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ロシアで「プリゴジンの反乱」 経緯と現況を簡単におさらい

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ロシアでワグネルのプリゴジン氏が反乱を起こした。当初は簡単に鎮圧されるものと思われていたがプリゴジン氏はロストフ州とヴォロネジ州の軍事施設を制圧しモスクワに向かっている。プーチン大統領はしばらく反応していなかったが「国民への裏切りである」との声明を出した。プリゴジン氏は「自分はロシアの体制を転覆するつもりはない」が「死ぬ覚悟はできている」と主張している。経由地にある軍組織が抵抗した痕跡がなくモスクワに対する忠誠心は極めて希薄だ。自分達が助かるならモスクワへの進軍を認めても良いということなのかもしれない。G7は外務大臣会合を開き「情報を注視している」と言っている。最新情報によるとワグネルはモスクワまで200キロのところで進軍を停止した。ベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介に立ったものと思われる。どのような「ディール」なのか詳細は不明のため、一時停止なのか停止なのかはわからない。プーチン大統領がプリゴジン氏の要求に従って軍の高官を処分するのかが焦点になりそうだ。

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今後、この件についてはさまざまな論評が出るだろう。それを読むためにも「これまで何が起きていたのか」を知る必要がある。BBCなどを中心に経緯をまとめた。なおこの記事を書いている時点での最新情報は「モスクワまで200キロのところで進軍停止」だ。

ロシアのウクライナ侵攻でロシア軍は兵力不足に悩まされていた。それを補完したのが民間軍事会社のワグネルだ。刑務所で兵士をかき集めたなどとも言われている。プリゴジン氏はプーチン大統領がサンクトペテルブルグにいた時からの知り合いであり、かつてはプーチン氏の料理人などと呼ばれていた。

プリゴジン氏とロシア軍のショイグ、ゲラシモフ氏とは当初から険悪な仲だった。プリゴジン氏はSNSを使い挑発の度合いを強めてゆく。ロシアが東部の戦線を維持できなくなると前線に取り残された形になったのバフムトの状況が厳しくなってゆく。ロシア軍は十分な弾薬を供給できずプリゴジン氏は「見捨てられた」と感じたようである。SNSでの挑発行動がエスカレートし始めたのは4月から5月ごろからである。

プリゴジン氏はまずバフムト市を制圧したとし、その後「戦線を離脱する」と仄めかした。さらに「バフムトは占領したからあとはロシア軍に引き渡す」などと言っていた。ただしバフムトには戦略的な重要性はなく既に焦土化していた。

次第にワグネルを扱いかねたロシア軍はワグネルを解体しロシア軍に組み込むと宣言する。期限は7月1日だ。ワグネル兵士はこれに応じずプリゴジン氏もロシア軍の支配を拒否した。

ウクライナとロシア南部は秋と春に「泥濘」に覆われる。黒土が雨と雪解け水によって泥だらけになるという状態である。ウクライナはこの泥濘が引けるのを待って反転攻勢を開始した。しかしロシア軍はウクライナ東部と南部に強固な防衛ラインを作っており、反転攻勢は思うように進んでいない。つまりロシアの守りは鉄壁のように思われていた。

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ロシア軍に吸収される期限が迫ったプリゴジン氏はついにショイグ、ゲラシモフ氏を討伐すると宣言した。この宣言はロシアの治安当局によって「武装蜂起」と認定された。ロシアはワグネル兵士に対して投降を呼びかけた。武装蜂起はロシアの治安に対する重大な挑戦であり厳正に処罰されるとしていた。

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プリゴジン氏はウクライナへの軍事侵攻はNATOとウクライナがロシアに攻めてくるというロシア国軍の虚偽の報告によって始められたと主張し、その目的はロシア国軍トップの私利私欲であると主張している。

23日には、ウクライナでの戦争は「ショイグが元帥になれるよう」開始されたのだと非難。「国防省は国民をだまし、大統領をだまし、いかれたウクライナが我々を攻撃しようとして、NATO(北大西洋条約機構)と一緒になって我々を攻撃しようとしているだとか、そんなでたらめをまきちらしていた」のだと攻撃していた。

この宣言のあと、ワグネルはついにロシア領内に動き出す。目指すはモスクワである。これが日本時間で土曜日の未明の出来事だった。当初は「そうはいっても正規軍と非正規軍では非正規軍には勝ち目がないだろう」などと言われていた。

ところが日本時間の土曜日の朝方にかけて「どうやらロシア南部のロストフ州が陥落したらしい」ということになった。大した抵抗はなかったようだ。ロストフ・ナ・ドヌの政府庁舎が包囲されたがロストフ州当局が抵抗することはなかった。軍事ブロガーたちは「兵隊の長い行列ができているらしい」と伝えていた。

この頃になるとQuoraでは英語で発信されている軍事ブロガーの情報を集める人が出てきた。大手メディアが確認していないため半信半疑ではあったが「どうやらロストフ州が制圧されたらしい」という。にわかには信じがたい情報だった。またロシアの知人に連絡をとったという人もいる。メディアが統制されているロシアでは「何が何だかわからないうちに事態が急展開した」と感じている人も多いようだ。

日本時間の昼頃になると日本の大手メディアもこのことを伝え始める。空港が占拠されて制圧は完成した。ロストフの市民たちは何が起きているのかよくわかっておらず普段通りに生活している人も多いなどと伝えられた。単に軍事施設が選挙されただけで市民生活に大きなパニックなどはなかっようだた。最初にYahoo!ニュースに出た記事は軍事ブロガーの情報を集めたJSF氏のものだった。

Twitterのタイムラインは「クーデター」などの情報で溢れるようになった。識者の中には今回の混乱を「プリゴジンの乱」と呼ぶ人がいる。クーデターなのかそうでないかが判然としないからである。

この時点で人々は「なぜプーチン大統領が反応しないのか?」と疑問視していた。プリゴジン氏は普段から真偽がよくわからない主張を一方的に喧伝する傾向がある上に西側の常識ではよくわからないことが頻繁に起こる。あるいは「陽動作戦のようなものなのではないか」などと疑う人もいた。

この後プーチン大統領が声明を発表し今回の動きを非難し始めた。つまり単に「何が起きているのか」が伝わるのに時間がかかっただけのようである。プーチン氏は直接名指しはしないものの、今回の動きをプリゴジン氏個人の問題と捉え「ワグネルの英雄」たちに同調しないように呼びかけた。

ウクライナ東部と南部の防御ラインはかなり厳しく管理されているものの「ロシア領内に攻撃が及ぶ」ことは想定されていなかったこともわかった。国土防衛はかなり手薄だったのだ。

もう一つわかったのが南部に展開する軍のプーチン氏への忠誠心の希薄さだ。CNNは「一部のロシア軍はワグナーに受動的に黙認した(The briefing said some Russian forces had “likely remained passive, acquiescing to Wagner.”)」とするイギリス国防省の会見内容を伝えている。

ロストフ州がワグネルの進軍を断固阻止することはなかった。自分達の身の安全が確保されるならばワグネルを通過させても良いと考えているのだろう。ロストフ州にはウクライナでの軍事行動を統括する司令部(ロシア軍南部軍管区司令部)があるがワグネルに対して強い抵抗を示したとする証拠は出ていない。BBCはワグネルがロシア軍南部軍管区司令部を制圧した映像を「本物だ」と確認した。

BBCによるとワグネルの意一部は現在ロストフ州を北上しヴォロネジ州に向かった。ヴォロネジ州の軍事施設が制圧されたこともわかっている。

ワグネルは明らかにモスクワに向かっているものと思われる。プリゴジン氏に勝ち目があると見る向きは少ないが「25000人が死ぬ覚悟だ」という声明が出ている。またプリゴジン氏は「国家親衛隊の忠誠が鍵になる」と言っている。プーチン氏に近い軍は実はそれほど多くないということだ。モスクワ市は対テロ体制を宣言し26日は「休日」になった。外出自粛令が出ており道路や交通が遮断される可能性がある。

ウクライナ側は反転攻勢に苦労しており「遅れ」を認めている。さらにこの混乱に乗じて何らかの軍事行動を起こすつもりはなく「我々は注視している」とだけコメントを出している。ゼレンスキー大統領は初動の48時間が重要だと考えているようだ。G7はの問題について外務大臣級の協議を行った。ロシアの状況を注視するとともにロシア国内にいる自国民に警戒を呼びかけている。

状況は今も動いており、今後この動きがウクライナ情勢にどのような影響を与えるのかは見通せない。

最新情報によるとワグネルはモスクワまで200キロのところまで迫り進軍を中止した。ベラルーシのルカシェンコ大統領が「会談した」としていることからプーチン大統領との間で仲介に入ったようだ。ただしディールの中身は明らかになっておらず、これが「進軍停止」なのか「一時停止」なのかはよくわからない。モスクワに入りプーチン大統領に近い部隊との血みどろの争いを避ける狙いがあるものと考えられているが、1日の間にロシア国境から首都の近くまで「傭兵部隊」が進軍できてしまったことになる。

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