8日の夜にモロッコ中部でマグニチュード6.8の地震が起こり、これまで2,000人以上の人が亡くなっている。震度で言えば5強から6弱程度であり日本の基準で考えるとこれほど死者数が増えるとは考えにくいが、現地から伝えられる映像を見る限りは石造りの建物が多く耐震性が考慮されているとは思えない。なぜこれほどまでに死者が増えたのかを考える。
「モロッコ地震の死者、2000人超す 1400人以上が重傷」(BBC)によると、地震はアトラス山脈の麓付近で起きている。震源の深さは26.3キロとされ比較的浅い地震だったことが被害を拡大させたようだ。
まず、アフリカには地震はほとんどないのではないかと考えたのだがNHKの「モロッコ地震 死者2000人超に 「震度5強~6弱に相当」専門家」はこれを否定する。プレート境界型の地震だそうだ。
地震活動に詳しい東京大学地震研究所の佐竹健治教授は、アフリカプレートの内部の活断層で発生した地震で、岩盤どうしが押し合い片方の岩盤がもう片方の岩盤の上に乗り上げる「逆断層」というタイプだったとしています。
この近辺は南北方向から強い力で押されている。アトラス山脈の全長は2400キロメートルほどあり最高峰のツブカル山の標高は4167メートルである。日本ほど地震が頻発しているわけではないが一度揺れると甚大な被害が出る程度の地震は起こる。
もう一つ被害を拡大したのはこの地域が非アラブ系の居住区だったからのようだ。アラブ人がこの地域に入ってくる前に住んでいた「ベルベル」と呼ばれる先住民がアトラス山中に多く暮らす。遊牧を生業としている人も多く比較的質素な暮らしをしていたようである。世界遺産であるマラケシュから車を走らせるとこうした素朴な暮らしに触れることができるためモロッコの貴重な観光資源になっている。断捨離の極み?!モロッコの先住民ベルベル人の暮らし(朝日新聞)がそのエキゾチックな暮らしぶりを紹介している。
一方で、1147年に建立されたマラケシュのクトゥビア・モスクの尖塔も一部損壊したそうだが塔が全壊するようなことはなかった。震源が比較的浅かったこととベルベル系の人々が多く暮らしていた地域であったことなどが被害の拡大に影響を与えているものと思われる。
しかしながら今回の報道を見ても「ベルベル系が被害を受けている」という記述は全く見られない。言語的にはまったく異なるそうだが民族分断を恐れるモロッコではアラブ人とベルベルは区別されていないそうだ。ただし言語的にはどちらも公用語とされる。このためそもそも「ベルベル系の居住地域」という概念がないのかもしれない。AFPは震源地のアルホウズ州とタールダント州で多くの死者が出ているとだけ書いている。
地中海は南北から力が加わる大きな造山構造がある。1960年にアトラス山脈の西の端にあるアガディールで地震があり、この時には13,000人が亡くなっている。マグニチュードは5.9だったそうだ。現在アガディールは復興が進み地中海の魅力的なリゾート地になっているそうである。地中海の北のメッシーナ海峡でも1908年に地震が起きている。マグニチュードは7だったそうだが死者数は82000人だった。津波も起きておりこれが被害を拡大したようである。歴史を遡ると1755年にリスボンで巨大な海洋性地震が起き(マグニチュード8.5~9.0とされるそうだ)90000人がなくなっている。ヨーロッパというと地震が少ないイメージがある。確かに滅多に地震は起きないのだが、地中海地域は一度地震が起きるとかなり大きな被害が出るということがわかる。
被害が山間地域に広がっていることもあり救援活動には困難があるようだ。ちょうどG20の会期中であったこともあり各国の首脳からはお見舞いの言葉や支援の申し出がでている。岸田総理もアハヌッシュ首相に「お見舞いと支援」を申し出ている。
モロッコ王室は3日間の服喪期間を設定した。石油などの天然資源が出ないため国民の所得はそれほど高くないようだが、国王のいる立憲君主制の国なので治安は比較的安定している。アラブの春の影響はあったそうだが、周辺地域が混乱したこともあり改革機運はしぼんでいったそうだ。2011年に国民投票が行われ国王の権限をやや縮小する改革が行われている。