「シリコンバレーバンクとシグネチャーバンクが破綻した時「当局の金融政策は適当だったのか」と話題になっていた。このほど調査報告が出された。原因の一つは人手不足なのだという。
米連邦準備理事会(FRB)と米連邦預金保険公社(FDIC)が28日にそれぞれレポートを公表した。主な原因は銀行側にあるとしながらも、それを見逃したのは人手不足のせいであると結論づけた。つまり、自分達(FRB)の金融政策の過ちは認めなかった。
ただし、人手不足は本当だったようだ。
- FRBの報告書によると、銀行部門の資産は2016─2022年に37%増加したが、同じ期間にFRBの監督要員の数は3%減少した。
- FDICの報告書によると、ニューヨーク地域の監督要員のポジションは20年以降は平均40%が空席か、臨時職員で占められていた。
自ら自浄作用を働かせるとしながらも「予算が足りないからなんとかしてください」という宣伝に利用するという事例は日本でもたまに見かける。スリランカ人女性が入管で亡くなった事件で「お医者さんを置くお金がなかった」とした最終報告書が出されたことは記憶に新しい。アメリカでもそのような手法がとられることがあるのだなと妙に感心した。
特にシグネチャーバンクのあるニューヨークは物価高が激しかったようだ。スタッフの継続雇用が難しく状況が悪化した可能性があるとしている。
現在も危機は続いている。
サンフランシスコに本社を置くファーストリパブリックの最新の決算で預金流出が明らかになっている。おそらく破綻は時間の問題だ。読売新聞は破綻前に救済されるのではないかと報道していたが、結局FDICが管理下に置くというアイディアが浮上しているという。「落城」は時間の問題だ。イエレン財務長官はJPモルガンのダイモン氏と会合を持っていたが「破綻してから買い叩いた方が安値で買える」という計算も働いているのかもしれない。またオンラインバンキングを通じて簡単に預金が移せるので一度悲観的な報道が出ると預金の流出が止められなくなるということもわかる。
- 米財務長官とダイモン氏、14日にファースト・リパブリック支援協議=関係筋(ロイター)
- 米ファースト・リパブリック・バンクを支援、4兆円預金 米大手11銀行が協調(BBC)
- ファースト・リパブリック銀、リーマン後最大の米銀破綻の恐れ…大手銀が買収の動き(読売新聞)
- 米ファースト・リパブリック、預金1000億ドル超流出 選択肢模索(ロイター)
- 米FDIC、ファースト・リパブリックを近く管理下に=関係筋(ロイター)
アメリカ合衆国はオバマ政権時代にリーマンショックを経験している。この時に金融機関の監視を強化したはずだった。だがトランプ大統領時代になると次第にこうした規制は骨抜きになる。さらにバイデン大統領の時代になり積極的な財政出動が行われた。その後をコロナ禍が遅い、コロナ禍からの回復過程でインフレが加速するとこの時に準備した「ただ酒(パンチボール)」が片づけられてしまう。しかしながら金融機関への監視網は充実しておらず、今回のような危機を招いたものと思われる。
FRBのレポートの起点になっているのはオバマ政権の末期なので「トランプ政権になってから金融資産の拡大が起きた」とFRBは言いたいのだろう。一方でFDICはバイデン政権が誕生しコロナ禍が本格化した2020年を起点にしておりバイデン政権下で十分な対策がとられなかったと指摘する内容になっている。ただ現状を見ていると一つの政権のせいにするのはなかなか難し胃のではないかと感じる。
市場がこの報告書にどのような評価を下すのかはまだわからないのだが、とりあえず「監視する人がいれば破綻の兆候は事前に見つけることができたのに」というのが当局の見解ということになる。