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日銀植田総裁の読売新聞インタビューに市場は動揺 ドル円は一時145円台にタッチ

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土曜日に掲載された読売新聞の植田日銀総裁のインタビューをきっかけに為替レートが大きく動いた。不動産株が下落し銀行株が値上がりしたそうだ。植田総裁はおそらく時間を与えるためにタイミングを計算したものと思われるが「市場」の反応はいかにもせっかちなものだった。ロイターは「市場は動揺した」と書いている。今後も日銀の動きに一喜一憂する状態が続くのだろう。

このエントリーはまず昨日一日の動きをまとめ最後に読売新聞とロイターの総括をご紹介する。政治的に配慮された記事も出回る上に日銀の中でも次の動きについては異なる意見がある。このため投資家は「どちらに転んでも対処できるように」心の準備だけを進めておくべきだということになる。

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すでにご紹介した通り、読売新聞が土曜日に植田日銀総裁のインタビューを掲載した。内容はマイナス金利政策の解除を匂わせるもので「年内にも」というような観測も飛び出した。とはいえ日曜日になっても為替は安定しており147円台後半で推移していた。このため朝のロイターは口先介入を警戒しつつ「ドル高は一進一退か」と書いていた。つまり朝の時点では市場は割と呑気に構えていたわけである。

ところが状況は月曜日になって一変した。月曜日の朝7時になると146円後半まで円高が進行した。この時点で「そういえば読売新聞が話題になっていた」という観測が出た。やはり記事は広く流通していたのだ。

ただ、午前中にもロイターの午前のサマリーも「円高が警戒」されていたのみだった。だが、午後になり円高はますます進行し146円の前半まで円が急進している。145.92円まで行ったところで止まったそうだ。お昼明けのせっかちな動きを見て「このまま円高が加速するのでは」と感じた人もいたかもしれない。

さらに新しく発行される10年もの国債の利回りも0.7%まで上昇した。日銀は長期金利の上昇を抑えるために9月14日に共通担保資金供給オペを実施するそうだ。共通担保資金供給オペとは日銀が国債を買わずに市場に資金を供給するための「新しい日銀の資金供給方法」だという。国債の買い入れそのものには慎重になっていることがわかる。オペまでの間国債の金利は高い状態が続くのかもしれない。またオペの後どのように推移するかも債権投資家にとっては注目ポイントだ。

円高に触れ金利上昇が意識されるようになると輸出関連株と不動産株が下落したそうだ。逆に銀行は経営が正常化するのだから銀行株は値上がりしたという。

ただ、これで一気に円安が加速するというようなことにもならないようだ。アメリカでCPIが発表されインフレが落ち着いたと判断されればさらにドルが売られる可能性はあるもののFOMCを前に落とし所を探る展開になるという見方がある。今週と来週にかけてアメリカ発のイベントが続く。ブラックアウトとは関係者が公式に発言を禁じられる期間のことを指すという。ロイターの記事の中にこんな一節がある。

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>

「米国では物価統計の発表が相次ぎ、インフレが高ければ素直にドル買い、物価の伸びが鈍化していればドル売り、となるのではないか。物価指標を受けたパウエルFRB議長の受け止めを知りたいのが市場参加者の本音だが、ブラックアウト期間のため当局者の見方は分からず、インフレ指標を受けてドル/円が動いたとしてもトレンドを形成するような展開にはならないとみている。翌週に控える米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、落ち着きどころを探るような動きになりそうだ」

日銀のこの次の流れだがBloombergはかなり不吉なことを書いている。「バランスシートの縮小」なのだから今何らかの債権を持っている人は気が気ではないのかもしれない。

今後は、正常化のタイミングとともに手法や順序といった具体策を模索する展開になることが想定される。植田総裁は出口戦略について、5月の国会答弁で、持続的・安定的に物価2%が達成されるという見通しに至った場合、「現在の長短金利操作をやめ、その後、バランスシートの縮小という作業に取りかかっていきたい」との考えを示していた。

植田日銀総裁は時間を与えるために土曜日にヒントを投じたのだろう。だが、市場の動きはいかにも性急だった。午前中は様子見だったものの一度動きがで始めるとそれに追随するように大きく相場が動いた。今後しばらくは日銀の動向に一喜一憂する状況が続くのだなと感じた。読売新聞の記事によって全体の気分は動いた。

震源地となった読売新聞はしれっとこんな書き方をしている。アメリカ経済のハードランディング懸念が払拭され日本も岸田政権下で順調な賃上げが進んでいるのだからもう金利政策を変更してもいいのだというのだ。

読売新聞の記事を読むとあたかも日銀が賃金を上げることができるような言い方になっている。仮にそれが事実なら安倍政権下で賃金は上がっていたはずだ。意外と歴史はこうやって作られてゆくのかもしれない。

債券市場では、米景気の先行き懸念が後退する中、日本経済も順調に回復へ向かうとの期待感が浸透。賃上げを伴う持続的な物価上昇を目指す日銀の金融緩和策の転換が近づいているとの見方につながった。

実相は「円安に耐えられなくなった日本経済はついに金融政策の転換に追い込まれた」といったところだろう。だが、自民党支持者の中には依然安倍総理を支援していた人が多いのだから「一定の役割を終えたので正常化に向かう」という説明が必要になる。いわば政治的な配慮だ。

夕方にはロイターが総括を出した。ロイターの総括を見ながら読売新聞の記述を検証したい。

まず、さまざまな配慮が行われたインタビューだったが「市場はマイナス金利早期解除の思惑に飛びついた」としている。

その上で「政府の日銀に対する期待が変わった」とする。安倍政権下において政府は事実上の財政ファイナンスを黒田日銀に期待していた。ところが岸田政権になって円安が進行すると物価高対策=円安の抑制が期待されるようになる。すると政策を転換し金利を上昇させる必要が出てくる。

この切り替え構図をきれいにまとめると読売新聞のような書き方になるだろう。安倍総理の思惑は的中し日本は賃金上昇を伴う軌道に乗った。だからもうこの段階を卒業できるのだという言い方だ。だが実際に日本の賃金が上昇するためには中小企業も含めて日本全体が「稼げる状態にならなければならない」という指摘もでている。

ロイターの記事にはそれがわかる箇所がある。きれいにまとめて前に進みたい田村氏は「はっきり視界にとらえられるようになったから卒業してもいい」と言い、中村氏は「稼ぐ力はまだ不透明」と言っている。

田村直樹審議委員は、物価目標は「はっきりと視界に捉えられる状況になった」とし、来年1-3月期には物価目標実現への「解像度が一段と上がる」と発言。中村豊明審議委員は中小企業の賃上げ原資確保につながる「稼ぐ力」の強化の進捗はなお不透明で、2%物価目標の達成に「確信を持てる状況には至っていない」とした。

このため日銀は明確な「アベノミクス卒業宣言」が出せない。植田日銀総裁の発言も曖昧なものにならざるを得ないため、市場は当局関係者の話や経済指標に一喜一憂する状態がしばらくは続くであろうということになる。

変化は突然やってくる上にそれがトレンドになるかはよくわからないという状態だ。投資家は資産の棚卸を行いどちらに転んでも上手く立ち回れるように準備をしなければならないという結論が得られる。うっすらと霧がかかったような先行き不透明な状態ででこれまでの動きを総括するような動きが起き、その後で事態が動き出す。9月はそんな月になるのかもしれない。

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