アメリカ連邦政府がデフォルトするかもしれないというニュースは2023年1月以降継続して囁かれてきた。Bloombergが「米債務上限の特別措置、残り880億ドルに-1週間前は1100億ドル」と書いている。11兆円(880億ドル)と書かれると「なんだ11兆円もあるのか」という気になるのだが、差分を書かれると緊迫感を感じる。デフォルトの影響というよりアメリカの国際的な評判に与える影響が大きいのかもしれない。
アメリカでは議会と大統領の間に対立が深まっている。バイデン大統領は「G7サミットまでには間に合わせる」と言っているのだが解決の見通しは立っていない。交渉は来週も継続して行われる。前回はオバマ政権時代に同様の危機があったがこの時は直前に回避された。そのため「今回もまあなんとなるのではないか」と楽観視する人が多い。ただし決着はギリギリになるだろう。前回もそうだったからだ。
今回のデフォルト危機については継続して記事を書いてきたが当初は全く閲覧する人がいなかった。アメリカがデフォルトするなどと思っている人はおらず「どうせ煽りだろう」と思われたからだろう。
潮目が変わったのは「G7にバイデン大統領が来られないかもしれない」という報道が出た時だった。「あの大切なG7に来られないほど大ごとなのか」と感じた人が増えたからであろう。つまりバイデン大統領が直前に来日をキャンセルしてしまうと「いよいよ大ごとなのか」と思う人がさらに増えそうである。
市場はアメリカの財政破綻は単なる政治的イベントだとわかっている。ところが一般市民はそうは思わないかもしれない。自分が知っているもの同士を比べてインパクトを測ってしまうからである。アメリカ人はこの手の対立になれているためさほど驚かないのだが「普通の日本人」にとってみれば何かとてつもなく大きなことが起きているように思えてしまうかもしれない。
つまり実際の影響もさることながら「アメリカのイメージ」が大きく毀損されることになりそうだ。
すでに影響は出ているようだ。世界経済が悪化していて新興国を中心にデフォルト懸念が高まっている。当然G7財務大臣・中央銀行総裁会合ではこの点が問題になる。アメリカは「世界を救う側」としてリーダーシップを期待されている。
ところが今回はそのアメリカが議題になったようだ。
鈴木財務大臣はイエレン財務長官の立場を慮って何が表明されたのかについては明らかにしなかった。「広く一般に周知させることができないほど深刻な問題が起きている」ことがわかる。
世界銀行総裁は、先進国が債務問題に苦しみ「本当に困っている国々の救済」が滞っていると懸念を表明している。また、アメリカ合衆国が国内のインフレ対策を優先し金利を上げていることも心配している。
このように金融市場からも西側先進国のリーダーからも厳しい視線が注がれている。バイデン大統領がG7で「民主主義は素晴らしい!」などと言ってみても「あなたの国の財政は大丈夫なんですか」ということになりかねない。バイデン大統領は来日前までにこの問題を解決したいはずだが、問題は共和党がこれに協力してくれるかどうかである。
議会共和党もおそらくは本音では「悪者にはなりたくない」と感じているだろう。問題を曖昧にしたままで引き伸ばしたいに違いない。
ここで問題になってくるのが現在は部外者であるトランプ氏である。場外から盛んに「民主党がこのまま無駄遣いを続ければアメリカはどっちみち破綻する」から「民主党が心を入れ替えないならアメリカは一度痛い目を見るべきである」などと状況を煽っている。
この声に賛同する人もじわじわと増えているようだ。政治を他人事と捉えており自分達や世界に与える影響を過小評価しているのだろう。アメリカの政府の財政破綻はそれが例え一時的なものであってもアメリカ市民の生活を脅かす。これを「他人事」と感じる人は状況を過小評価し議会共和党の妥協を難しくしている。
ほとんど起こることはないのだろうが、Xデーが来ると日本にはどのような影響が出るのだろうか。
アメリカ経済が減速すればアメリカに貿易をしている企業は少なからず打撃を受ける。さらに先進国の枠組みが発展途上国を救済できなくなるとおそらくデフォルトするかデフォルト前の「断末魔」に苦しみ政情が不安定になる国も増えるだろう。我が国は原材料や食料品を輸入している国の中にも一時的に貿易ができなくなるところが出てくるかもしれない。
この他には投資をしている人にとっては緊張の3週間になりそうだ。ロイター(日本語版)は次のように書いている。
そこまで事態が悪化すると、日本にも株安・円高の波が押し寄せて大きなショックが発生する危険性も出てくる。6月1日までの3週間は緊張を強いられるだろう。