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分極化とスパイト政治 トランプ前大統領が共和党のディベートに参加しない意向を表明

トランプ前大統領が共和党のディベートに参加しない意向を表明した。この原稿ではまずトランプ前大統領の選挙戦略について観察し、次にその背景にある極化について分析する。最後に日本でも同じような現象が進みつつあるのではないかと言う可能性について分析する。

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トランプ氏は「チマチマと政策論争するより相手を罵った方がウケる」と気がついている

トランプ前大統領が共和党のディベートに参加しない意向を表明した。代わりにタッカー・カールソン氏のインタビューをディベートにぶつける。タッカー・カールソン氏はトランプ前大統領の「選挙は盗まれた」という主張に共鳴しFOXニュースから切られていた。訴訟リスクに耐えられなくなったFOXニュースの経営判断だと言われている。タッカー・カールソン氏にしてみれば起死回生のチャンスである。ここで数字が稼げれば再びスポットライトを浴びることができる。

インタビューは既に収録され共和党のディベートに合わせて放送されるそうだ。仮に共和党のディベートが視聴率を集めれば共和党の支持者たちは政策論争を好んでいることになりタッカー・カールソン氏の放送が注目されれば共和党支持者は政策論争には興味がないことになる。

現在、共和党の間ではトランプ氏が首位を独走しており当初期待が高かったディサンテス氏らを引き離している。背景にあるのが二大政党制に対するアメリカ国民の苛立ちである。「極化(Polarization)」で検索するとさまざまな記事を見つけることができる。今回はピューリサーチセンターの記事をざっくりと斜め読みしてみた。

アメリカ人は「二大政党以外に選べる政党があればいいのに」と考えている。だが制度上それは実現しない。すると今度は「相手の政党が勝利することを阻止する」ためにどちらかの政党を選ぶことになる。スパイト政治である。共和党の全ての支持者がスパイト政治の支持者ではない。だが例えば直近のニュースでも連邦政府が閉鎖される可能性が高まっている。上院にいるフリーダムコーカスと呼ばれる人たちが同じ共和党の予算案に抵抗しており法案の通貨が見込めないそうである。自分達の要求が通らないなら相手の要求を通さないという「いじわる政治」が行われている。

ピューリサーチの記事に戻る。2016年と2022年を比べるとお互いに相手の政党が「不道徳だ」と考える傾向が強まっており、極化が進行していることがわかる。

これらの事情から、おそらく政策論争よりもタッカー・カールソン・ショーの方がよく見られる可能性が高いのではないかと思う。共和党の候補者たちは政策についてディベートを行うが、トランプ氏は民主党を攻撃することになる。民主党攻撃の方が「ニーズが高い」と予想されるからである。

実際にどうなったのかについては後日観察したい。

「魔女狩り」と叫び続け逃げ切りを図るトランプ氏と味方の非倫理的な行動を大目に見てしまう支持者たち

トランプ前大統領は現在多くの訴訟に直面している。裁判を遅延させた上で大統領選挙前の判決を阻止することが基本戦略になっているそうだ。さらにジョージア州の裁判を連邦に移行させようとしている。連邦の裁判であれば大統領権限で裁判を中止することができる可能性がある。ジョージア州はトランプ氏本人と18人を同時に「処理」する必要がありスケジュールの調整にはかなり苦労しそうである。

トランプ氏は裁判を「自分達を貶めようとする民主党陣営の企み」と訴えて裁判を選挙に利用しようとしている。利用するだけ利用して大統領になり裁判そのものを止めてしまえば「トランプ氏の勝ち逃げ」ということになる。極化とスパイトが定着した世界では倫理の優先順位は極めて低くなる。つまり、相手を非難してさえいればなんでもありになってしまうのだ。

静岡の事例 実は日本にも見られるスパイト政治の萌芽

前回、川勝静岡県知事について「静岡のトランプ」と書いた。単なる悪口だと考える人もいるだろうが、実は基本構造が似ている。川勝知事も乱暴な物言いで知られているが実は「これこそが川勝氏が勝利する原動力になっているのではないか」という指摘がある。

静岡県は浜松市などの工業地域を抱えているために財政状況がそれほど悪くない。つまり国との関係を良くして利権を引っ張ってくる必要がない。さらに遠江・駿河・伊豆と異なる地域を抱えており県としての一体性に乏しい。そして東京と名古屋・大阪に挟まれて「素通りされている」という被害者意識がある。

つまり川勝氏は単にわがままから中央リニア新幹線を妨害しているわけではなく「サイレントマジョリティ」の持っている潜在的な不満をうまく捉えている可能性があるということだ。構造的なニーズがなければ何回も県知事選挙で勝つことなどできるはずがない。

川勝知事の発言と山口佐賀県知事の主張を比較すると違いがよくわかる。佐賀県知事がやっているのは基本的には条件闘争なので交渉の余地がある。だが静岡県知事の発言には一貫性と落とし所がない。これこそが「スパイト政治」の特徴である。

仮にこのような政治が日本中に蔓延すればどうなるだろうか。おそらく「自分が何を得られるか」ではなく「相手が何を選べないか」が中心課題となる足の引っ張り合いが起こるだろう。そしてそれが起こるのはおそらく国が地方に利権を分配できなくなったときである。」

権威を気にする日本では分極化は進展しないのだろうが、選挙に負けた「賊軍」は肩身の狭い思いをさせられる

ただし日本とアメリカには違いもある。

東京都も似たような状況にある。小池都知事は「都民ファーストが勝てる」と考えれば積極的にリーダーシップを発揮するのだが「勢いが落ちたな」と考えると距離を置く。前回の都議会議員選挙では最後まで応援に回らなかったため都民ファーストは勢いを落とし自民党が若干勢力を拡大した。

小池都知事は自分への支持を集める目的で、都連の実力者である内田茂氏を「都議会のドン」と名指しした。この戦略は「おじさん政治」に対して敵意を持っている有権者を惹きつける。

悪役認定された自民党東京都連はまとまらなくなり2020年の選挙では自主選挙に追い込まれる。独自候補が立てられなかったのだ。つまり敵がいなくなったことで、前回の基本戦略である「自民党を敵設定して都民ファーストの会を盛り上げる」戦略は取れなくなった。小池陣営が官軍化してしまったために対立の構造が維持できなくなった。

スパイト政治が維持されるためには極化が必要なのだが日本では官軍化が起きるために極構造が維持できない。あえてこれをやろうとするならば維新のような戦略を取らなければならない。大阪では官軍化しているために敵が作れないため「国政」と曖昧なリンクを作っている。馬場共同代表の「第二自民党発言」はこれをぶち壊しにする。吉村共同代表がこれをどう処理するのかに注目が集まる。

スパイト政治が蔓延するとゲーム理論的な均衡点は一気に下がる

協力ゲームに比べるとスパイとゲームでは誰も何も獲得できなくなる。利得があれば人々は協力するがそれがなくなればゲーム理論の均衡点がいっきに下がってしまうのである。中央からの利権を引っ張ってくると言う共通の目的がある地方では与野党あいのりになる。一方で中央からの利権の魅力が低い地域では政治がスパイト化する傾向が見られる。今後利益分配ではなく不利益分配が増えてくれば「ダークサイド」に落ちてゆく自治体は増えてゆくのかもしれない。

有権者は新しいゲームを発明することはない。アメリカの政治はアメリカ特有の州ごとに代表を出すという制度に縛られる。日本もこれは同じである。国政の小選挙区比例代表並立制と地方の二元代表制ではややルールが異なっており、それぞれの「ゲームルール」の中でしかプレイしないのだ。

今後日本の国政がこのまま停滞してゆけば「誰にも得点を取らせない」と言うスパイト政治によって日本の国政は身動きが取れなくなってゆくのかもしれない。国債にこれ以上頼れないため自民党政府はNTTの株を売却する検討に入った。政府もかなり追い込まれていることがわかる。

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