前回のエントリで日本のデフレの歴史をおさらいした。バブル崩壊の後始末に失敗したせいで景気が減速した。デフレが顕在化したときには既に遅く、そのまま20年もデフレが続いた。金本位制がなくなってからこれだけ長期化したデフレはない。そのために、どのような仕組みでデフレが起こったのかが分からず、対策が取れなかった。
2014年にヨーロッパでもデフレの兆候があり、クルーグマンは「日本だけの特異な現象ではなかったようだ」と言い「日本に謝罪」した。もし、このままヨーロッパが長期デフレに入れば、日本も参考にできたかもしれない。しかし、実際には長期デフレにはならなかった。いろいろなところに書かれている顛末をまとめると次のようになる。
リーマンショックのあと、2009年に政権交代が起きたギリシャで粉飾決算が露呈した。その後、ユーロ危機が起こり、ヨーロッパ各国は緊縮財政を実施し、競争力回復のために雇用規制を撤廃したので失業率が増えた。優良企業は成長している新興国に退出し、穴埋めに安い労働力である移民が入ってきた。このため、若者に職場がなくなった。ユーロゾーンで値下げ競争が起こった。スペイン・ポルトガル・ギリシャが先行した。このため、2014年に入ってデフレ懸念がささやかれるようになった。各国が金融緩和(ユーロの増発)を求めたがドイツが反発した。しかし、2015年1月にECBが国債の買い入れを決定。量的緩和を始め、7月頃には物価が上向き始めた。どうやら長期デフレには入らなかったようだという観測が流れた。
賃金の低下(日本は中国の安い商品の流入や非正規雇用化によるが、ヨーロッパは移民の流入による)という共通点はあるが、ヨーロッパは短期間に手を打った点が違っている。また、ヨーロッパでは民間への貸し付けが堅調であり、日本とは状況が異なっている。長期的にデフレ状態にならなければ、投資意欲はそれほど衰えず、金融緩和策は有効ということなのかもしれない。
以下、ヨーロッパと日本の状況を数字で比べてみたい。ヨーロッパの状況は日本に比べると「たいしたことない」ように思える。また、日本でも民間部門の借り入れやGDPデフレータの伸びは始まっているので「アベノミクスの効果が出ている」のか、と思わせる。一方で物価は上がっておらず、実質賃金も(ここにはグラフがないが)伸びていない。時間差によるものなのか、影響が及ばないのかは今のところはよく分からない。
日本の株価。バブル期の株価がいかに異常だったかがわかる。小泉政権下で少し上がり、民主党政権下では顕著に下げた。株価下落の原因はリーマンショックなので民主党のせいにするのはかわいそうだが、株価を上げられなかったのも事実だ。アベノミクスの影響で株価は回復基調にある。
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企業収益のグラフ。リーマンショックの影響の大きさが分かる。しかし、それ以外の時期では順調に収益が上がっている。
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「民間部門へのローン」というグラフ。企業業績は堅調だが、投資意欲はデフレ開始時期に下がったまま、最近まで上がらなかった。比較に使ったのはヨーロッパ。堅調に伸びていることが分かる。ただし国ごとにかなりグラフの形が異なる。日本の貸し出しは最近になって回復傾向にある。リフレ派のシナリオ(「インフレ期待が強まると投資が堅調になる」)が裏付けられている。
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一方、小売りの売上げ(前年比)は成長が止まっていることが分かる。ヨーロッパはユーロ危機以前は成長していた。しかし、ユーロ危機以降、成長が止まり売上げが落ち込んだ。
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日本の物価(CPI)とヨーロッパの物価(CPI)の変化を調べたもの。ヨーロッパの物価は2014年頃から伸びが止まり、このレベルで「日本型のデフレに突入するのではないか」と騒がれた。日本は20年程物価が上がらない状態が続いており、第二次安倍政権になってはじめてCPIが上昇したが、これは2014年4月の消費税増税によるものだろう。1997年にも物価が上がった時期があるがこれは消費税が5%に上がったからだ。
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中国の物価は変動が激しい。特にニュースにはなっていないが、中国の人たちはどうやって凌いだのだろうか、と疑問になるレベルだ。1990年代の中国には中央銀行制度がなく、地方政府の言うままに通貨を印刷していたのだそうだ。
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日本のGDPデフレータは、デフレが顕在化した1998年頃から最近まで落ち込んでいた。日銀は何回も対策を打ったが効果はなかった。安倍政権になってからは上向き傾向にある。
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ギリシャは大幅にGDPが落ち込んだのだが、デフレータの落ち込み方で見ると日本と良く似たカーブを描いて落ち込んでいることが分かる。
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