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トランスジェンダーを起用したバドライトの広告でアンハイザー・ブッシュの株価が大幅下落

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FOXニュースのYouTubeチャンネルで興味深いプレゼンテーションを見つけた。バドワイザーで知られるアンハイザー・ブッシュが「政治化」しているというのである。アンハイザー・ブッシュはこの「政治化批判」のせいで株価が落ち込み時価総額が50億ドル失われたなどと報じられている。ここではバドワイザーとアンハイザー・ブッシュに何が起きたのかを確認しそもそもFOXニュースが何を「政治化」と言っているのかについても検討する。

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CBSニュースによればバドワイザーの売上が減ったきっかけはトランスジェンダー俳優でソーシャルメディアのスターであるディラン・マルヴァニーとのキャンペーンだった。ディラン・マルヴァニーはTikTokで1080万人のフォロワーを持っているインフルエンサーの一人だ。

おそらくバドワイザーは新規顧客開拓のために若年層に向けたサブキャンペーンを実行したのだろう。対象商品はバドライトだった。軽い飲み口を強調しビールが苦手な人たちにも飲んでほしいというような商品である。

ところが、これが保守派の感情的な反発を招き、66.73ドルだった株価は63.38ドルまで低下した。株価の「暴落」というほどの規模でもなさそうだがわずか10日程度の間に50億ドルが失われた計算になるそうだ。

時価総額が50億ドル失われたことでアンハイザー・ブッシュは軌道修正を迫られた。会長は声明を出し、アメリカンスピリットを象徴している馬が登場する「愛国的な」CMも流した。

保守派は大喜びしている。大統領選挙でトランプ氏の有力なライバルと見做されているディサンテス知事は「アンハイザー・ブッシュは意識高い系(woke)すぎた」と批判した上で、人々は不買運動を通じて企業に説明責任を果たさせることができると言っている。改革派に対する反感が政治的に利用できるとよくわかっているようだ。

冒頭に紹介したFOXニュースのYouTube番組では次のように説明されている。

企業は営利追求だけしていればいいのだが、一部の「意識高い系の従業員」や過激な市民活動家にそそのかされて「政治化」する企業がある。そしてその「政治化」とは「人々の常識に挑戦した」ことである。

ディラン・マルヴァニーと提携して炎上している企業は他にもあるようだが特にブルーカラーが支持する飲み物であるビールの提携は「普通のアメリカ人に対する裏切り」と見做されたのだろう。

アメリカでは経済が好調な両海岸を中心に民主党に代表される改革派の人たちが肩で風を切って歩いてきた。経済を支えてきたのはインド系や中国系などの移民である。経済が好調だった時代「価値観の変革」を訴える企業広告には売上を増加させる効果があった。その一方で彼らの好調ぶりを指を咥えて見ているだけというような人たちも大勢いたことだろう。

しかしながら、徐々に経済への先行きに不透明感が出てきている。すると、これまでの改革運動に対する反発だけが残った。取り残された人たちは「自分達こそ普通のアメリカ人だ」と信じておりトランスジェンダー運動などの改革運動は社会に対する破壊運動だと考えている。だが、あるいはその根底にあるのは単なる成功に対するやっかみと嫉妬心かもしれない。

経済が好調ならば、アンハウザー・ブッシュのキャンペーンもかつてはサブセグメント向けの広告として十分に成立していただろう。ところが現在のアメリカではこれが成り立たなくなっている。仮にディラン・マルヴァニーが熱烈な民主党支持者であり共和党を罵倒してきたというのであればまだ話はわかる。だが、バイデン大統領にインタビューをしたことがあるという程度のつながりしかないようだ。ディラン・マルヴァニーは「いいね」の数だけ嫉妬を集めているのかも知れない。

こうした妬み嫉みの気持ちはアメリカの経済に少なからぬ影響を与え始めているようだ。

共和党が主導する下院は債務上限引き上げを人質にしてバイデン大統領の「意識高い系政策」を潰そうとしている。バイデン政権はこの取引に応じるつもりはないようだ。

このため少しづつではあるがアメリカ合衆国政府が債権者に支払いができなくかもしれないという「Xデー」の可能性が出てきており、普段は堅実な投資とされている米国債の価格に影響が出始めている。

人々はわずかながらではあるが一時的にでも国債の支払いが滞りかねない「デフォルト」の可能性を予想し具体的な備えを始めているのだ。

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