岸田総理がアフリカの歴訪に旅立った。林外務大臣は中南米を歴訪し「グローバルサウス」を二人で分担することになる。職場で同僚と話すときには「台頭する中国を念頭に法の支配の重要性を広めに行ったのだ」と説明すると良いだろう。この記事でカバーする範囲はそのちょっと先の話であり、特に知らなくても構わないが実はエジプト経済は破綻しかけている。破綻しかけているのだが地政学上での重要性は増しているという状態だ。
職場や学校で周りの常識に合わせるのは非常に重要である。今回の場合は、時事通信のこのフレーズを暗記しておけばいいだろう。この時に「こうした国々は近年グローバルサウスとして重要性が増している」などと付け加えれば、職場では国際情報通として通用するはずだ。
実際の会談は次のように総括されている。
ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、両首脳は法の支配に基づく国際秩序の維持など普遍的価値の重要性を確認した。
ここから先は、あまり知らなくてもいい話である。実はエジプト経済は破綻しかけている。
概要だけ説明すると次のようになる。新型コロナによる混乱で経済が疲弊しIMFに救済を求めた。IMFの救済には厳しい条件がつく。資金援助を求めても交易条件は変わらないので通貨は下落を続けている。しかしIMFから監視されていて「バラマキ」による国民救済も難しく通過防衛のための金利操作もできない。そんな状態だ。
- エジプトとIMF、30億ドル支援で実務者合意(日経新聞)
- エジプト都市部インフレ率、1月は25.8% 5年ぶり高水準(ロイター)
- エジプト、通貨10カ月で半値 IMF支援で板挟み(日経新聞)
北アフリカのアラブ圏では「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が起きた。だがこの地域にとって民主化とは「混乱」の言い換えに過ぎない。エジプトはシシ将軍がクーデターで政権を転覆しそのまま大統領に就任した。
時事通信は「法の支配の重要性」を確認しあったといっているのだが実際のシシ大統領は軍閥に支えられた独裁者である。おそらくメディアはそのことがよくわかっているのだがやはり官邸の主張と違ったことは書けないのだろう。
ではなぜ西側はシシ大統領を非難しないのか。第一にアラブ圏の市民たちが議会制民主主義を信じていない。アラブ系では細かく分かれた小集団が利益誘導に邁進し、国全体としてまとまれない場合が多い。次にソマリア、エチオピアなどに混乱が拡大し曲がりなりにも安定しているエジプトに重要性が増している。地域混乱を抑えるためにはどうしても近隣国の協力が必要だ。最近この「破綻クラブ」にスーダンが仲間入りした。エジプトはスーダン国軍との間に関係があり仲裁者としての価値が期待できる。やはりアラブにはアラブの流儀というものがあるのだ。
最後にシシ大統領の側にもメリットがある。
シシ大統領は軍閥に支えられている。つまり軍閥を食べさせてゆかなければならない。そのために考えついた「錬金術」が砂漠の土地を売ることだった。
元々は砂漠であっても「土地が値上がりする」という実績さえできれば土地を買う人は出てくる。つまりバブルを人工的に作ればいい。ただ近年の「通貨価値が半分に下落した」という情報を見る限りにおいてはこの作戦も破綻しつつあるのだろう。都市にはそれを支える産業が必要である。おそらくエジプトにはそれがない。
軍閥がお腹を空かせれば機嫌が悪くなる。その上に立っているシシ大統領の身の安全は保証できない。なんとしてでも援助してもらえるところから援助してもらいたいと考えるだろう。
現在のエジプトの状況は通貨が急激に下落し、都市の生活が困窮し、IMFから緊縮財政を言い渡されているというものである。アルゼンチンほど極端ではないが状況はかなり悪い。おそらくこれに新首都建設の借金問題が入る。この際に中国から「つまんで」いれば中国への返済を優先することになりシシ大統領の首は回らなくなるだろうが、この辺りは破綻するまでよくわからない。
ここまで読むと「岸田総理は何か無茶な援助を引き受けて帰ってくるのではないか」と心配になる。だが、その心配はなさそうだ。時事通信は次のように書いている。
そもそも中国には勝てないので、適当に相手から話を聞き、いくつかの希望に応えてやり、日米欧に引き込みたいと考えているようだ。世間の関心はほぼないだろうから「岸田総理もG7議長として張り切っているんだろう」という印象さえ残れば作業は終了といったところだろう。
エジプトの経済は破綻しかけているが、仮に何もしないでいると「脱米ドル陣営」に参加しかねないという事情がある。すでにBRICS銀行という枠組みができていてエジプトもこれに参加している。
現在の加盟国は、BRICSの5カ国に加えて、バングラデシュ、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)が新たに加わった。
さらにBRICS本体にはイランとアルゼンチンが加盟を申請しているという情報がある。
混乱する東アフリカ情勢に加えて、ロシアや中国との間に囲い込み競争がある。だから、日本も何もしないわけにはゆかないという情勢である。
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