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マイナス金利政策 – あなたも普通預金口座が持てなくなるかも

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日銀がマイナス金利設定を発表し、Twitterでは一時衝撃が走った。発表を好感して株価は上がったが1時間ほどで急降下し、再び上げに転じた。金融のプロであるはずの人たちも判断に迷ったようだ。
このニュースを聞いてアメリカの銀行のことを思い出した。金融緩和によって銀行が手数料収入依存となり、結果的に口座を解約する人があらわれたのだ。日本では起こらないだろうと思っていたのだが、発表から程なく三菱UFJ銀行が大口法人への口座手数料を検討し始めた。思ったより早く影響が出始めたようだ。
マイナス金利が発表された直後、金融や経済の専門家は「たいした影響はない」と言っていた。テレビも「普通の預金者には直ちに影響がない」と言って国民を安心させた。ネットにアクセスのない人は「テレビが安心だといっているから大丈夫だろう」と思うに違いない。テレビ局には治安維持という重要な役割があることをよく自覚しているようだ。
中には「黒田総裁は手詰まりなのだ」という人もいた。「日銀の弾切れ宣言だ」というのである。マイナス金利政策は最後の手段と見なされることが多いそうだ。黒田総裁はこの見方を否定して「量的緩和もあり得る」と発表したが、総裁の発言がどの程度信用されるかどうかは分からない。国会で「マイナス金利などあり得ない」と答弁したばかりだからだ。もっとも黒田総裁が「弾切れだ」などといえば、日本経済には大きな悪影響があるだろう。だから口が裂けても手段がないとは言えないだろう。
この政策で困るのは銀行だ。これまで銀行は日銀に日本国債を売って利益を上げてきた。売上げ代金を当座預金口座に預けておくだけで利子がついたのだ。今後の預ける当座預金にはマイナス利子が付く。銀行の収入が削られるのだ。
日本がまともな資本主義国なら、銀行は儲かりそうな企業を探してお金を貸し出すようになるだろう。しかし、これは難しいかもしれない。大企業は既に「内部留保」を持っているからだ。投資先がないということは、日本の資本主義経済そのもののが行き詰まっていることを意味している。特に地方は深刻なようだ。ロイターは特に地銀クラスには影響が出そうだという観測を伝えている。
次第に銀行は別の手段でお金儲けをしなければならなくなるだろう。人口が減って行くのだから住宅ローンを貸し出すのも難しそうだ。となると、最後に残る手立てが「手数料収入」である。富裕層に離反されるのは怖いはずだ。だからお金を持っている人たちにはこれまで通りのサービスをするかもしれない。
すると最後に残るのは「あまりお金を持っていない」人たちである。給料を貰ったら使わざるを得ないような「ぎりぎりで働いている」人たちだ。
実際にアメリカ(ただし量的緩和は行ったが、マイナス金利を実施したわけではない)では問題が起こっている。サブプライムローンが破綻した後、銀行は預金者から振込手数料や口座維持管理料を取るようになった。消費者保護のための法改正があり、デビットカードのトランザクション・フィーが引き下げられたので、銀行はさらに手数料収入頼みになったそうだ。そこで、お金のない人が銀行口座を持たなくなってしまったのである。
アメリカはキャッシュレス社会だ。クレジットカードや小切手がないと生活ができない。そのアメリカでクレジットカードやデビットカードが持てない人が出てきたのだ。銀行口座がないと給与小切手を現金化できないので、街には換金屋(手数料を取って給与小切手を換金する)ができたという話もある。
ブルームバーグの2011年のこの記事では、プリペードカードの保持者が18%増えたと言っている。この調査では当座預金(日本でいう普通預金に当たる)の保持者は92%から88%に減ったということである。
ちょっと考えるとこれは不思議に思える。利子が下がってお金が借りやすくなるのに、なぜなけなしの生活資金を預けている一般市民が高いコストを負担しなければならないのだろうか。だが、資本主義経済ではこのようなことが起こるのだ。
こんなことは日本では起こりそうにない。日本には銀行口座に維持管理手数料を取る銀行なんかないからだ。
しかし、感覚的にはアメリカで起こったことは10年くらいあとで日本でも起こることが多い。近い将来、正規雇用の人たちは口座振替で給料を貰い、非正規の人たちが手渡しで給料を貰うという日がくるのかもしれない。
そんなことを考えていた矢先の「口座維持手数料話」である。銀行が手数料依存に傾斜する日は意外と早いのかもしれない。
 


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