ざっくり解説 時々深掘り

バブルとデフレの歴史

バブル

プラザ合意によりドル安が誘導されて円が高くなった。日本企業は不況になり、日銀は経済対策として金利を下げた。お金を借りやすくなった企業は資産バブルを起こし、株や土地の価格が急騰した。これを財テクと呼んだ。本業に力を入れるより財テクした方が手っ取り早く儲けられるようになったのだ。土地の値段が上がったので、企業は銀行からお金を借りてさらに土地を買った。銀行もお金を貸したがった。(なぜバブルは生まれ、そしてはじけたのか? 池上彰

バブル崩壊

ところが、1990年に大蔵省が総量規制を行ない、金融機関の貸し出しを制限したためにバブルが弾けた。1991年のことだった。(なぜバブルは生まれ、そしてはじけたのか? 池上彰
バブル崩壊後の1990年代からリストラが始まったが、終身雇用制が根強く残っていたので、すぐには賃金は下がらず、解雇もできななかった。そこで、子会社への出向などを通じて本体の経営を守る方式が取られた。また、正社員比率を減らすために、非正規雇用を増やしていった。この頃に現在の雇用慣行の芽が作られたのだ。

デフレの発生

金融機関の破綻を先延ばしするために量的金融緩和が実施された効果で1999年代の半ばに金利がゼロになった。GDPデフレータ(名目GDPと実質GDPの比)の伸びもこのころマイナスになった。しかし、1995年頃にはデフレという言葉が議論されることはなかったという。
1997年頃から賃金低下が始まり、1998〜1999年には物価が下がるデフレ状態が生まれた。デフレを脱却するためのゼロ金利政策が1999年からはじまり、量的緩和政策は2001年から実施された。(RIEII 量的緩和政策とデフレ)しかし、量的緩和政策でもたらされた現金は投資に向かわず、国債に投資された。このためデフレは解消しなかった。
この間も銀行には大量の不良債権が残っていた。不良債権処理は2000年頃の小泉政権まで続いた。不良債権処理にいくら使われたのか、正確な数字は分かっていない。10兆円という人もいれば39兆円くらいだろうという人もいる。(日本の経験を教えると見得を切れば恥を曝す 「超」整理日記
2004年に製造業の派遣労働雇用が解禁された。

デフレの定常化とリーマンショック

企業は銀行を頼らずに、現金を貯め込むようになった。デフレ傾向になると円の価値が温存されるため、海外から資金が集まり円高が進行した。また、デフレ状態では実質人件費が高く感じられるので、さらに賃金を下げるために非正規雇用化が進行した。賃金が減少するとさらに経済が縮小しデフレが進行した。このような状態はデフレスパイラルと呼ばれた。
export001円高下でデフレになると日本国内が市場としての魅力を失うので、体力のある製造業は海外に逃避し、生産性の低い企業だけが国内に残った。また、国内への投資は控えられ、企業はさらに現金を貯め込むようになった。2008年にリーマンショックが起きると貿易(輸出入とも)が落ち込んだ。製造業は生産を縮小させ、派遣切りが横行した。派遣切りにあった元派遣社員が秋葉原で殺傷事件を起こした。リーマンショックが終っても、大方の製造業は日本に戻ってこなかった。円高の影響もあり中国から安い工業製品が流れ込み、デフレは継続した。

民主党政権と極端な円安

民主党政権ができた2009年頃から円の値段が100円を切るようになり、輸入品を安く売る企業の業績が伸びた。浜矩子氏の「ユニクロ栄えて国滅ぶ」という記事が話題になったのがこの頃だ。マクドナルドのような格安ファストフード店が業績を伸ばした。

低く維持される非製造業の生産性

非正規雇用が増えると職業教育が行き届かなくなるので、熟練した従業員によって高い生産性を維持することができなくなる。特に生産性の低いサービス業や飲食業などで、アルバイトなのに正社員なみの責任を押しつけられる「ブラックバイト」が横行するようになった。一方、コンピュータ技術(ICT)による生産性の向上も図られなかったので、サービス業(医療福祉・教育・人材派遣・娯楽など)や飲食業では労働生産性は下がっている。飲食業は80%〜90%が非正規雇用だ。生産性が低下した業界ではさらにブラックバイト化が進むことが予想される。

アベノミクス

2012年に安倍政権が成立した。異次元の金融緩和政策が導入された結果円安になった。大手製造業が海外に逃避していたので輸出は伸びなかった。一方で、食費とエネルギーコストが増大し、貿易赤字が発生した。経常収支は黒字だが、儲けが国内で投資されるわけではないので、国民生活に影響を与えることはなかった。日銀はマネーサプライを増やしたが、企業は現金を貯えている上に、投資意欲も高くないので、マネーの需要がなくインフレにはならなかった。
wageデフレから脱却できなかった結果、賃金労働者は貧しくなった。人件費を抑えるために非正規雇用が蔓延し、技術が蓄積されなくなった。安倍政権は「柔軟な働き方を促進する」として派遣の大幅解禁に踏み切った。さらに、企業が投資を怠った結果IT化が進まず経営の効率化が進まなかった。

進まないデフレの理論化

バブル崩壊後一貫して金利は低いままに抑えられていた。これは景気を刺激してインフレを起すためだと考えられている。金利が下げられなくなると金融緩和政策が実施された。しかし、これでもデフレはおさまらなかった。クルーグマンは金融政策を実施すればインフレが起こるはずだと主張しており、アベノミクスはこの考え方を採用している。幾度となく金融政策が取られたが、デフレの解消に成功した日銀総裁はいない。
インフレターゲット派(リフレ派)の考えるシナリオは次のようなものである。なぜ,日本銀行の金融政策ではデフレから脱却できないのか 岩田規久男

  1. 日本でも米国同様に中央銀行が流動性を供給し続ければ予想インフレ率は上昇する。
  2. 予想インフレ率が上昇すると円安になり、株価が上がる。また、生産が拡大する。
  3. 株価が上がると企業設備投資が増える。
  4. 円安になると企業設備投資・輸出・雇用が増えて、輸入が減る。実質GDP が増える。
  5. 予想インフレ率の上昇は名目 GDPを引き挙げる。
  6. 名目GDP の増加は税収の増加をもたらす。

実際に予想インフレ率が上がったので円安株高は起きた。しかし3年経っても国内投資にはつながっていない。賃金が上がらないので需要が増えず、従って生産も拡大していない。そもそも企業が賃金を抑制したからデフレになっただけだという人もいるが、金融政策が物価に影響を与えると信じている人たちからは無視されている。
さらには、ゼロ金利政策こそがデフレを生んでいると主張する学者さえいる(なぜデフレーションが続いているのか – 小林慶一郎)が、一般的には、ほとんど注目されていない。ゼロ金利政策がもたらすデフレをフィッシャー的デフレーションと呼ぶ。


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