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バイデン大統領が「日本の防衛費増額に圧力をかけた」と支持者に自慢げに語る

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バイデン大統領が「広島を含めて3回岸田総理に防衛費増額の圧力をかけた」と認めた。公然の秘密なので「失言」としてニュースになることはなかったが、日本の官房長官が「防衛費増強は日本が積極的に主張した」と発言を打ち消したことでニュースになった。

バイデン大統領は高齢による失言が問題になっており「習近平国家主席は独裁者だ」と主張し米中関係悪化の火種になっている。中国への対決姿勢を仄めかすと支持者が喜ぶという空気が醸成されているようだ。

今後もバイデン大統領がアメリカの支持者の期待に応え続ければ日本の「巻き込まれ」リスクは高まる。また、岸田政権にとっても都合が悪い情報が継続的に発信され続けるだろう。砂の上に建築されたガラスのお城が足元から揺れている。

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松野官房長官は「誤解を招きかねない発言だ」としているが誰も誤解はしていない。これまでは岸田総理が忖度して自分から防衛費増額を言い出していたのかアメリカから明確に「防衛費を増額しろ」と言われてきたのかは明らかではなかったが今回の発言で明確な圧力があったことがわかった。

日本側がこう言わざるを得ないのは野党が「アメリカから圧力を受けて防衛費を差し出さなければならなくなった」との主張を展開することが目に見えているからだろう。秋以降には防衛費負担について具体的な議論が始まる。ことによっては「子育て」と「防衛費負担」を大義とした解散総選挙が行われる可能性もある。だからあくまでも日本が主体的に長期計画を立ててそれを実施するために財源の整理をしているという「建前」になっていなければならない。

バイデン大統領が高齢だから失言したと考える人もいるだろう。だがそれは明確に間違っている。バイデン大統領は下院共和党に「支出を削減します」と約束させられている。支出削減は大統領選挙の大きなテーマである。だから「軍事費を肩代わりさせた」というフレーズが出てくる。仮に高齢の問題があるとすれば「支持者と外交の両方を考慮した上で上手に嘘をつく」という政治的能力の衰えなのだろうが、嘘をつく能力が衰えて「より正直になっている」と好ましく解釈することもできる。

では今回の件は今後の防衛議論にどう影響するのだろうか。

世論調査などをみると漠然と「世界情勢が随分と物騒になってきたので防衛を増強しなければならないのではないか」と感じている人が多い。また東西冷戦構造で世界情勢を理解している人が多く「ロシアと中国」が世界平和を撹乱しているという漠然とした理解が広がる。つまり防衛費増額の根拠は理解されていないのだが「なんとなく難しくてよくわからない」という人が多い。そのため「あなたの負担が増えてもいいですか?」と質問を変えると「負担増は嫌だ」という人が増える。つまり主体的に防衛を支えたいと考えている人は少数派である。

この受動的な傾向は台湾有事でも顕著だ。

世論調査を見ると「米中関係が悪化すると日本も巻き込まれるのではないか」と考える人が80%にもなることがわかる。日本にとって台湾有事は受動的に「巻き込まれる」ものだ。さらにウクライナの戦争がテレビで盛んに報道されており「戦争」のイメージが植え付けられている。だがその実情について積極的に勉強しようという人はほとんどいないのが実情である。

このため今回のバイデン発言が直ちに岸田政権の不安定化につながる可能性は低い。今の段階では「みんなが反対すれば防衛増税は回避できるのではないか」と考えている人が多いのではないかと思う。さらに言えば「政権批判をすると厄介な人と思われかねない」という人や「防衛増税に反対するとわがままな人と言われるのではないか」という恐れを持っている人もいるかもしれない。

「防衛増税はアメリカに押し付けられた」というフレーズは「なんとなく危険だけど負担は増やしたくない」と考えている人の一部に「増税に賛成しない」理由を与えることになるだろう。

バイデン大統領が「天から与えられた正直さ」は米中関係にも暗い影を落としつつある。

「習近平氏を独裁者と言っても米中関係には影響がない」と言っている。バイデン氏の認識とは異なり中国は習近平氏独裁者発言に激しく反発している。ブリンケン国務長官が米中対話の素地を作ろうとしている最中の発言だったことから「目の前の支持者たちへの配慮」と「外交への影響」が計算できなくなっている可能性が高い。

バイデン大統領の一連の発言を「失言」と捉えるか「正直さ」と捉えるかどうかは人によって異なるのだろう。だがいずれにせよ安倍政権・菅政権・岸田政権が歴代積み重ねてきた砂の上に建ったガラスの城を大きく揺らす。そして大統領選挙のキャンペーンはしばらく続くことからこうした発言は今後もますます多くなってくるだろう。

今後は「なんとなく漠然と不安」で「誰が言っていることが本当なのかよくわからない」という状態に日本の有権者がどこまで耐えられるのかが焦点になりそうである。おそらくそれほど長くは耐えられないのではないかと思う。

最後になるが、バイデン氏は「広島でも軍備増強の圧力をかけた」と発言している。個人的な印象にはなるが、これは極めて残念だった。岸田総理は広島サミットは「平和がテーマだった」と主張していたが「おそらくアメリカ合衆国はそんなものに興味がないだろう」と思っていた。それが実証されてしまった形である。広島選出の岸田総理にはもっと上手な「広島の使い方」があったはずだ。

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