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民主主義や立憲主義はなぜ守られるべきなのか

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安倍政権が暴走し「立憲主義」への危機感が強まっている。しかしながら、国民の多くは自民党を支持している。「国民は立憲主義などどうでもいい」と思っていることになる。そこで「立憲主義や民主主義は守るべきか」「守るべきだとすればそれはなぜなのか」という問題を考えてみたい。
話を簡単にするために「法律は中立である」という前提を置きたい。理屈さえ整えば法律学者は一切の価値判断をしない。国の目的は経済を発展させることとする。経済で政治体制を正当化するのだ。

民主主義と経済の関係

雑誌エコノミストの研究機関が出した民主主義指数というものがある。これを見ると「完全な民主主義国」は人口の12.5%しかカバーしていない。国数はわずか24カ国だ。つまり「完全な民主主義国」は普通の国とは言えない。守らなくて良いなら「立憲主義」はワールドスタンダードかもしれないが、あまり意味がない議論だろう。ちなみに日本は今の所「完全な民主主義国」だ。完全な民主主義国はアジアには2カ国しかない。日本と韓国である。ともにアメリカとの関係が強い。
米州からは北米2カ国(アメリカ・カナダ)、ウルグアイ、コスタリカがランクインしている。太平洋州からはオーストラリアとニュージーランド。残りは西ヨーロッパである。
このことから分かるとおり、完全な民主主義国はお金持ちの国ばかりである。試しにGDP(IMF/PPP)を掛け合わせてみると、人口の12.5%が世界のGDPの37.5%を占めている。統計を加工し終わってから思ったのだが、PPPではなく為替で調べるべきだったかもしれない。PPPは実質的な値であり、合計が意味を持たないからだ。PPPベースだと中国が米国を抜いて世界一のお金持ち国になる。GDP統計の中にパレスティナ、キューバ,ビルマ、北朝鮮が入っていない。

GDP合計 GDP割合 国数 人口
完全な民主主義国 40585.5 37.52% 24 12.5%
欠陥のある民主主義国 28892.72 26.71% 52 35.5%
混合政治体制 6911.81 6.39% 39 14.4%
独裁政治体制 31790.72 29.39% 52 37.6%

この数字をどう見るかは意見の別れるところである。もともと西ヨーロッパとアメリカなどの同じ価値観を持った「お金持ちクラブ」が富を独占しているだけだという可能性もある。
これより少しまともな答えは民主化した国から産業革命が起こったというものだ。経済的に成功した市民層が民主化を促進した。この2つが相乗効果を発揮した結果が現在の世界の富の配分だと考えられる。分厚い市民層が民主主義国の成長力の源泉なのだ。
この極端な実例の一つとして挙げられるのが韓国と北朝鮮だ。もともと北朝鮮が工業国で韓国は農業中心だった。北の方が豊かだったのだ。しかし今では北朝鮮のGPDが400億ドルしかないのに比べて、韓国は1兆6000億ドルだ。人口は北が2500万人で南が5140万人なので、人口のせいとは考えられない。勝負すら呼べない程の差がついてしまった。
北朝鮮の人民は経済成長を達成する動機がない。がんばってもどのみち搾取されてしまうだろう。であればだらだらと働いた方がよい。結局人は自分の暮らしをよくするためにしか努力しないのだ。南では私有財産が保証されている。これが違いを生んだのだと考えられる。もちろん、南側に豊かな国との経済的アクセスがあったことも見逃せないだろう。
この違いを民族性で説明することはできない。どちらも同じ民族で歴史を共有していたからだ。韓国も軍事独裁政権を経験しているが、豊かになり情報が広がるにつれて国民の民主化欲求を押さえられなくなった。逆に北朝鮮では民衆が疲弊しているので、民主化要求を行うほどの体力はないだろう。

独裁国の時代?

「民主化万歳」というまえに、悪魔とも相談してみよう。表を見れば独裁体制の国が富の約30%を占めているではないか。もしかしたら独裁の方が儲かるのではないか。安倍政権も独裁を目指せば国も良くなるのだろうか。
実は独裁国の中には多くの産油国が含まれる。クエート、ナイジェリア、カタール、UAE、サウジアラビアなどである。もし日本から油田が見つかれば、自民党の皆さんは、石油の富を適当に国民にバラまいて王様気分が味わえるかもしれない。下請け仕事はすべて移民(市民権は与えられない)が賄ってくれるだろう。
しかし、これだけでは説明ができない。独裁国の中にはロシアと中国が含まれる。台頭しつつある国だ。急進国のうちインド、ブラジルは「欠陥のある民主主義国」に当たる。中国の強みは国内格差だ。安い労働力を地方から呼び寄せることができる。これは国内に植民地を抱えているようなものだろう。ロシアは石油やガスなどの資源で支えられている。アフリカ一の経済発展を続けるナイジェリアも独裁国だ。
つまり、民主主義体制は「お金持ちクラブのノーム」ではなくなりつつある可能性もあるのだ。

民主主義のメリット

完全な民主主義体制のメリットとは何だろう。それは世界から才能のある人たちを引き寄せることだろう。才能のある人たちは自由を求める。それは経済的な自由だけではないだろう。生き方の自由も含まれるに違いない。例えば才能のあるゲイは、同姓結婚が認められる国や都市を好むはずだ。人が経済成長の源泉になると考える国は、域内の政治を透明で自由なものにしようとするだろう。才能は比較優位だ。つまり、個人が幸福を追求することが全体の幸せに貢献するという考え方である。

民主主義が維持できなくなる時

資源もなく、民主主義も守れない国はどうなるのか。大抵は国の中で富の奪い合いをしている。機会あるごとに軍がしゃしゃり出てきて「民主主義の失敗」を武力的に調停する場合もある。工業といってもたいがいはお金持ちクラブの下請けである。自由と民主主義を享受する人たちをもっと富ませるために働くのである。国民は保証を求めて社会主義的な体制を支持したり、軍に期待を抱くようになる。
西ヨーロッパの中には完全な民主主義国に至らなかった(あるいは民主主義が後退した)諸国がある。ベルギー、イタリア、ポルトガル、ギリシャだ。
ベルギーは国内のオランダ系とフランス系がまとまらず、首相が出せない混乱状態が長く続いた。イタリアは多党体制で連立の組み替えが頻繁に起こる。状況によっては首相が選出できないこともあり、政権が安定しないとのことである。
ポルトガルとギリシャは状況が異なる。ポルトガルは独裁体制のあと反動から社会主義路線を取った。植民地依存経済から脱却できずヨーロッパの成長から取り残された。ギリシャはアメリカの支援を背景にした軍事独裁政権が長く続き、後に社会主義化した。人口の多くが公務員といういびつな産業構成になり後に経済破綻した。

民主主義没落国のケーススタディとしてのアルゼンチン

さて、不景気が民主主義を壊した例もある。アルゼンチンは民主主義を体験したあと、軍事独裁や社会主義的体制(アルゼンチンではポピュリズモと呼ばれる)を揺れ動いた。
1880年代のアルゼンチンは自由主義経済路線を取り多いに発展した。食料の一大供給地になったのだ。すると民主化を要求する急進主義者が台頭したために、妥協の為に民主化が促進された。しかし、1929年に大恐慌が起こりアルゼンチン経済は崩壊した。すると、1930年には軍事クーデターが起き不正選挙の伝統も復活してしまう。
その後、ペロン大統領がポピュリズム政治を行ったが、第二次世界大戦で獲得した外貨を使い果たしてしまう。ペロンの治世は1955年まで続いたが、軍事クーデターが起きてペロンは亡命を余儀なくされた。その後も軍事クーデターなどが頻発し、政治は安定しなかった。アルゼンチン経済は復活せず、2001年と2014年にデフォルトを経験した。

民主主義を手放しつつある日本

このようにいろいろな事例を見てみると、立憲主義や民主主義を正当化するのは経済だということが分かる。経済が順調になると人々は自由を求める。自由が広がると経済も発展する。民主主義を維持しなければならないのは、民主主義が崇高なものだからではないのだ。
と、同時に経済が不調になると民主主義を維持できなくなる。人々は社会主義的な保証を求めるようになり、軍隊が民主主義の失敗を帳消ししてくれることを期待するようになる。
故に、バブルの崩壊で自信を失ってしまった日本では、自民党を支持する経済的に弱い人たちが、強い軍事力と立憲主義を否定するのはある意味当然のことなのだ。政治家はそれに追随しているだけと言えるか
もしれない。
と、同時に自由民主党の政策が社会主義的だということも分かる。
自由を失った国からは優秀な人が去って行く。強い経済は自由を求めるからだ。


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