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アメリカ人はウクライナへの継続支援に疑問を持ち始めている

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アメリカ人は「このままウクライナを支援してもいいのか」と疑問を持ち始めている。バイデン大統領は「もっとお金があればロシアに勝てるはずだ」と考えていて議会に3兆円強の追加予算を請求した。一方で、多くのアメリカの人たちは「一体どれくらい助けてあげればウクライナはロシアに勝てるのだろう」と考え始めている。このため議会がこの追加支援に応じるかは不透明な状況だ。CNNが掲載した調査によると現在ウクライナを積極的に支援すべきだと考えているのは民主党の中でも左寄りと言われるリベラルの人たちだけになっている。

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ウクライナが反転攻勢に備えてバイデン政権はウクライナへの追加支援を決めた。これが7月のことだった。この時の援助は主に防空システムなどが主だった。

米、ウクライナに13億ドルの追加軍事支援 防空システムなど

こうした手厚い支援にもかかわらず、ウクライナの反転攻勢はうまくいっていない。原因の一つとして挙げられるがアメリカ軍の支援方法のまずさだ。アメリカは優位な航空優勢を作り一気に成果を上げる「統合型」の戦闘を得意とする。ところが、ロシアを刺激することを恐れて高度な打撃力の提供には後ろ向きだ。加えてウクライナがこれまで得意としていたソ連型の戦術を数ヶ月の訓練で変えることができるという根拠なき目論見も持っていた。

このため、ウクライナ軍は「アメリカから教えられたやり方は間違っていた」として従来型の戦闘方式に戻りつつあるという。

だが「アメリカ軍のやり方を間違っていた」という指摘を受け入れられないアメリカ人もいる。特に民主党を熱心に支持していたリベラルと呼ばれる人たちにはその傾向が強い。アメリカのリベラルはこの場合、民主主義という理念に従ってアメリカ合衆国を多様性のある国に生まれ変わらせたいと考えている人たちだ。

具体的な調査が出ている。

保守系共和党支持の7割と穏健な共和党支持の6割は「もう支援はしなくて良い」という立場を鮮明にしている。さらに民主党の穏健派も5割しか継続を支持していない。現在、積極的にウクライナを支援すべきだと考えているのはリベラル派の民主党支持者だけである。同じ民主党支持でもこれだけ大きな違いがある。

全体では51%が「もう支援は十分にやった」と考えている。さらに状況が理解されるようになるにつれウクライナの戦争がアメリカの安全保障を脅かしていると考える人の数は減っている。開戦当初は72%が脅威だと考えていたが現在では56%が脅威だと考えているに過ぎない。

この調査結果を受けてCNNは多様性重視のリベラルに向けてこんなコラムを書いている。共和党は民主主義のために一生懸命に戦っている「アメリカの友人」であるウクライナを見捨てようとしているというわかりやすい論調だ。友達を見捨てるのはかわいそうだというわかりやすい論で支援継続への支持を訴えている。

バイデン大統領は「今のままでは成果が出ない」と考えているのだろう。だが戦略を見直す代わりに「もっとお金が欲しい」と言っている。その総額は240億ドルだ。

共和党を支援する人たちは「バイデン大統領はとにかくお金を使いすぎる」と考えている。このため共和党は国防予算法案を独自に提出しバイデン大統領の「リベラルな」政策を止めようとしている。バイデン大統領はこの法案には拒否権を発動すると表明している。そしてその代わりにウクライナ支援を前面に押し出した。しかしそう要求額は400億ドルである。つまり抱き合わせでさまざまな要求を一気に通そうとしている。

共和党が苛立ちを募らせているのには理由がある。アメリカの借金が議会の許す上限を超えたためアメリカ合衆国は借金が返せない「デフォルト」に陥ると言われていた。これを解決する代わりにいくつかの予算をバイデン政権に対して諦めさせた。

しかしバイデン大統領は「まだまだウクライナを支援するためにはお金が必要だ」と言い続けているのだ。この人にクレジットカードを渡したら何に使われかわかったものではないという懸念が生じており「白紙の小切手は渡せない」と言っている。

バイデン大統領の政策が支持されていればまだこの巨額予算が通る可能性は高くなる。だが、大統領の支持率は低い状態で推移している。現在の数字は不支持が54%で支持が40%だ。経済政策に失敗しており外交でも点数が稼げていないという状態である。最後の砦になっているのは「反トランプ感情だ。バイデン政権の政策は支持できないがトランプ氏に対抗できるのはこの人しかいないという極めて消極的な支持なのである。

敵を作る手法が効果を上げていることもあり、バイデン大統領はこのところの寄付集会で盛んに習近平国家主席を刺激している。まずは独裁者と呼び、その後経済的苦境に陥ったら何をしでかすかわからないと決めつけた。危機を煽れば煽るほどリベラル派と呼ばれる急進派の人たちからお金が集まるという計算があるのだろう。だがおそらくこの戦略はおそらく日本にとっていいことではない。中国を刺激すれば台湾情勢が緊迫する可能性が高まるからだ。

ここまで読んだ人は「バイデン大統領の再選は危ういのだろうか?」と感じるかもしれない。一方のトランプ氏はいくつもの裁判を抱えている。「裁判はトランプいじめだ」として支援する人も増えているが、さすがに有罪になったら投票できないという人も多い。全ては裁判の行方次第だ。

皮肉なことにバイデン陣営も次男の裁判を抱えることになりそうだ。ハンター・バイデン氏の司法取引は成立しなかった。代わりに特別検察官が司法省から任命された。極めて政治性の高い裁判に特別に任命される捜査官である。現在の罪状は納税の遅れと銃の入手にまつわるトラブルなので本来ならば特別検察官が出てくるような案件ではないのだが、共和党陣営はバイデン親子のビジネス関連にまで捜査を広げるべきだと言っている。その先にはバイデン大統領本人の弾劾裁判がある。

つまり、大統領選挙の行方は「裁判次第」ということになりそうだ。この間予算を巡る駆け引きは続くものと見られる。大統領選挙が決着するのは2024年である。

ヨーロッパから見るウクライナの戦争は、ヨーロッパの中で起きた平和に対する挑戦なのだが、アメリカ人にとっては価値観を巡る戦いになっている。これまでのような白人中心の穏健なアメリカ合衆国を維持したい人たちと、アメリカを多人種国家に生まれ変わらせたいとするリベラルの間の戦いである。

おそらくこの間、アメリカが妥協を伴う和平案を提案するとは思えない。既に「多額の投資」をしてしまっているため何も成果が出ないままで終わればバイデン政権の政治的失敗ということになってしまう。戦線が膠着していることを考えるとこの戦争は長く続きそうだ。

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