中国について調べている。土地バブルがはじけたことで中国経済が不安定化し台湾有事に発展しかねないというような観測がある。これがどの程度本当なのかが知りたい。だが調べれば調べるほどなんだかよくわからなくなってくる。
調べていて「そもそも中国は資本主義をGDPを膨らませるゲームだと誤認しているのだな」と感じた。GDPを膨らませるためにはバブルを発生させるのが手っ取り早い。つまり中国経済はもう長い間バブル依存の状態にある。これから抜け出せないのだから「中毒」と言っても良い。
それでも中国経済が大混乱に陥らないのはなぜか。日本人は経済が普通の状態を知っているのでおそらく経済が中国化すれば大騒ぎになるだろう。だが、中国人は「そもそも資本主義とはバブルなのだ」と思っているのかもしれない。バブルは都度都度はじけておりそのたびに人々は泣き叫んでいる。だが、しばらくすると次のバブルがやってくる。加えて、バブルとは無縁の人たちも多い。このため経済破綻が体制の不安定化につながらないのである。要するにバブル依存になれているのだ。
中国のGDPは日本を抜いてアメリカをも抜くのではないかと言われている。だが、それが必ずしも国の豊かさや大きさを意味するわけでもないようだ。むしろ多くのゾンビ企業を生み出しつつバブル中毒に陥っている。そしてその経済は外国からの資本流入が止まれば維持できなくなる。
YouTubeのPIVOTであるプレゼンテーションを見た。恒大ショックについて扱っている。銀行の借入金が少ないので金融機関に波及して金融ショックを起こす可能性は低いであろうとの見通しが語られていた。だから「日本のバブル崩壊とは違う」という。
では中国の不動産業界はどこから金を調達しているのか。
不動産デベロッパーは中国のGDPの75%程度の負債を抱えているが、うち32%が「予約金受け入れ」なのだそうだ。購入者から手付金をもらい運転資金に充てている。これを運転資金にして次の開発を進めると言う自転車操業状態にある。
日本の余剰資金は死蔵され預貯金となり国債の原資になっている。金融市場や株式市場が未発達な中国ではこれが不動産に回っていると言うことになる。銀行が詐欺を働くことがあり、企業会計は地方政府と癒着しているため全く信用できない。しかし土地の値段は上がり続けている。実は地方官僚が上げているのだが購入者にはそんなことはわからない。
「動くと止まるから企業運営を続けなければならない」というのは企業側の理屈である。実はこうした不動産開発に多くの地方官僚が群がっており「企業は倒産させるべきではない」と考える中央官僚も多いそうだ。このため形式的は破産手続きはあるが受理されることはほとんどないという。
- あまりにも闇が深い…中国「恒大集団の破産申請」本当の狙い(現代ビジネス)
日本では中国の建築現場は止まっているなど盛んに喧伝されている。これは日本の常識では不動産市場の行き詰まりを連想させる。こんなことが全国規模で起きれば日本では大騒ぎになっているだろう。
だがどうも話がおかしい。不動産市場がバブルであるという指摘は昔からあった。原因はいくつかあるようだが、地方官僚が不動産の使用権を「売りに」だして意図的に煽っているという側面があるという。不動産を売れればそれに伴って家具などを揃えなければならないので域内経済が活性化する。なぜそんなことが起こるかというとGDPを成長させる競争が行われていたからなのだそうだ。地方官僚は自分達の成績を上げるために土地売買を促進していたのだ。
こうなると「お金を払ったのに不動産が手に入らない」と騒いでいる人たちはどんな人たちなのだろうか?という疑問が湧く。つまりテレビで見せられているあの「被害者」たちは本当に被害者なのかという気になる。おそらく裕福な人が資産を失う恐怖にさらされているがそれを見ている「もう家が買えない」と言う人も多いはずなのだ。
周期北国家主席もこれはまずいと思ったのだろう。共同富裕と言う概念を提唱する。これは突出した金持ちは許さないというメッセージを習近平流に言い換えたものである。さらに「住宅は住むものである」というメッセージも発信している。つまり投機的な行動は許しませんよというメッセージだ。
- 中国「住宅は住むもの」 来年も不動産規制継続へ(テレビ朝日 2021年)
住宅バブルは既に当局に問題視され状況は修正されつつあるのだと理解したくなる。しかしながら実際には「予約金受け入れ」がGDPに匹敵するほどの規模に膨らんでいる。これはどういうことなのか。フォーリンポリシーに長い論考があった。2023年1月に書かれている。中国共産党政府はバブルの再来を願っていると言う。
官僚は出世競争のためには土地が売れればいいと考える。農地を無理やり農民から奪い取ってわずかばかりの金を渡して開発会社に建設許可を与えたりしていたそうだ。共産党政府はこれを問題視し「共同富裕」とか「住宅は住むためにある」などというスローガンを掲げる。しかし、コロナで経済を止めたこと、住宅開発の加熱を抑えたことで、金回りが悪くなり中国経済は停滞してしまった。一度手に入れた不動産狂乱の時の思い出が忘れられず「少しくらいならバブルを引き起こしてもいいのでは?」という気持ちに陥っているのではないかという。結局、共同富裕とか「家は住むためのもの」と言うスローガンはあまり聞かれなくなったそうだ。
不動産程度でバブルと言うのは大袈裟なのでは?と思う人もいるかもしれない。だがバブルを起こしているのはこれだけではない。Bloombergは中国各地に作られたEVの墓場について言及している。中国政府は補助金をつけてEVを促進してきた。これはビジネスチャンスだ考えた何百もの会社がEV事業に参入している。これを買い取ったのは個人ではなく配車サービスだったが2019年に500社あった会社は100社前後に減っているという。結局は補助金によって支えられたサービスに過ぎなかったということだ。中期的は粗大ゴミを生み出しただけのEV事業だが自動車を作って潰しても確かにGDPには組み入れられる。
- まるでEVの墓場、中国都市部に大量の廃棄車両-急成長の負の遺産(Bloomberg)
しかもこの記事は「数年前のシェアサイクルビジネスを思い起こさせる」と書かれている。つまり政府が作る人為的バブルはこれだけではなかったということになる。
そもそもなぜ中国はバブル依存に陥り「バブルジャンキー」のようになってしまったのだろうか?
中国はおそらく「豊かさはGDPのことである」と勘違いしてしまったのだろう。地方官僚はGDPを増やすと褒めてもらえる。このため中国政府の全国の統計と地方からの積み上げは大きく乖離するのが常だった。
中国では一般的な傾向として地方政府はGDPの規模や成長率を水増ししたがる傾向がある。GDPが地方官僚の成績になっていてその成績表は自分でつけて良いことになっていたからだ。ある地方が誇大報告をするとその政治的ライバルも負けないように誇大報告をせざるをえない。Newsweekの記事は次のように書いている。
胡錦涛政権第2期の2007年~2012年にそうした誇大報告競争が激化し、2012年には全国の31の省、市、自治区のGDPを合計すると全国のGDPを11%も上回ってしまった。
そこで中国共産党政府はそれぞれの報告主体を管理する一つ上の自治体に統計をやらせることにした。すると中国東北部と内蒙古自治区などがかなり統計を水増ししたことがわかったそうだ。生徒の自己採点はやはり「ズル」だったのだ。
- GDP統計の修正で浮かび上がった中国の南北問題(Newsweek 2020年)
しかしながらこの目標至上主義はまだ収まっていないようだ。TBSが「公式には貧困を脱した」とする村を取材した。中国の発展度合いを取材しようとしたのだろう。だが生活は全く良くなっていなかった。村民の家に「今年の収入」と言う書類が貼られていてその収入は実際のものよりもずっと多かったそうだ。村民は何が起きたのかわからないという。おそらく地方の官僚が収入を水増しして報告しているのであろう。政府の目標通りにならないのなら統計を作ってしまえばいいと言う考えかたが払拭できていないことがわかる。
- 「政府は嘘をついている」 中国政府が進める「共同富裕」の現実は|TBS NEWS DIG(2023年3月14日)
政府が需要を簡単に捏造できるため中国のGDPのどれくらいが厳密な実需なのかは誰にもわからない。政府の権限が強いため、経済対策は簡単である。中央政府が補助金を出して需要を作るか地方官僚と企業が結託して何かの値段を釣り上げてゆけば簡単に次のバブルが作れる。
それでも中国の経済が破綻しなかったのは事実上の管理通貨制度のもとで通貨が安定している上に闇市場などが作られにくいからだろう。外から資本が継続的に流入している間はこうした経済は維持可能だ。だが資本流入はさまざまな理由で止まりつつあるようだ。
- 習近平政権が治安悪化を恐れてスパイ防止法などの安全保障に関わる法律の運用を始めた。運用は極めて不透明なので駐在員が捕まる「チャイナリスク」が生じているため企業が投資を抑制している。
- アメリカが中国からのでカップリングを進めている。
- 習近平国家主席の周りにイエスマンばかりが集まり政策議論が行われなくなりつつあるため中国経済の先行きを疑問視する人が増えている。
1、2ももちろん重要なのだが習近平国家主席が権力集中を進めたために、却って外部から遮断される情報の壁ができているようだ。
中国共産党には民間セクターに権力が移りかねないような政策に消極的になる習性がしみ込んでいるという点や、習氏の「イエスマン」ばかりが集まった政府内部で政策について議論されなくなり、対応が滞っている可能性を挙げる専門家もいる。
2022年の10月に、習近平政権の3期目体制がスタートしたが、新たな指導部の面々には経済に通暁したテクノクラートは見当たらず、習近平にお追従を並べることに長けた共産主義イデオローグが多いと聞く。そんな彼らに、世界史上最大規模に膨らんだバブル崩壊後の後始末ができるだろうか。
これはヤバすぎる…!中国不動産市場のバブル崩壊がもたらす「世界経済への悪影響」と「悲惨な末路」(現代)
おそらく中国は稼いだ外貨を急回転させることで国内にバブルを作り出してきた。しかしこの資本超過が止まれば国内経済をこれまでのようには維持できなくなる。だが企業会計が極めて不透明なために今実際にどのような状態になっているのかは誰にもわからない。外から見てわからないのは当然だが、おそらく中にいる人たちも何が起きているのかわからないのではないかと思う。
東方新報は地方政府の住宅購入補助金について報じ「これだけでは不十分なので総合的な景気刺激策が必要である」と論じている。不動産業界はGDPの75%の負債を抱えており建築途中の建物が国中に放置されているのに「住宅市場を再活性化させろ」と言っているのである。
- 中国・不動産テコ入れの新政策、まず手始めは購入補助金(東方新報・AFP)
モラルがなく資本主義をGDPを膨らませるゲームだとしか考えていない地方官僚と、権力の塔に自らを幽閉してしまった習近平国家主席のもとで、バブル中毒のゾンビ企業が跋扈するという「資本主義」が中国に生まれようとしている。
バイデン大統領はこれを「時限爆弾」と表現した。まともな経済運営をしている国の人ならば誰でもそう思うのだろうが、不思議と中国の爆弾は破裂しない。単に今まで破裂してこなかっただけである可能性もあるわけだが、とりあえずまだ破裂はしていない。