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CNNが明らかにした根強いトランプ大統領待望論とその背景

トランプ前大統領が「アメリカは一度デフォルトしたほうがいいかもしれない」として物議を醸したタウンホールミーティングだが、実は視聴率が非常に良かったそうだ。メディアバイアスでは「やや左寄り」とされているAXIOSがこの状況について分析している。背景にあるのは若年有権者の政治疲れである。不毛な論争に耽溺する政治言論にうんざりしている人たちが増えているようなのだ。ただジャーナリズムとプロの政治家たちはこのトレンドをしばらく過小評価するのではないかと感じる。

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トランプ前大統領のタウンホールミーティングは330万人の視聴者を集めその日一番多く見られたケーブルテレビ番組になったが「トランプ氏に嘘をつく機会を与えた」ということが批判された。

ネットワークCEOのクリス・リヒト氏にはCNN内部からも「ひどいショーだ」とか「大惨事である」というような批判が集まった。リヒト氏は、トランプ氏の支持者も「アメリカの広い聴衆を代表している」として今回の放送を擁護している。CNNは長い間トランプ氏には批判的な対応で知られてきた。しかしながら、リヒト氏の対応を見ているとCNNも中道化を図ろうとしているということがわかる。これ以上、左派・リベラルを応援していても実際の購買につながる若い視聴者を獲得できないということに気がついているのだろう。メディアにとって最も重要なのは内容ではなくスポンサーなのだ。

AXIOSによるとこのタウンホールミーティングはCNNのスポンサーとして重要な25才から45才にかけての視聴者を78万人も動員した。これは通常のアンダーソン・クーパーが司会を務める通常の番組の4倍以上の動員率だった。2016年以降では2020年のジョー・バイデン氏のタウンホールミーティングに次ぐ高視聴率を叩き出しているが、FOXのトランプ氏のタウンホールミーティングよりも動員数が少なかったとAXIOSは結んでいる。

さまざまな媒体が伝えるようにどうやらアメリカではメディアの「揺り戻し」が起きている。中には政治的に中道に戻ろうとしていると評価する人もいるのだが、メディアの激しすぎる論調についてゆけなくなっている人が多いのかもしれないと思う。

CNNは経営上の理由から軌道修正を図っていると思われる。事実、リベラルマーケティングは儲からなくなってきている。これはアンハイザー・ブッシュのバドワイザーライトのキャンペーンを見ても明らかだ。

CNNは商業的な理由からリベラル離れを起こしているがFOXニュースは訴訟に巻き込まれ流可能性がありそうなクリス・タッカー氏を降板させている。分断されたと言われてきたアメリカのメディアはそれぞれ経済的な理由から軌道修正を図っている。FOXニュースの修正は視聴者数を短期的には減少させるだろうが「訴訟に巻き込まれるよりはマシだ」という計算がある。

「政治の他人事化」も進行しているようだ。今回のミーティングでトランプ氏は盛んに「今回の問題は馬鹿な政治家たちが引き起こしていることであって我々には関係がない」と主張していた。これは「所詮は全て政治的問題であって我々には関係ない」と思いたい聴衆たちに受け入れられやすい提案と言えるだろう。バカなのは政治家であって「我々ではない」というわけである。

だがこの「他人事化」についてメディアはまだ正しく認識できていないようだ。

アメリカの報道を見ると「リベラル系の団体が大惨事を引き起こしたCNNに憤っている」というものが多い。民主党のオカシオ・コルテス氏は今回の件でCNNを批判している。またこれまでCNNを御用達にしてきたリベラル系の団体もCNNを批判している。

一方でBBCはタウンホールミーティングでは「共和党のライバルたちがトランプ氏を攻撃した」と書いている。一方で民主党の人たちはこれを「内輪揉め」だとみなしほくそ笑んでいるというのだ。

ただ、BBCの記事には気になる一節がある。

一方、トランプ氏の選挙運動チームは、この夜は成功だったと主張した。トランプ氏はゴールデンタイムで1時間以上も注目を集めた。集会の会場に現れた時にはスタンディングオベーションを浴びた。観客はトランプ氏のジョークに笑い、コリンズ氏と言葉を応酬させるトランプ氏に拍手を送った。

実際の討論を見るとこれが誇張ではないことがわかる。例えば「私は大統領ではないから知らない」といったような「私たちには関係ない」という発言が受けていた。

おそらくこうした空気は日本とも共通するものがあるように思われる。

日本で民主党が嫌われたのはおそらく有権者の「フリーライダー警戒アンテナ」に引っかかったからだろう。官僚が埋蔵金を持っているから増税はしなくてもいいというのが当初の主張だったわけだが、結局国民は消費税増税を押し付けられた。その後国民は「民主党が何かを提案してもそれは単に我々を騙そうとしているからである」と感じるようになる。一度「フリーライダー警戒アンテナ」に引っかかるとその後は何を言ってもまともに聞いてもらえなくなる。

そもそも政権批判も「政治家たちがシステムにフリーライドしているのが許せない」から国民に支持されている。「立憲主義に基づいた正しい政治が行われるべきである」などと考える人よりも「フリーライダーに自分のリソースを奪われたくない」という人が多いのだ。

有権者は「フリーライドをするズルい人たちは酷い目にあえばいい」と考えて日本の民主党を応援し、その結果として「実は民主党こそがフリーライダーだった」と考えるようになった。これが現在も立憲民主党や市民運動が支援されなくなった理由である。

一方で維新が支持されているのも「政治家というのは所詮何もしない人たちであり、酷い目にあうべきだ」というフリーライダー警戒の感情によって動かされているからである。トランプ氏が同じような文脈で支持されるようなことになれば、おそらくトランプ支持はさらに盛り上がるはずである。

仮に今回のタウンホールミーティングでトランプ氏が「現在のややこしい政治問題は全て政治家たちが勝手に作り出した問題であって我々には関係がない」と思わせることに成功したとすると、おそらく今後トランプ氏の人気は高まってゆくだろう。

こうなると、恐ろしいことにそうなると「トランプ氏が多少の嘘をついたとしてもそれは大した問題ではないのだ」と思われることになる。つまり「他人事化」が進めば進むほど、倫理的な感覚は失われてしまうのだということになる。こうした脱倫理化も日本ではよく見られるようになった。

その意味ではアメリカと日本の政治はどことなくリンクしていると言って良いのではないかと思う。

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