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介入も警戒される中、1ドルが147円台に急騰しその後145円台に下落する

1ドルが147円台に急騰(円の立場から見れば急落)しその後急激に戻した。事前には介入の可能性が指摘されていたのだが「介入があった」という報道や分析はない。代わりに指摘されているのがアメリカの経済指標の発表である。大きなイベントを前に一定方向で仕掛けておいて急激な変化を起こして儲けようとしている人がいるのかもしれないと思った。ただしこうした環境が投資家に魅力的であるのも確かだ。個人が国際的に資金を移動させるための選択肢も増えている。目先の利益ではなく中期的な視点さえ持てば「いい話」も転がっていると言えそうだ。

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時事通信の2本の記事を読んで「メディアの記事も意外といい加減だな」と感じた。最初の記事はパウエル議長の発言によって長期金利の上昇を予想した人が反応したとなっている。これはロンドンの話である。ところがあとになって次のように観測が変わった。こちらはニューヨークの話なので場所が違う。

朝方は、米長期金利の上昇を背景に日米金利差拡大観測が強まり、円売り・ドル買いが進行。2022年11月以来9カ月半ぶりとなる1ドル=147円台前半に下落していた。その後、民間調査会社が発表した8月の米消費者景気信頼感指数が市場予想を大きく下回ったことや、米労働省が発表した7月の非農業部門求人数が3カ月連続の減少となったことなどを受け、米長期金利が低下。市場は円買い・ドル売りで反応した。

つまり、アメリカの景気が減速しているとの観測が出て流れが変わったと言っている。議長の発言が修正されたわけではないのだから投機筋がイベントを前に仕掛けておいてイベントをきっかけに流れを反転させた可能性もある。投機筋の挑戦を受けた日銀がなんらかの措置をしたという可能性も捨てきれないが時事通信の説を採用すると統計の発表に反応して動いた人が多かったことになる。

これを書いている現在は145円台まで円が戻している。適切な相場についてはさまざまな意見があるがアメリカの利上げは最終局面に入っているためこれ以上金利差が拡大するということは考えにくいという意見がある。別の要因が入らない限り150円あたりが「ヤマ」だろうという意見には合理性がある。ただし、利下げの開始時期についてはアメリカでも意見が分かれており「ヤマ」は高いままで推移するのかもしれない。

もっとも、日本政府が躍起になってドル売り・円買い介入を実施しなくても、1ドル=150円を超えるドル高・円安がどんどん進む可能性は低そうだ。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会(FRB)は11回目の利上げを実施したが、昨年の3月から始まった米国の利上げは既に9.5─10合目付近に達している可能性が高い。

コラム:日本政府の円買い介入再開はあるか、鍵はドル高値の水準と時期=植野大作氏(Reuter)

確かなことは言えないのだがいずれにせよ「トレンドを読み誤って梯子を外された個人投資家は多いだろうなあ」と思う。急激な変化に乗ろうとしても火傷をするだけというのが教訓なのかもしれない。

さて「これだから外為投資は危ない」と書きたいところなのだが、話はこれでは終わらない。アメリカ国債の金利が上がっている。普段は「日銀の政策が失敗すれば政府の財政が悪化するであろう」というポジションから書いているので、この狂気金利が上がるというニュースにはネガティブ反応してしまう。ところが「投資家」の視点は全く異なるようだ。米国債がしばらくは株式に匹敵する魅力的な金融商品になりそうだという。以下、Bloombergのコラムをご紹介した後でReuterの記事をご紹介したい。

6月下旬にアメリカ国債の利回りは3.75%よりも高くなると予想した時、猛烈な反発があった。だが実際には4.3%になっている。

計算根拠は次のようなものだった。

  • 自然利子率・中立金利(1%)
  • 長期インフレ(2.5%)
  • 長期保有のためのリスクプレミアム(1%)

中立金利は以前よりも高いことが予想されるが詳しいことはよくわかっていない。新型コロナのパンデミックという例外イベントがあったため他の期間と比べることができない。

一方でアメリカ政府の財政状況は悪化の一途を辿っている。金利が上昇したために債務返済コストが高くなっている上にベビーブーマーの退職が社会保障コストを押し上げる。財政赤字が拡大すると中立金利は高くなりリスクプレミアムも大きくなる傾向にある。

さらに財務省は今回の債務上限問題を乗り切るために講じた措置の後始末をしなければならない。詳しい内容は書かれていないのだが、おそらく急場を凌ぐためにさまざまなやりくりをしており、これを回復させる必要があるということのようだ。これは国債の増発につながる。FRBは量的引き締めをおこない保有債権を減らしている。この状況はあと2年程度続く可能性があるという。つまり政府は国債を破口するがFRBはそれを受け入れないという状態である。金利は上昇する。

2008年の金融危機の前のリスクプレミアムは0.01%だったそうだ。つまり米国債は最も安全な資産とみなされていた。今回の試算では1%となっている。劇的に状況が変わったのは間違いがない。これは政府財政の観点からはリスクだ。だが投資家から見ると「米国債が株式などのリスクあり証券と同じ土俵に上ってきた」とみなすこともできる。

米国債の利回りが上昇すると人々は米国債に戻ってくる。従って株式や暗号資産ではなく米国債で構わないではないかという人が増えるという。

暗号資産にとっては厳しい環境だが、株式が米国債に流れるのかあるいは堅調な企業業績を好感して投資家を引きつけ続けるのかには議論があるそうだ。高金利政策の影響で2024年末までにリセッションに陥ると考える投資家も多い。こういう人たちは株式の業績悪化を懸念するのだから当然米国債を先行することになる。最終的には「個人の判断で」ということになる。

ただこの記事を読んでも「それはアメリカの話であり日本で気軽に米国債など買えないのではないか?」と感じた。証券会社に電話をして調べたところ「いや買えますよ」とのことである。ネットで口座開設が完結する会社もあるそうだ。こうなると日本国債に投資する意味が見出しにくくなる。担当者の話によると「やはり為替の変動がリスクと見做される傾向が強い」のだそうだ。店頭では日本国債などを中心に推しているそうだが「米国債を買いたい」という人をあえて拒絶することはないという。

確かに現在の145円という水準がいつまでも続く保証はない。だが「金利が高い状態が2年程度続く」のであれば、年初に安くドルが調達できた人は短期米国債に移すチャンスがあるのかなと感じる。つまり円安傾向を予想するからドルを買うというのではなく、余裕があるなら金利の高いドルで運用したほうがいいということになる。

為替相場に話を戻すと9月で注目されているイベントは雇用統計と消費者物価指数の発表だそうだ。FOMCは9月19日と20日に行われる。市場は「おそらくは利上げはないだろう」とみているがこれは直近の経済指標次第である。

さらに9月30日までに歳出削減をめぐる対立が解消しなければアメリカ政府が閉鎖される可能性があるそうだ。つまり新会計年度までに予算が決まらないと「政府が開けられない」という事態に陥る。加えて最高裁判所が差し止めていた学生ローン返済猶予も10月からなくなるという。820億ドル相当のローン返済が10月から始まればクリスマス商戦に影響が出るという。これらは株式相場にはあまりよい影響を与えないだろう。

いずれにせよこのニュースは日本の財政と日々の物価に注目するかアメリカの財政状況が日本の安全保障に与える影響などを注目するか、あるいは投資をする人としてニュースを眺めるかによって意味合いが全く違ってくるのだなと感じた。同時に複数の視点を持つのはなかなか難しい。

投資をする人にとっては「適度」のリスクはむしろ好ましい。ただし、当たり前の話ではあるのだが、急激な為替動向によって一儲けしようという人よりも、中期的な視点でゆったりと構えたほうが「儲けられるチャンス」は多いのかもしれない。

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