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ゼレンスキー大統領の広島訪問で、G7は「悪の専制主義との戦い」の司令塔に生まれ変わる。

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ゼレンスキー大統領が広島を訪問する。被爆地広島から戦争の悲惨さを訴えロシアの非道ぶりを世界に発信する予定だ。既に声明が出されておりロシアが名指しで批判されている。また宣言では「経済的威圧」の牽制が盛り込まれる予定である。もちろん念頭にあるのは中国だ。

と、いうようなリードが期待されているのだろう。このニュースを聞いて驚き、ああやっぱりと思い、最後にやや暗い気持ちになった。G7広島サミットは岸田総理の主張するように歴史の転換点になるだろう。民主主義がもはや「専制主義」というわかりやすい悪なしで存在できなくなったということが実感できる。それでも人々は物語を必要としている。

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ゼレンスキー大統領が広島を訪問するというニュースは最初にFiancial TimesとBloombergが消息筋からの情報として伝えた。そしてワシントンポストがアメリカ政府からの話として同じ話を聞いたことで「確実」ということになったようだ。

まずは当然ながら驚いた。次に「バイデン大統領が訪日をキャンセルできなかった理由」もわかった。ゼンレンスキー大統領の訪日がサプライズならば自分がオンラインというわけにはいかなかっただろう。

さらにどうやら米軍機で来日するようだということが伝えられた。アメリカがシナリオを書き日本が協力したという様子がわかる。ただしこれはBloomberg報道を引用した伝聞であり実際にどうなるのかはわからない。このため朝日新聞は「米軍機で訪日か」となっている。

おそらくゼレンスキー大統領は被爆地広島で「ウクライナも同じようになってはならない」というようなメッセージを投げかけるだろう。これはプーチン大統領が最終的に核兵器を使うかもしれないという仄めかしになる。さらに日本は「ウクライナで起きていることは台湾でも起こるかもしれない」といえる。つまり、訪日は日米同盟に対する宣伝効果がある。

早速声明が発表された。

「ウクライナ国家へのロシアの違法な侵略が確実に失敗するよう、本日新しい措置をとる」として、「必要な限りウクライナに経済的、人道的、軍事的、そして外交的支援を提供すると、これまでのコミットメントを新たにする」と述べた。

首脳たちは、悪の専制主義と民主主義をわかりやすく対置しG7に「専制主義と戦う」という新たな役割を付与しようとしている。

一部「被爆地広島が利用されているのではないか」と考える人はいるだろうがこの「正義の民主主義対悪の専制主義」という物語に夢中になる人の方が圧倒的に多いのではないかと思う。時事通信も「被爆地広島から連帯を訴える」とこの訪問を歓迎している。人々は常に物語を求めており政治家は人々に物語を供給し続ける責任がある。G20によって埋もれがちなG7サミットは「悪と戦う誓いの場」として再浮上し、その物語に夢中になる人たちも出てくるだろう。

岸田総理の掲げるG7のビジョンは「分断ではなく協調」だそうだが、実際には中露を外に置き「その他の世界の協力」を訴えるものになる。BBCは「呼ばれなかった国々」が重要だと冷静に分析する。南半球(アフリカと南米)までをカバーした世界ということになるが、グローバルサウスという対立的な概念は使わなくなった。つまり中露を除いたものが「世界だ」という意志を示した形になる。その「サミット(頂上)」には常にG7が存在し続けなくてはならないのである。

そこで岸田氏は、欧米を超えた、より世界的な連合を求めて、テーブルを伸長した。テーブルをいつもより大きくして、オーストラリア、インド、ブラジル、韓国、ベトナム、インドネシア、コモロ(アフリカ連合代表)、クック諸島(太平洋諸島フォーラム代表)の席を設けたのだ。

特に内政上の問題を抱える国は物語を必要としている。フランスは年金改革を通じて国内が混乱している。イギリスもブレグジットで混乱しており国民に団結の理由を提供しなければならない。バイデン大統領は議会との深刻な対立を抱えており、政治的に作り出されたデフォルトの危機にある。

日本もまた「失われた30年」という現実に直面している。今回は「首脳宣言では中国を念頭に……」という言葉が目立つ。この言葉を聞くたびに「中国の経済成長はどこか間違っている」と安心する人は多いのではないかと思う。

NHKは次のように書いている。

そのうえで、中国を念頭に、輸出制限などで相手国に圧力をかける「経済的威圧」を抑止し対抗するためG7が連携するとともに、標的となる国や組織を支援するとしています。

では実際に何が話し合われるのか。この会議は「世界の頂上」にふさわしいのか。それはそれぞれの人が判断することになるだろう。

CNNは「ロシアが戦争に資金や物資をつぎ込む能力を封じるため新たな対策を発表すると予想されている。」と書いている。つまり更なる経済制裁について話をする。またウクライナ側は更なる軍事支援を求めている。

ただこの制裁はロシアの封じ込めには成功していない。西側が経済制裁を強めれば強めるほど「専制主義」と名指しされた国々は反発する。脱ドル経済圏が成長しロシアの無謀で理不尽な軍事侵攻を継続するための資金を提供することになるだ。

最初にこれを伝えたBloombergは具体的な内容について書いている。

G7の新しい経済制裁はダイヤの監視・追跡に向けた協力なのだそうだ。だがおそらくロシア産のダイヤ取引の全面禁止には至らないだろうとされている。この事前報道を裏打ちするようにイギリスはプーチン大統領関連の企業と個人への制裁を強める考えだ。つまり全面的に禁止するわけではないということになる。

新しい経済制裁措置は提案できないため「現在のスキームを検証し抜け道を塞ぐ」方法についても熱心に話し合われている。

ウクライナはより強い武器の提供を求めているがアメリカは応じてこなかった。「ロシアを刺激するかもしれない」というのがBloombergの説明だが、おそらくはウクライナが暴走しかねないという懸念があるのだろう。アメリカにとってみればウクライナは戦い続けてくれた方がいい。その間だけは専制主義を思う存分批判し続けることができるからだ。ただし、アメリカはF16の供与を決めたようだ。全くのゼロ回答というわけにはいかなかったのだろう。

G7が世界のリーダーという位置付けから中露排除の仕組みに変質しつつあるなか、岸田総理が言っていた「新しい資本主義」も「経済安全保障」という言葉に置き換わりつつある。G7首脳宣言に「経済的威圧に対抗」という言葉が使われるのはそのためである。岸田総理は結局「新しい資本主義」の形を内外に示すことはできなかったがもう宿題はやらなくて良い。

これは安全保障だけでなく資本主義というものが「専制主義」という悪の存在抜きに成立し得なくなっているということを意味しているのであろう。

このように西側先進国が存在するためには「誰がが代理で戦い続けなければならない」ことになる。G7は支援はするが当事者にはなりたくない。ウクライナはそのために選ばれてしまったということになる。これは国民にとっても指導者にとってもとても過酷な運命と言えるだろう。

ウクライナは国内で政治腐敗と戦い続けている。これが解決するまで彼らが西側に迎え入れられることはない。彼らは「いつか」を夢見つつ外側で悪の専制主義と闘い続けている。

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