対する対抗意識は強くないもののロシアとは微妙な関係を保ち続けている。

そもそもバイデン大統領は大統領選挙に勝たなければ議長になれない。この場合トランプ前大統領が大統領になりG20の議長になっている可能性もある。今回インドはかろうじてG20の分裂を防いだとされている。だが、その前途は多難なのかもしれない。

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