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G7前に岸田総理の「悪人顔」のTIME誌がSNS上に拡散

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G7広島サミットが迫ってきた。岸田総理は日本の歴史上最も重要なサミットになると意気込みを語っているのだが、外交大惨事になりかねない事態が発生している。日本は軍拡に向けて邁進しているとする内容の記事がTIMEに掲載されて出回っている。官邸の稚拙な危機管理から「内容修正」を試みたことでさらに悪人顔の表紙がバラまかれることになった。国内でも「政治ニュース」に格上げされてしまったからである。TIME誌がどこまで計算していたのかはわからないのだが、宣伝効果は抜群だっただろう。

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G7広島サミットが迫ってきた。岸田総理の地元開催であり「日本の歴史上で最重要サミットとなる」と意気込みを語っている。

おそらくその前宣伝の一環だったのだろう。アメリカの有名雑誌TIMEに岸田総理の顔写真が掲載された。雑誌が出た時の評判は悪くなかった。「日本の総理大臣があのTIMEの表紙を飾った」と誇らしく思った人も多いに違いない。TIMEは「世界に影響力のある100人」などの企画で知られており、その雑誌に取り上げられることは栄誉に違いない。ちなみにメディアバイアスでは「やや左寄り」だと捉えられている雑誌である。

この時「この表紙には悪意がある」と感じたがとにかく世界に取り上げられることを無条件で喜ぶ傾向がある日本人はあまり気にしなかったようである。

ところがこの後空気が一転する。WEB版で「岸田総理は思い切った軍拡に舵を切った」という点が強調されていることがわかったのだ。外務省は早速TIME誌に申し入れをして記事を変えさせた。当初の内容は「岸田氏は何十年もの平和主義を捨てて、日本を真の軍事大国にしたいと望んでいる」というものだった。

松野官房長官は記事について「結論では岸田総理の意向が反映されている」と苦しい釈明に追い込まれた。

ここから先は「ちょっとしたPR惨事」に発展する。TIMEのあの表紙が「日本を軍事大国にしたい」という当初の主張と重ね合わされてSNS上に拡散したのである。TBSテレビ朝日などが伝えTwitter上で悪人顔の岸田総理の写真が盛んに出回った。記事が引用されると自動的にTIMEの表紙がカードに付加されるため、Twitterで初めてあの表紙を見たという人も少なくなかっただろう。

おそらくもともとTIME誌は「リベラル寄り」のメディアとしてあまり軍拡には良い印象を持っていないものと思われる。表面上は戦争反対を提唱しながらも実際にやっていることは「軍拡」ですよと言いたかった可能性がある。

ただ、ここで抗議をしてしまうと「日本政府が圧力をかけたので渋々表現を変えました」という見た目になる。ジャーナリズム村しかない日本ではこの程度の稚拙な対応を「リスクコントロール」だと思っているのだろうが言論の自由が発達しておりメディア間競争も激しいアメリカでは通用しない手法だろう。雑誌はWEB版では淡々と内容を変更しつつ「雑誌では本当の記事が読めますよ」と宣伝できる。しかも、その宣伝は他のメディアが「政治報道」という形で自動的にやってくれるのである。

アエラドットの記事は今回の件を冷静に分析している。おそらくアメリカには日本の軍拡に期待する声があるとした上で、アメリカが日本に持っている期待を十分に表しているという内容になっている。つまり、アメリカには日本の軍拡に期待する声があり当然それに対して異なる意見を持っている人たちもいるということになる。記事の中には次のような一説がある。

「記事の中の写真では、暗い背景の中で鋭い目の岸田首相が映っています。記事の見出しは穏当なものに変わりましたが、写真は依然として『強い意思で軍事力の強化を急いでいる』という岸田首相に対するアメリカのイメージを表していると思います」

今回の「PR惨事」が起きた裏にはいくつかの要因があるだろう。

第一に日本人は極端に「アメリカ人がどう考えているのか」を気にして行動するところがある。LGBT法案を急いで準備しているところからもそんな様子が伺える。アメリカに嫌われたくないという気持ちがとても強いのだ。実際には「アメリカと言っても色々なアメリカがある」のだがそれには無頓着である。このため「アメリカのメディア」がどう取り上げているかが政治的に極めて重要になってくるのだ。

第二にイメージ戦略の不在がある。おそらく日本側にイメージ担当の広報戦略官がいればそもそもこんなライティングで下から睨みつけるような写真は撮らせなかっただろう。ジャーナリズム村がある日本には「忖度」の文化もあり、さらに後からなんとでも差し替えができるという安心感がある。だが欧米メディアでは一度写真を押さえられてしまえば後日修正はできないと思った方がいいだろう。首脳のイメージ管理は国家的な安全保障対策と言っても大袈裟ではない。普通の日本人がプーチン大統領や習近平国家主席の顔写真とロシアや中国のイメージを重ね合わせるのと同じことである。

第三に日米文化の違いがある。日本では「神輿にのって」イメージを周りから作ってもらうことがよしとされるのだが、欧米文化では自らがコントロールするくらいの気持ちでいた方がいい。受け身のイメージ戦略は結局相手に自らのイメージをコントロールされかねない。その後で「自分の期待とは違っていた」と騒げば騒ぐほど当初の見通しの甘さが浮き彫りになってしまうのだ。

今回の件で世界がどの程度岸田総理とTIMEの表紙に注目しているのかはわからない。仮にこの写真が英語圏に広く流通すると「表面的には世界平和について語っているものの、ウラでは軍拡を企んでいる」というネガティブな印象が尽きかねない。既に出てしまったものなので取り返しはつかないのだが、TIMEの記事の内容云々よりも、普段国内ジャーナリズムとの馴れ合いが進んでいる日本の危機管理能力の欠如が浮き彫りになったと言えるのかもしれない。

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